琥珀色の戯言

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【読書感想】シブサワ・コウ 0から1を創造する力 ☆☆☆

シブサワ・コウ 0から1を創造する力

シブサワ・コウ 0から1を創造する力


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
信長の野望』は熱き野心と1台のパソコンから生まれた。伝説のゲームクリエイターが初めて明かす大ヒットを連発する発想術!


 タイトルや「内容紹介」をみると、「ゲームクリエイターの発想術」みたいな感じなのですが、実際は、現・コーエーテクモホールディングス社長のシブサワ・コウさんがこれまでの半生、パソコンとの出会いから、ゲームソフト会社を立ち上げ、軌道に乗せるまでのことや、仕事に向き合う姿勢などを語っておられる本です。
 僕が小学生の頃、マイコンに出会ったときに、光栄のデビュー作『川中島の合戦』の広告を雑誌で見た記憶があり、『信長の野望』が発売された際には「なんか面白そうなゲームが出たな」と思ったのです。
 シブサワさんは、『信長の野望』の成功の要因として、「歴史のif」を体験できたことと、それまでのシミュレーションゲームは、コンピュータを使うものでも「戦場での勝ち負けを決するもの」だったのが「領主がやることはそれだけではないはず」だと、領地経営の要素を取り入れたことを挙げています。
 縁というのは不思議なものです。
 それまで全く別の業界で会社を経営していたシブサワさんは、マイコンに惹かれてはいたものの、当時は高価なもので、なかなか買えなかったのだとか。
 そこで、「誕生日にマイコンをプレゼントしてくれた」のが、奥様の恵子さん。
 30歳のときの、このプレゼントがなければ、『信長の野望』や「光栄」は世に出なかったかもしれません。
 営業職の経験はあり、ひととおり社会人として接待などもこなしてきたものの、銀座で飲むより新しいゲームをつくっていたかった、というクリエイター気質のシブサワさんと、多摩美大を卒業していて、アートのセンスがあり、経営についての知識と、自分たちのやり方を貫く度胸があった恵子さんの組み合わせは、まさに、絶妙といえるものでした。
 1983年の『信長の野望』からの三十数年で、シブサワさんや光栄(現・コーエーテクモホ=ルディングス)が成し遂げてきたことと、僕の半生を比べてみると、なんだかもう、自分は何もしてこなかったな、なんて、ちょっと落ち込んだりもします。


 「好きなことを仕事にすると、それを楽しめなくなってしまう、あるいは、好きであることで客観的な判断ができなくなってしまうから、良くない」という話って、よく耳にしますよね。
 ところが、シブサワさんは、採用の際に、ゲーム好き、歴史好き、とくに、自社のゲームが好きという人を迷わず採用しているそうです。

 理由の一つは「好きであれば頑張れる」ということです。たとえば、私はゲームソフトを開発する際、夜遅くまで取り組むこともしばしばでした。普通、仕事で深夜まで残業しなくてはいけない状況になると、「嫌だなぁ」とか「早く帰りたいよ」などと思うでしょう。一般的に至極当然のことです。
 しかし、私はたとえ徹夜になろうが、まったく苦になりませんでした。歴史の資料を読み込むことも、パソコンに向かってプログラムを組むことも、大好きなので、まったく苦にならないのです。むしろ時が経つのを忘れるほどに楽しいのです。
 そもそも歴史が好きですし、数学も好き。パソコンに出会ってからは、パソコンに接することも大好きになりました。
 その大好きな歴史や数学、パソコンを使って、ゲームを創造するのです。これが私にとってつまらないはずがありません。時が経つのも忘れてしまうほどに楽しいことなのです。


 それを、30年以上も続けてきているのだから、本当に「天職」だったということなのでしょうね。なんだか羨ましい。世の中、好きでも才能があるとは限らないこともあるし、実際に仕事としてやってみると「思っていたほど、自分はこれが好きじゃなかったんだな」と感じることだって少なくないだろうから。
 たしかに「やりたくないこと」よりは、「好きなこと」のほうが、楽しく、熱心に仕事をできるでしょう。


 「黒歴史」ではないかと思われた、「光栄のアダルトゲーム」についても、(そんなに多くのページを割いているわけではないけれど)きちんと言及されています。

 アダルトゲームは『団地妻の誘惑』『オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか?』の2作があります。いずれもパソコン用のソフトで、それぞれ1983年、84年に発売しています。
団地妻の誘惑』は団地にコンドームを売りに行くセールスマンの悲哀を描いたゲームです。団地の場所は埼玉県の越谷。セールスマンは大日本家族計画株式会社北千住営業所に勤めている。給料は歩合制。だから、コンドームを売らないとお金が入らない。
 セールスマンが団地で一軒一軒、訪問すると、いろいろな人が出てきます。悩ましい奥さんもいるし、強面の男性もいるし、ホモっぽい人もいる。セールスマンはそういう人たちと格闘しながらコンドームを売っていきます。アダルトなダンジョン攻略型RPGロールプレイングゲーム)です。
 そのアイデアの元になり、目指した方向性が、「艶笑落語」です。下品にならずに、クスッと滑稽なおかしみが込み上げるようなゲーム。そうした大人が楽しめる、という切り口のゲームにも市場があると考えたのです。


 当時は、子供心に「『信長の野望』をつくったゲームメーカーが、こんなHな(って、どんなゲームか、雑誌の記事か広告の画面写真しか見たことないんですけどね)ゲームで商売をするなんて、なんかイヤだなあ」と思ったのを記憶しています。
 いまこのゲームの話や『オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか?』の話を読むと、これはこれで「新機軸」だったよなあ、と感心するのですが。

 『オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか?』は男性用の大人のおもちゃたちが世の男性たちと戦うゲームです。

 何なんだこの設定は! 
 あまりに飛躍していて、なんだかすごく面白そうというか、どんなゲームなのか興味深いですよね。


 この本を読んでいて驚いたのは、「日本のゲーム」だと思い込んでいた、光栄の歴史シミュレーションゲームが、いまや、世界中で遊ばれている、ということでした。

 当社のゲームも海外の人たちにも楽しんでいただいています。最近の国内と海外の販売本数の比率をいえば、『信長の野望』(『信長の野望・創造 with パワーアップキット』国内2014年12月発売)は国内71%、海外29%で、『三國志』(『三國志13』国内2016年1月発売)は国内54%、海外46%です。
 当社の主力商品である『信長の野望』と『三國志』は、今ではかなりの本数が海外で売れているのがわかると思います。『三國志13』に至っては、半分近くが海外で売れています。


 『蒼き狼と白き牝鹿』が4作目までで止まってしまった理由として、「欧米ではジンギスカンは『悪人』と認識されており、海外でのセールスが振るわなかった」と書かれています。
 僕は『蒼き狼と白き牝鹿』のシリーズがけっこう好きなので、今後の続編も期待薄だというのは残念です。
 それにしても、『三國志』はさておき、日本の戦国時代を描いた『信長の野望』も海外での売り上げが3割近くあるというのは、ちょっと驚きました。
 ゲームソフトの「グローバル化」は、ここまで進んでいるのか。


 今や、NHK大河ドラマ真田丸』のスタッフにも名前を連ねているシブサワ・コウさん。オープニングで名前を見つけたときには、なんだか感動してしまいました。
 ああ、マイコンのテープ版で発売されていた『信長の野望』から、ここまで来たんだな、って。
 僕のような、「光栄の歴史シミュレーションと長年つきあってきたプレイヤー」にとっては、たまらない本だと思います。