言峰神父の間違いだらけの恋愛相談
「ふう…」
英雄王は溜息をついた。
手には一枚の色褪せた写真。
彼が10年間大事にしたセイバーの写真だ。
入浴中の。
万難を排して盗み撮りした。
「何故我の物にならん、セイバー」
花瓶に挿してあった花を取る。
「セイバーは我の事が、スキ、キライ、スキ、キライ…」
みるみる内に花びらがむしられてゆく。
「……」
「キライ、か」
「なっ!?」
思わず後ずさるギルガメッシュ。
背後には言峰が立っていた。
「見、見たな貴様っ!!」
「ああ、お前が盗み撮りした入浴中のセイバーの写真を見て溜息をつき、それから花占いをする様、この8ミリで撮らせてもらった」
「長い付合いだったが今日が最後のようだな」
「なんだYO、ギルっち、そうゆう事は親友である俺に相談しろYO〜♪」
「我をギルっちなどと呼ぶな。後、ムカツクからその喋り方も止せ」
「仮にも私は神父だ。悩みなら相談に乗るぞ?」
「信用できるか」
この変態が。
「はっはっはっ、これでも私は結婚経験者だぞ?それに意外とモテる」
「ああ…」
虚ろな眼をしてマーボーを口に運ぶランサー。
彼の前の主は言峰に誑かされて舞台から消えた。
「何でこんな奴に…」
ランサーは痺れた舌にバターの塊りを乗せる。
こうでもしないと辛さで発狂してしまうのだ。
「いや、やはりいい。お前の手は借りん」
「いいのか?このままではセイバーは衛宮士郎のモノになってしまうぞ」
「な、何!?あの雑種の!?」
「ふむ、同じ屋根の下で若い男女が2人きり」
「時間の問題だな」
ランサーが頷く。
「しかも奴はセイバーに毎日手料理を食べさせている」
「餌付けされちまうな」
「くっ!!」
「…話しだけでも聞かんか?」
「わかった、聞くだけ聞いてやろう」
「そうこなくてわな」
神父はニヤリと笑った。
「まずレッスン1だ」
「何だ、そのレッスン1とは」
「いくつか案を出してやる。好きなのを選べ」
「成る程」
「まず恋文だ」
「恋文だと?我は楔形文字しか書けん」
「10年もこの国に住んでいるのに情けない奴だ。しかたない、私が代書してやろう」
「…言峰」
初めてマスターの意気を感じるギルガメッシュ。
何だよ、いい奴じゃん。
「うむ、まず我のモノになる事がいかに名誉なことか記せ。あと今までの無礼を我に詫びて、その証としてあの雑種を殺すように伝えろ」
「ふむふむ」
ランサーは後ろから言峰の書いた手紙を覗き込む。
ヤらせろ
やりやがった。
ニヤリと笑い、手紙を封筒に入れハートマークのシールで封をする。
その速さは将に神速。
「これを下駄箱の中に投函するのだ」
「何だと?何故、恋文を下駄箱などに入れなければならないのだ?」
「これがこの国の習慣だ。郷に入っては郷に従え」
嘘八百並べてやがる。
「ではレッスン2だ」
「うむ、話せ」
「まず道の角でセイバーと接触しろ」
「は?」
「出会い頭にぶつかるのだ。それで両方倒れて、スカートの中のパンツを覗け」
「…いきなりぶつかって下着を覗く男に女が好意を持つのか?」
「ええい、わからん奴だ。これを読め」
言峰は、ドサドサと書物を落とす。
「我はこの国の文字はわからんと言っただろうが」
「絵が描いてあるから、そこから察しろ」
それらの書物は少女漫画と呼ばれるものだった。
それもだいぶ古い奴だ。
「むう、確かに最初は険悪だが段々と親近感が増していって、おお!!」
「どうだ、わかったかギルガメッシュ」
「ああ、この次の巻はないのか?」
「ない」
「……そうか」
心底ガックリうなだれるギル。
ホントはあるんだろうとランサーは心の中でツッコミをいれた。
