メイ英政権、保守地域政党と閣外協力で合意 野党は「無謀」「袖の下」と
総選挙の結果、単独過半数を確保できなかった英保守党を率いるテリーザ・メイ首相は26日、北アイルランドの保守派地域政党、民主統一党(DUP)と閣外協力で合意した。両党代表がダウニング街の首相官邸で、合意文書に署名した。下院(定数650)での主要採決において、10議席のDUPは317議席の保守党に協力することになる。
18日間にわたる協議の末、メイ政権は、DUPの10票と引き換えに、北アイルランドに2年間で10億ポンド(約1420億円)の追加予算措置を約束した。代わりにDUPは2022年まで、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)と安全保障に関する全法案について、保守党を支持する。
メイ首相は、両党が「多くの価値観を共有」するため、「非常に良い」合意だと歓迎。「英国全体の利益のために協力できるようになるし、欧州連合から離脱するなかで必要な安定性を確保し、より強力で公平な社会を作れるようになる」と述べた。
DUPのアーリーン・フォスター党首は、「広範な」合意内容は「北アイルランドと英国にとって得策」だと評価した。
保守党とDUPは、1998年和平合意の内容は維持すると表明。また、北アイルランドとアイルランドの統一をめぐる国民投票は、「国民の同意」なくして実施しないと約束した。
保守党とDUPの合意に伴い、北アイルランドのインフラや医療、教育などに2年間で合計15億ポンド(10億ポンドが新規予算、5億ポンドは計上済み)が使われる。フォスター党首は、北アイルランドの「独特な歴史」による課題に取り組むために必要な予算だと評価した。
合意によって、北アイルランドの退役軍人手当てが拡大されるものの、年金増額率や冬季光熱費手当などの扱いは英国全体と同程度を維持する。
北アイルランド和平の前提は
一方で、DUPは北アイルランド独立に反対し、英国との連合維持を強硬に主張する政党なだけに、独立派の北アイルランド政党「シン・フェイン」のジェリー・アダムズ党首は、1998年の「和平合意を脅かす保守党ブレグジット」を可能にするものだと警戒感を示している。
最大野党・労働党(262議席)のジェレミー・コービン党首は、「明らかに国益にかなわない」内容だと批判。エミリー・ソーンベリー影の外相も下院で、「これはみすぼらしくて無謀な」取り決めで、北アイルランド紛争の1998年和平合意の大前提だった英国政府の中立性を損なうものだと非難した。
「このみじめな首相を支えるためだけに、和平合意を危険にさらすなど、みっともない以外のなにものでもない」とソーンベリー氏は強調した。
「袖の下」
また、北アイルランドだけが追加予算を受け取ることに、ウェールズとスコットランドの自治政府が反発。ウェールズのカルウィン・ジョーンズ自治政府首相は、「とんでもない袖の下」で、「公平な資金分配の概念を壊してしまう」と非難した。
スコットランド国民党(SNP)のイアン・ブラックフォード院内総務は、スコットランドも「公平な配分」を受けるべきだと主張。「保守党は何年も前から予算や公共サービスを削減してきたのに、自分たちの政権維持のためとなったらいきなり、『魔法の金の木』を見つけたらしい」と批判した。
「魔法の金の木」とは総選挙の選挙期間中にメイ首相が、「そのようなものはないのだから」と使った表現。首相は、福祉予算の選択的配分の必要性を擁護していた。
シン・フェインのアダムズ党首は、北アイルランドの予算増額はどのような形であれ良いことだと、その点は評価。その上で、追加予算の公平な分配を確保するには自治政府内の権限分担の実現が不可欠だと述べた。
北アイルランドは今年に入ってから自治政府首相と副首相を欠き、DUPとシン・フェインの連立交渉は3月を最後に決裂していたが、総選挙の結果を受けて、両党は交渉を再開している。
(英語記事 Theresa May's DUP-Tory deal criticised as 'shabby and reckless')