新年あけましておめでとうございます.日本獣医師会の会員並びに構成獣医師の皆様,関係団体の皆様におかれましては,ご健勝にて新年を迎えられたことと心からお慶び申し上げます.
旧年中は本会の事業推進にご協力とご支援を賜り,厚く御礼を申し上げます.会長就任以来,機会があるたびに申し上げてまいりましたように,地方獣医師会並びに構成獣医師の皆様と,また日本獣医師政治連盟をはじめ関係団体の皆様と出来る限り情報を共有し,ご理解をいただいた上でスピーディーにかつ判断を誤ることなく課題解決に取り組み,会長としての責務を果たしてまいります.本年もよろしくお願い申し上げます.
新年を迎えて,心も新たに本会の活動の目標を再確認するため,平成 28年 6月 22日に日本獣医師会の第 73回通常総会で承認されました平成 28年度事業計画に改めて目を通しました.その記述の中の一文,「本会は日本医師会と学術協力の推進について協定書を取り交わし, One World, One Healthの理念に基づく活動を強化する.地方獣医師会も地方医師会との連携を進め,獣医師と医師が一体となって国民の生活環境や健康・福祉の向上に寄与する大きな期待が寄せられている.」については,多くの関連事業が大きく推進され事業計画が達成できたことを次回定期総会でご報告することができ,またそれを受けて平成 29年度の事業計画をいっそう充実したものにできるものと確信しています.また,「被害が甚大であった東日本大震災に伴う被災動物救護活動を踏まえて,将来の緊急災害に備えた平時の体制整備に向けた活動を推進する必要がある.」並びに「活動の推進に当たっては,国内・海外の関係団体と十分に連携し,効果的な事業の運営を図る.」についても,大きな成果が得られるものと期待しています.
さて,昨年の 11月 28日に地方獣医師会会長の皆様,さらに関係機関の皆様に,「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」の決定及びそれに伴う告示改正に関する意見募集の協力をお願いさせていただきました.新年のご挨拶にふさわしいお話ではありませんが,改めて述べさせていただきます.
内閣府に設置された内閣総理大臣を議長とする国家戦略特別区域諮問会議で,議論されてきたことの一つに獣医学部新設があります.獣医師の需要動向をみましても,地域偏在や職域偏在はあるものの,全国的観点から獣医師数は不足していませんし,平成 19年に農林水産省で行われた獣医師の需給調査においても,今後,獣医師が過剰となる場合や不足する場合のシュミレーションを行いましたが,不足するという結論になっていません.過去 50年間,獣医学部が設置されてこなかったのは,その必要がなかったからであります.現在,日本獣医師会では,地域偏在や職域偏在を解決するため,6年制獣医学教育が始まって以来 36年間,新規獣医師へ魅力ある職場の提供,処遇の改善,女性獣医師の就業支援を全力で行っています.それと並行して,全国の獣医学系大学は,文部科学省の支援の下で,半世紀に亘り獣医学教育の国際水準達成に向けた自律的改善を計画的に実施してきました.したがって,同諮問会議での有識者委員の発言は,あまりの不見識さに目を覆いたくなります.
11月 9日に開催された国家戦略特区諮問会議において,「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を,直ちに行う.」ことが決定されました.さらに,11月 18日付けの「文部科学省関係国家戦略特別区域法第 26条に規定する政令等規制事業に係る告示の特例に関する措置を定める件の一部を改正する件(案)」に関する意見募集が 1カ月間ありました.本件については,一昨年 6月 30日に閣議決定された日本再興戦略改訂 2015の獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討の中で,既存の獣医師養成とは異なる構想が具体化し,さらにライフサイエンス等の新たな分野での獣医師の需要が明らかになり,それらの需要には既存の大学・学部では対応が困難であり,近年の獣医師の需要動向を考慮することが明記されています.現在の提案主体者による獣医学部新設構想は,これらの条件に合致していませんし,全国的見地から獣医師が不足していないので,なぜ新たに獣医師養成大学を設置するのか理解できません.