「最後にレッスン3だ。これは簡単だ。セイバーがピンチのとき颯爽と登場して救出するのだ」
「おお、我好みのやり方だ」
「そうだ、お前は戦闘能力だけなら誰より高い。衛宮士郎など敵ではない」
「ふっ、我を見直すセイバーの顔が目に浮かぶわ」
「よし、これでお前は完璧だ、逝けギルガメッシュ!!」
「おう!!」
英雄王は言峰に渡されたラブレターを手に軽やかな足取りで出て行った。
「ランサー、お前は衛宮邸に行け。私はセイバーを張る」
キュッ、キュッとハンドカメラのレンズを嬉しそうに磨く言峰。
「ふふふ、先輩の足のニオイ…」
衛宮邸の玄関で士郎の靴をくんくんと嗅ぐ桜。
傍目にはシンナーやってラリッてる感じだ。
「え!?そんな靴を舐めろだなんて…」
『さっさと舐めろ、このメスブタが!!』
脳内妄想爆走中。
「ああ、そんな変態みたいなまねできません…」
『いいからやるんだよ!!』
「ああ、先輩の命令なら桜は何でも従います」
ぺろぺろと靴の先を舐める桜。
何だかとてもいけない事をしているようで彼女は燃えていた。
「…ふう、今日も堪能しました」
後でばれないよう念入りに靴を拭く。
それから靴を下駄箱にしまおうとすると…。
「これは?」
ラブレター?
問答無用で封を引き千切り手紙を読む。
ヤらせろ
………
……
…
「きたーーーー!!!!」
これはアレですね!?先輩は私がやっている秘密の儀式に気づいてこんな場所にらぶれたーを置いたんですね!?
手紙を胸に抱きゴロゴロと転がる桜。
「何やってんの、桜?」
「なっ!?」
思わず後ずさる桜。
玄関には凛が立っていた。
「見、見ましたね姉さんっ!!」
「ええ、貴女が士郎の靴を犬みたいにペロペロ舐めて、それからゴロゴロ悶える様を見させてもらったわ」
「短い付合いでしたけど今日が最後のようですね」
「一応私は貴女の姉だから、悩みなら相談に乗るわ」
「信用できません」
このあかいあくまが。
「ふふふ、姉さん、もう勝負は決したんです」
「はあ?」
「これを見てください!」
ヤらせろ
「なっ!?」
「この玄関を掃除するのは私だけ。つまりこれは私宛のラブレターです!」
勝ち誇る桜。
「…桜」
凛は哀しそうに頭を振った。
「何ですか負け犬さん?」
「貴女は私の大事な妹よ?こんな下品な手紙は姉として許せないわ」
「…姉さん」
「だってそうでしょう?こんな女を物みたいに扱う男…」
ポク!
桜の延髄に凛の手刀がきまる。
「きゅう!」
桜、昏倒。
「…絶対に許せないわ!!」
びーびーびー!!
結界が発動した。
「敵か!?」
俺は身構えた。
まずい。今、セイバーはお使いに行っている。
1人で持ちこたえられるか?
「士郎――――!!」
あかいあくま来襲。
死ぬかも。
「な、何だよ遠坂!?」
遠坂は何も言わずにすぅと手紙を俺の前に出した。
ヤらせろ
やばい、犯される!?
「落ち着け大坂」
「あんたこそ落ち着きなさいよ」
「冷静に話しあうぅ!?」
いきなり大阪、じゃなくて遠坂は俺に覆い被さってきた。
「…士郎、やっぱり胸の大きい女の子の方がいいの?」
「いや、俺の守備範囲は広くてセイバーからライダーまで全然OK…」
ゴキッ!!
首が可笑しな方向に捻れた。
「そこまでです!!姉さん!!」
桜登場。
俺の生存確率は1%を切った。
「アーチャー、食い止めて」
「やれやれ」
「ライダー、突破して」
「全く」
英霊が2体出現する。
「アンリミテッド・ブレイド・ワークス!!」
「ベルレフォーン!!」
大爆発。
「ええい実力行使よ!!」
爆風の中で再び俺を押し倒す遠坂。
何ていうか、とても男らしいです、ハイ。
「じっとしてなさい!すぐ済むから!」
ホント、男らしい。
バキッ!!
