さい帯血を無届けで投与 11医療機関に再生医療の一時停止命令

さい帯血を無届けで投与 11医療機関に再生医療の一時停止命令
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がんの治療や美容に効果があるとうたって、赤ちゃんのへその緒などに含まれる「さい帯血」を、無届けのまま患者に投与する再生医療を行ったとして、厚生労働省は先月から今月にかけて東京や大阪などの11の医療機関に対し、再生医療の一時停止を命じたと発表しました。厚生労働省によりますと、これまでのところ健康被害は確認されていないということです。
厚生労働省の発表によりますと、先月から今月にかけて再生医療について一時停止の命令を受けたのは、東京、大阪、福岡の合わせて11の医療機関です。

厚生労働省によりますと、11の医療機関は、赤ちゃんのへその緒や胎盤に含まれる「さい帯血」をがん治療や美容に効果があるとして患者に投与していたということです。

再生医療安全性確保法では、他人のさい帯血を患者に投与するなどの再生医療を行う場合は、国に計画書を提出したうえで安全性などの審査を受けるよう定めていますが、11の医療機関は届け出をしていなかったということです。

厚生労働省によりますと、さい帯血は血液などの元になる幹細胞を含んでいるため、白血病の治療に利用されていますが、ほかのがん治療や美容への効果は証明されていないということです。

処分を受けた医療機関の中には、自由診療で患者1人当たりおよそ300万円の治療費を請求していたケースもあったということです。

11の医療機関でさい帯血を投与された患者はおよそ100人に上りますが、これまでのところ健康被害は確認されていないということです。

厚生労働省は「がんなどに悩む患者につけ込む形で違法な再生医療が横行しないよう指導を徹底していきたい」としています。

11の医療機関は

厚生労働省が再生医療の提供を一時停止するよう命じたと発表したのは、東京、大阪、福岡の11の医療機関です。

東京都内は8つの医療機関です。
渋谷区の「表参道首藤クリニック」、港区の「クリニック真健庵」、「赤坂AAクリニック」、「六本木ドクターアンディーズクリニック」、「東京国際美容クリニック」、千代田区の「アベ・腫瘍内科・クリニック」、練馬区の「花岡由美子女性サンテクリニック」、品川区の「品川荏原ライフケアクリニック」です。

大阪市内では、「大阪タワークリニック」と「恵聖会クリニック心斎橋院」の2つの医療機関です。

福岡市でも、「天神皮ふ科」が一時停止命令を受けました。

医療機関は

再生医療の提供の一時停止を命じられた医療機関の1つ、東京・渋谷区の「表参道首藤クリニック」の首藤紳介院長はNHKの取材に対し、「患者の希望で行った治療行為が認識不足により結果として法令違反になってしまったことは真に残念に思います。今後は、行政処分を深く受け止め法令順守の上、診療に努めてまいりたい」というコメントを出しました。

厚生労働省によりますと、このうち、福岡市中央区にある「天神皮ふ科」は去年2月から5月にかけ、4人の患者に対して、アンチエイジングや動脈硬化、高血圧に効果があるとして、他人のさい帯血の一部を点滴で投与していたということです。これまでのところ4人に健康被害は確認されていないということです。

厚生労働省の聞き取りに対してこの医療機関は事実関係を認めているということで、NHKの取材に対して、「代理人の弁護士が対応しているので、コメントは差し控えたい」と話しています。

支援団体「氷山の一角だと思う」

東京・三鷹市にある卵巣がんの患者や家族を支援している団体には、ことし3月、女性の患者から、一時停止命令を受けた医療機関の1つで、「さい帯血」を利用した再生医療を受けるべきかどうか、相談を受けたということです。

この時、団体は、治療が有効かどうか、主治医に確認するようアドバイスしたということです。

この団体にはさい帯血を利用した再生医療のほかにも、国から有効性が認められていないがんの治療や薬の相談がことしは先月末までに合わせて19件寄せられています。

団体の代表の片木美穂さんは、「がん患者の、なんとか治したいという気持ちにつけ込むような手口で憤りを感じている。科学的な根拠のない治療を行うクリニックはまだあり、明らかになったのは、氷山の一角だと思う。行政は患者を惑わせるクリニックをきちんと指導していく必要がある」と指摘しています。

専門家「正式な治療なのかを確認を」

さい帯血は、血液などの元になる幹細胞を含んでいて、血液を造る機能を回復させるといった目的で患者に投与されています。

このうち東京・世田谷区にある国立成育医療研究センターでは、白血病や免疫機能が十分に働いていない患者など、毎年、10人前後にさい帯血を投与しています。

投与の際には、公的な機関からさい帯血を取り寄せ、液体窒素が入ったタンクで冷凍保管するなど厳密に管理しているということです。

また投与後も、患者が感染症にかからないよう、無菌室の中で3週間程度過ごしてもらったり、投与した幹細胞から正常に血液が造られているかや、免疫の機能に異常がないかなどを細かくチェックしているということです。

国立成育医療研究センターの松本公一小児がんセンター長は「さい帯血が、白血病以外の進行したがんの治療や、アンチエイジングなどの美容に効果があるとは、医学的に考えられていない。他人の細胞を体内に入れた場合感染症などのリスクもあり、少なくとも国の審査で認められた正式な治療なのかを確認することが不可欠だ」と指摘しています。