このような暴挙というべき国家戦略特区による獣医学部の新設は,これまで関係者が実施してきた国際水準達成に向けた努力と教育改革にまったく逆行するもので,不適切であること,平成 26年 6月 27日開催の本会第 71回通常総会で決議したとおり獣医学分野の入学定員の抑制方針の緩和による獣医学部・学科の新設には反対することを,今後も主張してまいります.特に,今回,獣医学教育及び獣医師職域の現状及び将来の在り方について,十分な検証も行わず,本会等関係者が意見を述べる機会もないまま,一方的に獣医学部の新設が決定されたことはきわめて遺憾であります.養成人数の過剰問題を抱えている弁護士や歯科医師のようになることだけは避けなければなりません.会長として,今後もこれらの課題に全力で取り組んでまいりますので,皆様方のご支援ご協力をお願いいたします.
さて話題を転じて,昨年,最も印象が強かった出来事は,11月 10~11日の 2日間,福岡県北九州市で開催された第 2回世界獣医師会 -世界医師会“ One Health”に関する国際会議が無事に終了し,成果を残せたことです.この前後の 11月 9日には全国獣医師会会長会議が,12日には 2016動物感謝デーが,例年,東京で開催されてきていたものが,国際会議に合わせて北九州で開催されました.福岡県獣医師会並びに北九州市獣医師会をはじめ,九州地区獣医師会連合会及び関係者のご協力に感謝いたします.
全国会長会議では,公益目的事業(1)と同(2)の統合,獣医学術講習会・研修会事業に,さらに海外の獣医師を対象とする研修事業の追加変更を昨年 4月に内閣府に申請し,8月に認定されたこと,また,熊本地震ペット救援センターの施設整備の資金募集のため,財務大臣へ特定寄付金と指定寄付金の申請を行い,優遇税制措置の強化を受けたことを報告しました.これらの成果が,本年から本格的に実施されますアジア地域臨床獣医師等総合研修事業に,また熊本地震ペット救援センターの施設整備に反映されるものと確信しています.
特に昨年 4月 14日と 16日に発生した熊本地震では,多くの死傷者及び家屋倒壊,土砂災害が生じ,大きな被害をもたらしました.日本獣医師会では直ちに熊本地震救援緊急対策本部を設置し,被災動物の救護や獣医療の提供,被災した動物病院や獣医師の支援,福岡県獣医師会の獣医師と動物看護師で編成された災害派遣獣医療チーム VMATの活動支援,獣医師や支援要員の派遣,動物用医薬品の提供,被災者への動物診療クーポン券の配布を行いました.また,全国に先駆けて九州地域で初めて恒久的な拠点施設である九州災害時動物救援センター(熊本地震ペット救援センター)を開設しました.
今後,首都直下型地震や南海トラフ地震等,巨大地震の発生が論じられる今日,発生しないことが望まれますが,万が一に発生した場合は,熊本地震で実施された救援活動が活用できるものと心強く思っています.また,今回の救援活動システムやペット救援センターの設置が各地域でも設置できるように検討してまいります.
第 2回世界獣医師会 -世界医師会“ One Health”に関する国際会議は,31カ国から 639名の参加者を得て盛大に開催され,多くの方々から高い評価をいただきました.開会式には秋篠宮同妃両殿下にご臨席いただき,人と動物の共通感染症に関する専門的知見を含むお言葉を頂戴いたしました.ノーベル化学賞受賞者の田中耕一先生による基調講演には,秋篠宮同妃両殿下も御熱心に聴講され,さらに 1日目は人と動物の共通感染症のシンポジウムが,2日目は薬剤耐性菌対策と One Healthに関する医師と獣医師の連携,アニマルセラピーについて,さらに宇宙飛行士の毛利衛さんの市民公開講座があり,講師とフロアーとの質疑応答も活発で,大変充実した 2日間でした.
なお,わが国における医師と獣医師の連携については,平成 25年 11月に日本医師会と日本獣医師会が学術連携協定を締結して以降,地方獣医師会においても地方医師会との間で協定締結が進められてきて,まさに本国際会議の開催を控えた 11月 8日に 55地方獣医師会のすべてで地方医師会との協定締結が完了しました.
わずか 3年の間に,多くの困難を伴いながらも,日本全国で医師会との連携体制を確立された地方獣医師会の役職員及び構成獣医師の皆様方のご尽力に対し,心より敬意を表するとともに感謝申し上げます.この連携は,今後,第二ステージに入りますので,具体的な学術連携を進め,社会に貢献していただくよう期待しております.