姉の背に妹のドロップキックが炸裂した。
「カモン」
くいくいと手の平を曲げる桜。
「…上等!」
立ち上がりながら八極拳の構えを取る遠坂。
結構、2階って高いよな。
窓から脱出する俺。
「ふんふんふ〜ん♪」
セイバーはお使い帰りだった。
(余ったお釣りは好きに使っていいぞ)
彼女のマスターはそう言ってくれた。
だから、ドラ焼きを買った。
「ふふふ、シロウは最高のマスターです♪」
セイバーはドラ焼きをほうばりながら衛宮邸に帰る。
「鉄山何たら!!」
ガキーーン!!
ギルガメッシュは言峰直伝の妖しい中国拳法をセイバーに炸裂させた。
「がはぁっ!?」
それでも何とか受身を取るセイバー。
べちゃ
だがドラ焼きは受身を取れない。
「ああーーーー!!??」
私のドラ焼き
甘くて
美味しい
私の
ドラ焼きが
「ふっ、どうだセイバー、我の愛の一撃は?」
「ギルガメッシュ!!おのれ、不意打ちとは卑怯なり!!」
「うむ、最初は険悪になる。あの書物に書かれてあったとおりだ」
「食べ物の恨み思い知れ!!」
完全武装するセイバー。
「悪即斬!!」
「後は仕上げだ」
ギルガメッシュは腰を屈めてタックルをセイバーにかました。
「なっ!?」
当然、間合いを取ってから宝具の乱射だと思っていたセイバーは虚をつかれた。
「な、何をするギルガメッシュ!?」
「ええい、大人しくしろ!!これで我がお前のパンティーを覗けば全てうまくいくのだ!!」
「ひえっ!?」
犯される!?
セイバーは激しく抵抗したが空腹で力がでなかった。
「ええい、暴れるな!!」
「た、助けてください、シロー!!」
バキッ!!
ギルガメッシュが蹴り飛ばされた。
「何やってんだ、この変態王!!」
「ああ、シロウ!」
「大丈夫かセイバー?」
「はい、でももう少しであの変態に…」
「この変態野郎が…」
「くっ、おのれ、雑種!我のレッスン2を邪魔した上に、レッスン3まで横取りする気か!!」
「何をわけのわからんことを!…行くぞ、変態王。武器の貯蔵は充分か?」
ガガガガガガガガ!!!!
ボコボコにされる変態王。
倒れている彼の胸元から1枚の写真が飛び出した。
「こ、これは!?」
セイバーの入浴中の写真。
「この変態がーーーー!!!!」
聖剣発動。
ちゅどーん!!
「大丈夫かセイバー?」
「はい、シロウのおかげで助かりました」
「セイバーが無事で良かった…」
「ああ、シロウ、何だか今日は貴方が違って見えます」
新たな段階に進むマスターとサーヴァント。
「二度と私の目の前に現われるな、この変態!」
ぺっと地面に唾をはき、仲良く士郎と帰ってゆくセイバー。
「…うう、何故だ?作戦は途中まで完璧だった…」
「惜しかったな」
「言峰!!」
「一部始終はこのビデオカメラで納めた。帰って楽しもう…もとい検討しよう」
「…お前」
我は何とマスターに恵まれたサーヴァントであることよ。
「今日の夕飯はマーボーだ」
いつも、そうだろうと言うツッコミはしなかった。
それ程、彼は感動していた。
「シロウ、これはどうゆう事ですか?」
帰ってみれば屋敷は半壊し、リンとサクラがWノックアウトKOで倒れていた。
居間ではアーチャーとライダーがのんびりTVを見ている。
「何があったんだ?」
アーチャーは黙って1枚の手紙を差し出す。
ヤらせろ
「…シロウ、アーチャー、貴方達はそういう…」
後ずさるセイバー。
「違う、これは衛宮士郎が間桐桜に書いたものだ」
「…シロウ」
ちゅどーん!!
聖剣発動。
衛宮全壊。
「よし、ミッション・コンプリート」
土蔵の屋根の上でカメラを回していたランサー。
「…帰るか」
どうせ今夜もマーボーだろうが。
END
2004/6/28 岡崎