【ロンドン=小滝麻理子】英国のメイ首相が率いる保守党と、北アイルランドの保守系地域政党、民主統一党(DUP)は26日、閣外協力で合意した。保守党は8日の総選挙で割り込んだ下院の過半数勢力を確保し、メイ氏は当面の政治危機を回避した。だが、欧州連合(EU)離脱を巡って両党には温度差が残る。メイ氏の求心力低下にも歯止めがかからず、綱渡りの政権運営が続く。
メイ氏は26日、「非常に良い合意内容」と評価。DUPのフォスター党首も、報道陣に「英国に重要なこの時期に、安定した政権運営に協力するのが国益だ」と述べた。
閣外協力の柱は、女王が読み上げた政権の施政方針演説や予算案でDUPが保守党を支持することだ。テロ対策のほか、EU離脱にからむ法案でも原則的に大枠での協力に合意。その他の法案については個別に協議することになる。
閣外協力と引き換えに、DUP側は勝ち取ったものは小さくない。合意では、北アイルランドのインフラや教育、医療などに新たに10億ポンド(約1420億円)を配分することを盛り込んだ。DUP側が企業誘致の手段として強く求めてきた法人税率の引き下げの権限を移譲することも検討事項になった。
メイ氏はDUPの協力を得て政権維持の体裁を整えたが、今後のかじ取りは難局が続く。
保守党とDUPの議席数は合計で328。過半数(326)をわずかに上回る勢力にしかならない。DUPが案件ごとに協力を拒んだりすれば、重要法案は通せない。
DUPはEU離脱に関しては、離脱後もアイルランドとの国境の自由な行き来やEUとのなるべく自由な貿易の維持などを主張。厳格な国境管理や単一市場の撤退など強硬離脱(ハードブレグジット)を示してきたメイ氏とは温度差があり、両党の協力関係で今後の火種となる可能性がある。
保守党内もいまだ揺れている。総選挙結果を受けて、党内ではEUとの経済的関係を重視する穏健派が勢いを増している。政権ナンバー2のハモンド財務相は「離脱で最優先するのは雇用と景気だ」と話し、メイ氏の強硬路線にクギを刺した。
14日に発生したロンドンの高層住宅火災への対応が不十分だとの批判などから、メイ氏は支持率の低下が止まらない。一部世論調査では、最大野党労働党の支持が保守党を上回っており、メイ氏の責任を問う声も根強くくすぶっている。
野党からは一斉に、閣外協力に対する批判の声が上がった。労働党のコービン党首は「DUPに約束した巨額の資金は一体どこから来るのか」とメイ氏を責めた。スコットランド民族党のスタージョン党首やウェールズの地域政党らも「公平ではない」と述べ、北アイルランドだけが特別扱いされかねないことに強い不満を表明した。
メイ氏は今後、DUPと保守党、野党勢力との間で、何重もの板挟みに陥りかねない。今月19日に正式スタートしたEU離脱交渉は2019年3月までの期限に向けて時間が限られる中、メイ氏が総選挙前に望んだ「安定した強い政権」からは程遠い状況だ。