昨日10月28日、労働者派遣について大幅に規制緩和する法案が衆議院で趣旨説明され、審議入りしました。政府はこの臨時国会での成立を目指しています。
民主党政権下で初めて歯止めがかかった労働者派遣
労働者は直接雇用されるのが大原則です。労働基準法6条は「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」とします。中間搾取は不安定・低賃金・権利保護がされないなど、労働者を不幸にするからです。
労働者派遣法はこのような中間搾取を合法化するもので、「専門的な業種だから大丈夫」「例外だから大丈夫」だったはずが次々に規制緩和され、2003年に製造業派遣が解禁され、原則すべての業種で3年以内であれば使用可能になりました(専門業種は期間制限撤廃)。ただしこの「3年」はユーザー企業の派遣の利用可能期間の縛りで、労基法の直接雇用の原則を守るための最低限の歯止めでもありました。
派遣労働者の“生き地獄”はリーマンショック、年越し派遣村などで表面化し、2009年の民主党政権誕生のきっかけの一つともなりました。そこで、民主党は派遣法の改正(規制強化)を打ち出しましたが、迷走し、政権末期にやっと不十分ながら規制強化がされました。このうち、違法派遣の場合のユーザー企業による直接雇用申込みなし規定が労働者を保護する上で一番強力な規制ですが、妥協の結果、施行は2015年4月1日10月1日とされました。
“学者”竹中平蔵ただいま参上
2012年の総選挙で民主党政権が陥落し、第二次安倍政権が誕生すると、ただちに産業競争力会議などの政府審議会が設置され、再び労働者派遣法を規制緩和する議論が始まりました。ここで規制緩和の旗振り役を果たしたのが人材派遣大手・パソナの取締役会長である竹中平蔵氏です。
派遣企業にとって派遣労働者は商材です。派遣法の規制が強化されれば商材の使い勝手が悪くなります。規制強化(特に期間制限違反で直庸みなしとなり商材が失われる規制)はパソナや人材派遣業界にとっては死活問題なのです。
竹中平蔵氏は産業競争力会議やマスコミに登場するときは「慶應義塾大学総合政策学部教授」と名乗り、あたかも公平・中立の観点から発言しているように装って規制緩和を推進します。
産業競争力会議での竹中氏の振るまい
竹中氏は2013年1月23日の第1回の産業競争力会議で、企業の競争力を検討する上での「六重苦」として「雇用規制」を掲げました。産業競争力会議に先導された政府は同年6月14日に「日本再興戦略」を策定しましたが、このなかで派遣法の規制緩和の早期法制化が謳われました。
派遣法の規制緩和の方針は、厚生労働省の研究会が2013年8月20日に出した報告書で肉付けされ、労働政策審議会での議論を経て2014年2月27日に法案要綱が決定され、国会に提出されました。竹中氏はこの時期、自分の手を離れたはずの派遣法ついて以下の発言までして規制緩和をするように釘を刺しています。さすが、パソナの会長ですね。
このような竹中氏の檄のあとに取りまとめられ、国会に提出された派遣法の規制緩和法案は図解すると下記のようなものです。
派遣規制を人単位にするだけでも規制緩和なのに、さらに、所属部署を変えさえすればユーザー企業が派遣労働者を永久に使えるようになるのです。また、派遣元で無期雇用となっている人も期間制限が撤廃されます。これでは労働基準法の直接雇用の原則は事実上吹っ飛び、2012年の規制強化である違法派遣の直庸みなし規定も効果がなくなります。雇用の不安定化・低賃金化と引き替えに、パソナを含む人材派遣業界にとっては絶好の商機(派遣労働の大幅拡大)が訪れます。
政府与党は今、規制を強化した労働者派遣法が施行される2015年3月10月よりまえに規制緩和を成し遂げようと躍起になっています。
派遣業界への露骨な利益誘導を許してよいのか
竹中平蔵氏は一応学者のようですが、労働者派遣に関しても、労働者の雇用全体に関しても専門外です。焦眉の課題である労働者のワークライフバランスの確立などまともに考えられる立場ではありません。発言内容もひたすら「規制緩和」です。竹中氏の発言はパソナの会長としての発言として捉えた方が辻褄が合いますね。筆者はこのように政府の審議会に入り込んで利益を上げようとする竹中平蔵氏を「政商納言」と呼んでいます(詳しくはコチラ)。
国民の生活や命に関わることを規制緩和すれば必ず国民に害悪がふりかかります。特定業界のエゴを国民の壮大な負担で償うようなことは止めるべきです。今、安倍政権は国民世論に敏感です。批判の声が改悪を止める最大の力です。
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