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名古屋 「陽子線」私はこう考える がん治療施設建設の是非 (1)

(2009年11月10日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

比較治療のデータない 救急医療にこそ支援を

画像二村雄次 愛知県がんセンター総長(外科医)

 河村たかし市長は「陽子線がん治療施設」の建設を継続するか、中止するか今月中に結論を出す。先月末の公開討論会では先端医療に期待の声も多かったが、市長は「さらに幅広く意見を聞きたい」と態度を明らかにしていない。市長の決断を前に、関係者にそれぞれの立場から賛否を語ってもらう。(聞き手・豊田雄二郎)

 −建設に反対。

 いろんな治療成績のデータを患者に示し治療法を決める。それがEBM(根拠に基づいた医療)だ。しかし粒子線(炭素線と陽子線がある)治療は、従来の放射線治療と比べてどうなのか。このデータが出てこない。

 −先端医療では仕方ないのでは。

 いや、関係者はそういう比較自体をやっていない。だからいかんのだ。保険適用されているトモセラピー(放射線治療)と比べても、その効果はほとんど差がないと言われているけどね。

 −効果はないのか。

 いや、効くことは効く。特に食道や皮膚、口内、肛門(こうもん)のがんには。ただ「夢の治療法」とか「何でも治る」というのは大間違い。肝臓や前立腺がんまで、手当たり次第にやるのはいかがかと言いたい。

 (陽子線が効果を発揮する)適用患者はいるだろう。ただがんは、小さいうちは放射線が良くて、もうちょっと大きくなると手術が良いとか。高齢者には無治療が良いということだってある。

 −粒子線の治療実績にも疑問がある?

 関係者は上手に陽子線と炭素線の数を混ぜて説明するけど、両者は違う。炭素線は治療時間も短くて、症例数を稼げる。中には手当たり次第にやっている施設もある。肝臓がんの大きなのをそこで治療している例も知っているが、あんなのは外科手術でやるべきだ。

 −市の試算では開業七年目に患者が七百人に増え、黒字化。

 絶対に無理。筑波大学は一九八三年から陽子線をやっているが、二十年以上もやって総患者数は千七百四十六人。ほかの施設も、一部を除いて極めて少ない。なぜか。適用する患者がいないからだ。

 −東海地区に一カ所は必要との意見も。

 膨大なお金をかけて、あっちにもこっちにも施設を造る必要があるのか。疑問がある。近くには静岡がんセンター(静岡県長泉町)に粒子線施設がある。

 救急医療で、掖済会病院(中川区)は本当にすごいがんばっている。一日に何人も心肺停止の患者を受け入れて。県からも一億円ぐらい補助が出ているのかな、それでも赤字。それが現実だ。こういうところにこそ、きちんとお金を使わないといかんのではないか。

 −建設中止なら、業者に数十億円の損害賠償を求められるかも。

 このまま開業しても、二、三年で同じぐらいの赤字になる。適用する患者がいないんだから。黒字化させようとすると、本来は陽子線で治療をするべきではない患者まで、無理して受け入れることにつながる。医療を提供する者として、絶対に避けるべきだと言いたい。

 陽子線がん治療 放射線治療の一種で、がん病巣に集中して照射でき、患者の痛みや体への負担も少ないとされる。国内に7施設あるが、保険適用されておらず、300万円近い医療費は自己負担。計画では、複合医療施設「クオリティライフ21城北」(北区平手町)内に2012年度に開院。日立製作所と契約済みで、今月着工予定だった。

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