あの金額は「採用が確定していない」上に、他社と競いあう分「面接の権利を得るためのチケット」でもあるので、それが高止まりしようがしまいが、書類審査における
「採用可能上限金額」
を示したものとも言える。
候補者が自分の希望年収を入れるかどうかは、ポーカーでオールインを使うか否かみたいな戦略性の問題であるが、金額を入れない場合に「いくらで指名されるのか?」という部分には、多少なりとも、そこに書いてある社名の印象が影響する。会社が著名であるかどうかで絶対値は変わるし、似たようなフェーズの会社が同じような投資フェーズであったり大企業であれば高い金額が入札されやすくなるであろう。
ところが仮に高い金額になった場合、その金額に見合う形で実際に採用するかは面接をしてから決まるわけだから、いわゆる相場感は、「採用されたか否か」のフラグがないと正しい相場は示さない。
まして転職ドラフトは、提示額に対する90%以下に提示年収を下げてはいけないルールができたので、お互い同意の元で年収を下げてでも採用するというオプションは提供されていない。10%の差異でモチベーションを下げるぐらいなら100%入札額で採用するか、きっぱりお断りするかのどちらかになるのが企業側の発想だと思うので、このゲームにおいては、all or nothingということになる可能性が高い。
仮に所属している会社と、そこに書かれた書類がピカピカでも、実際に会った企業が全員NGを出せば、その数字には意味はない。
むしろ書類審査における採用上限値が示されてしまった分、少し残酷かなと思うところもある。
要は書類審査の段階では他社が競い合ってもそこが上限なんですよ、と言われてしまったようなものだ。
ただルールとしてはとてもよくできていて、一度NGを食らうと再入札ができない、、、だっけ?(あれ?少しはできたっけ?)、なんというか提示年収を出さずに、期待値よりも下回った場合は、その人のスキルの問題とは別に、
・書類審査が本人の実力よりも下回った文章だった(要は文章力や構成力の問題。スキルと関係ある?)
・所属してる会社が、引き抜きたいと思うほど期待されてる企業でもなかった(事実、社名だけでモテる会社がある)
・入札した他社(とくに相場を決める1ゲット)が間違えた
などなどの理由で、ある種の現実と乖離したタコ相場ができると、その人にとってはコントロール不可能な入札額になるので、そこが可哀想。もちろん、逆の理由で、タコな会社が無意味に高い入札をした結果、本来入るべき会社が入札しなくなることも機会損失。もちろん、今いる会社の給与が相場よりも高いことを確認して安心するという手段にも使える。
ただ、金額を提示しないで入札させて、もし期待値にそぐわなかったら、期待する額を教えてくれれば、その金額で再入札したい。
面接で、それに見合うだけの実力を持っている方で自分達の方向と照らし合わせて期待ができそうなら、その額で内定を出すことは不可能ではない。
やっぱり、何よりも実際に会いオーラを感じることが一番重要なのである。
究極的には、アップルのジョナサン・アイブよろしく、その人が一人会社がいることで多大な利益を生み出せるようなスーパーデザイナー、スーパーエンジニアであれば、年収1億円でも出せる会社は、この世の中にはある。
経理上、人件費だって費用対効果で表現できるものなのだから。
ところが、現実にそういう人に出会うことは稀。人間は24時間しか持ってないし、眠らないと死ぬのでパフォーマンス上限は1/3ぐらいの稼働率にしかならないのが普通だし法律もそうなってる。故に量をさばくためにチームでカバーしなくてはいけないから、仮に1億円だったら、その原資をチームで按分することが必要になり、一人あたりの給与は平均化される。
大体、本当に凄いと言われる人は、誰が面接しても3分ぐらいで凄いと言わせることができる。この実験は毎日僕らが採用面接でやっている中で、経験上は証明されている。
また、実力不相応なのにたまたま企業ブランドなどが講じて高値で採用された場合は、理想的には入社後の給与が他の人よりも高止まりするわけだから、それ以降の昇給のしにくさという、継続的な評価の部分で長期的には落ち着くべき相場に落ち着いていく可能性が高い。
問題はその間に、自分の年齢が年を重ねてしまうので、その状態がいいのか悪いのかはわからない。低い金額から期待と実績という信頼を作り上げながら給与が上がっていくのと、高い給与をゲットして、不相応だと疎まれながら同じ金額を維持した場合、人生の成長においてどっちが有利なのかは誰も証明をしていない実験だとも言える。
それに性格にもよるだろうし、必ずしも分不相応に高い評価が人生にとってメリットがあるかは、ぶっちゃけその人次第だと思う。ただ、まぁ、それに対しては僕も経験がないわけではなくて、そういうことに(そのチャンスがラッキーだったことも含めて)気がつくのは大体、何かを失った後の方である。
あと、どこの世界にも「相場を無視するタコ」はいるので、こういう理屈が通じず、相対的にお金持ちになれる職場もあるかもしれないし、何がいいかは運次第なのかもしれない。
まあでも、どっちがいいかが判断できないなら、チャンスがあると思う方を利用した方がいいと思うのは、個人的には応援する真理かな。
そこは否定しないです。
社会はルールで動いている。何が正しいなんてありえない。会社のルールもそうだし、労働法もそうだし、社会通念上の常識もそう。また野球や相撲やサッカーだって株式だって、みんなが作ったルールの上で、大金が動く。たまにルールが間違った方向にいくけど、だからといって、そこで動いたお金が戻ってくることはないし、いつの時代もゲームをうまくやった人が得をするのは確からしい。
なので、何がいいとか悪いとかは、全然なくって、「そういうもの」ってのをどう受け止めるかである。
そういう意味で、転職ドラフトというゲームがもたらす出会いの場は面白いなーと思っている。
ただし、それが別のルールにおける相場を示すわけではないのよ、という部分は記述しておく。全員の正しい情報公開がOKなら別なんだけどね。情報の非対称性をどうルールに利用するか?というのがポーカーにせよなんにせよゲームというものの特徴ですよね。
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