第2回 One Healthに関する国際会議 2日目の終わりに,世界獣医師会,世界医師会,日本医師会及び日本獣医師会は,「福岡宣言」を提案し,満場一致で採択されました.小職は,主催者の 4団体を代表して「福岡宣言」を読み上げている時,大きな歴史の第一歩を築くことができたと強く感じました.この宣言を出来る限り本会の活動に活用したいと思っています.その「福岡宣言」の全文を,ここに紹介させていただきます.
人類は,地球上のすべての生命に配慮し,地球環境を健全に維持する責任を担っている.医師と獣医師は,科学的知識を持ち,専門的訓練を受け,法に定められた義務を遂行するとともに,人と動物の健康と環境の維持に係る幅広い活動分野において業務に携わる機会と責任を有している.
2012年 10月,世界獣医師会と世界医師会は, “Global Health”の向上のため,また,人と動物の共通感染症への対応,責任ある抗菌剤の使用,教育,臨床及び公衆衛生に係る協力体制を強化するため,両者が連携し,一体となって取り組むことを合意し,覚書を取り交わした.
2013年 11月,日本医師会と日本獣医師会は,健康で安全な社会を構築するため,医療及び獣医療の発展に関する学術情報を共有し,連携・共同することを同意し,協定書を取り交わした.更に,日本医師会と日本獣医師会は,2011年 3月に発生した東日本大震災における教訓を踏まえ,感染症,自然災害などの危機に対し備えることは勿論,医師と獣医師との連携の強化がいかに大切であるかという点についても意見の一致をみた.この協定書締結は,日本全国の地域医師会と地方獣医師会においても達成された.
2016年 11月,世界獣医師会,世界医師会,日本医師会,日本獣医師会の 4者は,2015年,スペインのマドリードで開催された第 1回“ One Health”に関する国際会議に続いて,第 2回目の国際会議を日本で開催した.
医師と獣医師は,世界各地からこの福岡の地に集い,人と動物の共通感染症,薬剤耐性対策等を含む“ One Health”に関する重要な課題について情報交換と有効な対策の検討を行い,評価すべき成果を収めた.
我々は本会議の成果を踏まえ, “One Health”の概念を検証し,認識する段階から, “One Health”の概念に基づき行動し,実践する段階に進むことを決意し,以下のとおり宣言する.
1)医師と獣医師は,人と動物の共通感染症予防のための情報交換を促進し,協力関係を強化すると共に,その研究体制の整備に向け,一層の連携・協力を図る.
2)医師と獣医師は,人と動物の医療において重要な抗菌剤の責任ある使用のため,協力関係を強化する.
3)医師と獣医師は, “One Health”の概念の理解と実践を含む医学教育および獣医学教育の改善・整備を図る活動を支援する.4)医師と獣医師は,健康で安全な社会の構築に係る全ての課題解決のために両者の交流を促進し,協力関係を強化する.
この「福岡宣言」を取り入れて,本会の今後の活動を考えますと,① One Healthの推進による社会貢献と国際協力,②獣医療の質保証と獣医療チームの整備・向上,③獣医療分野の災害対策の推進と広域的救護活動の充実,④獣医師の処遇改善と就業支援の推進,⑤獣医学教育の国際水準達成への支援とその環境整備,⑥獣医師会の組織力・財政力の強化と持続的発展等があげられます.是非ともこれらの活動を次年度に取り組んでまいりたいと思います.本会の会員及び構成獣医師の皆様,更には関係団体の皆様のご協力とご支援により,日本獣医師会・獣医師会活動指針にありますように,獣医師会は,人と動物が共存して生きる社会を目指し,国民生活の安全確保,動物関連産業界の発展による社会経済の安定,地球環境の保全に寄与することを目的に,「動物と人の健康は一つ,それは地球の願い」を活動理念として,国民及び地域社会の理解と信頼の下で,事業を推進してまいる決意であります.
新年のご挨拶の終わりに,日本獣医師会の会員並びに構成獣医師の皆様,関係団体の皆様の本年のご活躍,ご健勝をお祈りし,新年のご挨拶といたします.