不可能姉妹〜あるいは鼻セレブのステマ〜

 

mikimiyamiki.hatenablog.com

 

 

この続き。

 

さしてドラマチックな話ではない。

しかし、一応後日談を書いておかなければ、私の妹は、ネットの中ではずっと可哀想なままで、私の家の窓の結露はずっと流れ落ち続けてしまうので、少しその後の話をしておくことにする。

 

これより二週間ほどしてから、再び私は妹を家に呼んだ。

 

温泉に行ったり、元タカラジェンヌの家でヨガの個人レッスンをして頂いたり、とにかくリラックスできるように、彼女を精一杯もてなした。
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話はズレるが、私は今も、というか、明日もタカラジェンヌの家にお呼ばれしてヨガのレッスンをして頂く。

あの、宝塚。毎年入学しただけでニュースになるあの宝塚音楽学校を出て、歌劇の舞台に立っていた、美の最高峰元タカラジェンヌである。ママ友である。まあ、単なる自慢である。

私の自慢話は置いておく。

 

妹は、ぽつりぽつりと会社で起きたことを話始めた。


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本当は、内容を聞くのが、こわかった。

そのときの私は床に座って洗濯物をたたんでいて、妹はダイニングテーブルのところで椅子に座っていた。

ちょうど、お互いの顔の見えない位置なのをいいことに、私はまともに目を見ないまま、黙っていた。


泣いてる顔、見る勇気のなかった、ヘタレな姉。
よしよしと抱き締めてあげたら良かったんかな、昔みたいに。私も気づいたら泣いていた。

 

ヘタレのわりに、妹の職場の人への怒りがふつふつと沸いてきて、よくも私の可愛い妹を苦しめたな、と、怒鳴り込みに行きたくなった。

金曜だとなんとか幼稚園のお迎えまでに和歌山日帰りしても間に合うかな、5分会社で怒鳴ってからとんぼ帰りか……とか考えたりして、自分でも変なところで突飛な行動力があったりするから怖くて、ただ、職場の人がアウトレイジのごとく全員悪者というわけでもないみたいなので、私が拳銃をところ構わずぶっぱなすビートたけしさながら感情的になっても誰も幸せにならないんだろうな、と冷静になった。

和歌山遠くて良かった。これではモンスターペアレントならぬモンスターシスターである。

 
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「でもな、お姉ちゃん。あの人も昔上司からパワハラを受けていて、すごく辛かったんやて。だから、あの人も可哀想な人やねん」

「あの人も、多分意地悪で、そういうことしてるわけではないと思うねん……私がミスしたりして、そういうのがあかんねん」

 

そうやって妹は、一生懸命「自分の中」に理由を探していた。

 

毎日毎日いやがらせのような態度をとられる理由を、なんとか自分の納得の行くように、考えようとしていた。

そして結果自分を責めていた。

 

違うんだよ、それは違う。

良い大人が人を苛めるのに、理由なんかあるものか。その人自身もパワハラ被害者だった?だから何よ。だったら同じ事を、後輩にしても良いなんて、そんなわけないやん。

 

それでも、苛められた理由を敢えて探すなら、それは妹がかなり目立つ美人で、おっぱいがとても大きいからだと私は思っている。

要するにブスの貧乳が嫉妬した。ブスは根性も悪い。これは同じ根性の悪いブスの貧乳である私が一番よくわかっている。

 
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「多分、がんばれると思う、もう少し休んだら……」 


その言葉をさえぎるように私は

「あかん」

そう小さな声で言った。

「え?」

鼻セレブで涙を拭く妹が顔をこちらに向けた。私は相変わらず、目を見ずに続けた。

 

「あかんて。とにかく、もう、若い貴重な時間を、そんな人のことで悩むのに消費してほしくないし、早く辞めてまい!そんな会社。」

私も泣いていた。

「お姉ちゃんは、あんたが、そんなつまらん会社のつまらん人間に傷つけられてるところ見るんが、もう耐えられへん。あんたは昔から勉強もスポーツも出来て、明るくて元気でお姉ちゃんの自慢やってんで。そんな自慢の妹が、そんなつまらん会社のことで、暗くなって病気になってしもて……勿体ないって。時間が勿体ないって。もう、一刻も早く、そんなところから、逃げてしまい。もう、頑張らんでええから!」

 
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そうなのだ。逃げて良いんだ、ていうか、逃げてくれ。そんな理不尽な不条理な苦痛を伴う世界から。あなたがいじめられる理由も、そんな場所でお金を稼がなくてはならない理由も、何一つ無いのだから。

 

気付けば、二人ともぐじゅぐじゅの酷い顔だった。鼻セレブはすごいなあ、肌触りが違うわぁ、と言って、私達は初めて笑った。

 
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それからの展開は早かった。妹は、サクッと会社を退職。もともと能力の高い女性だったので、再就職活動を始めてから間もなく新しい職場が決定。今はひとり暮らしをしながら実に楽しそうに生活している。

彼女のプライバシーに係わるので詳細は伏せるが、オフロードカーのCMさながら山道を、トラックでぎゅいんぎゅいんハンドル回しながら運転をしていたり。

 

「お姉ちゃんのくれた、CHANELのミスト、あれすごく良い香りやね!気に入ってる♪ありがとう」

 

このLINEを見たとき、ああもう、この子大丈夫やな、と私は確信した。

 

今日もどこかの山奥で、CHANELの香りのする美女が、トラックを軽快に走らせているのだと思うと、私の心は晴れやかな気持ちになる。

 

我が家の大開口の窓の外には、結露の季節が過ぎた今、美しい緑が広がる。

 
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