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「てんかん危険伝えず」 小学生6人死亡事故、母親にも賠償命令

(2013年4月25日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

宇都宮地裁 「会社への通報容易で事故回避できた」

 栃木県鹿沼市で2011年、小学生6人がクレーン車にはねられ死亡した事故をめぐる損害賠償訴訟の判決で、宇都宮地裁は24日、当時てんかんの発作で意識を失っていた元運転手の男性(28)=自動車運転過失致死罪で懲役7年確定=と同居の母親、元勤務先の会社に対し、小学生の親計11人に計約1億2500万円を支払うよう命じた。

 岩坪朗彦裁判長は判決理由で「母親には会社に(発作の危険性を)通報する義務があったのに、しなかったのは違法」と賠償責任を認定した。原告側弁護士は「成人への監督責任を認めた例はあまりなく、画期的だ」と評価した。

 元勤務先の小太刀(こだち)重機(鹿沼市)は使用者責任を争わなかった。

 一方、小学生の祖父母ら残る原告23人の請求は「民法の定める請求権の範囲に入らない」として棄却した。原告側は総額約3億8千万円の賠償を求めていた。

 判決によると母親は元運転手に乗用車を買い与え、医師には運転していないなどとうそをついた。元運転手が以前起こした事故の刑事裁判では、てんかんについて隠していた。

 さらに、事故が起きた11年4月18日の前夜に元運転手がてんかんの薬を飲んでいないことを知っていたが、会社に通報しなかった。

 岩坪裁判長は「会社に通報することは容易で、事故を回避できた」と指摘した。ただ、母親は元運転手に暴力を受けたことがあることなどから「出勤をやめさせるまでの義務はなかった」と述べた。

発作で事故 三重、愛知でも

 てんかん発作に関する交通事故は、2010年12月に三重県四日市市でも起きた。てんかんの持病がある歯科医師が車を運転中に発作で意識を失い、踏切待ちの男性3人に追突。2人が踏切内に押し出されて列車と衝突して死亡、1人が転んでけがをした。

 判決では、歯科医師は事故前の2年間余に20回の発作を起こし、主治医から運転を控えるよう指導されていたとして、「危険性を容易に認識できた」と指摘。自動車運転過失致死傷の罪で禁錮2年10月が確定した。

 愛知県岩倉市で11年7月に起きた母子2人死亡の事故も、追突した車を運転していた男性が、てんかん発作で意識を失ったのが原因だった。ただ、事故当時は男性本人もてんかんと知らず、予見が難しかったとして不起訴になった。

厳罰以外の対策も

 交通裁判に詳しい高山俊吉弁護士の話 今回のケースは、母親の運転への関与が強いように見受けられ、賠償責任が認定されたのも理解できる。一方で、てんかん患者の周囲にいる人々が「自分もペナルティーを受けるのでは」と過度に運転を控えさせたり、患者自身も運転ができなくなることを恐れて症状を明かさなくなったりする事態を招く可能性もある。具体的な発作の危険がある患者は少なく、予兆がある場合も多い。厳罰や高額賠償は事故防止策の一つだが、症状をとらえて車を停止させる装置の開発なども考えるべきだ。

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