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234.人間クサイ魔剣
タライオス平野で、メルクーリ反乱軍と帝国軍が真っ向からぶつかり合う、がっぷり四つの戦いになった。
メルクーリ側1500人、対する帝国側は斥候の報告じゃ最低でも6000人。
英雄と大賢者を失ったとは言え、未だに帝国の国力は圧倒している。
こうして一つの合戦にも四倍の兵力で当たれるほどの人的資源、その余力を残している。
帝国軍に対して、こっちはいつぞややったような包囲する陣形で迎撃した。
兵力を正面と左右の両翼に分けた。
左翼は兵1000人、その中にイオとタニアを紛れ込ませた。
右翼は兵500人、人の姿に化けた竜王オリビアを先導させた。
そして、正面。
一人。
エレノアとひかり、魔剣の母娘を持ったおれ一人で迎撃した。
踊る血風、途切れない悲鳴、広がっていく恐怖。
一人で無双し、戦線を維持した。
(くく、楽そうな顔をしおってからに)
(楽なの?)
楽しげなエレノアに、ひかりは不思議そうに聞き返した。
(うむ、大分楽をしておる。平野での合戦だから、抜かれる心配がないのだ。これが城や砦の近くにある迎撃戦なら、こやつがいくら強かろうと大半が抜かれるだろうさ)
(そっか、ここだとおとーさんを倒すしかないもんね)
血風と悲鳴の中、母の説明をうけてひかりが現状を理解する。
そう、正面の敵兵はおれに向かってくるしかない。
エレノアの言うとおりメルクーリ側の拠点が近くにあれば、敵軍の目的に突破が加わるだろうが、今の状況だと敵軍は正面の敵を倒すしか目的はなくなる。
抜かれる心配、追いかける事を考えなくてすむ分、確かに楽ではある。
正面の敵兵三人を一刀でまとめて袈裟懸けに切り捨て、返す刀で包囲してきた敵兵五人を腰から両断する。号令と共に矢と炎の玉が空から雨の如く降り注いでくるが。
「――はあっ!」
エレノアをぐっと握って、気合で弾き飛ばした。
一斉射撃の号令と共に十数メートル下がった前線の兵士たちにますます恐慌が広がり、かかってこなくなった。
まわりに転がってる兵の死体を見下ろす。
ぼつりぼつりと――三十人に一人の割合で、死体の上にくじ引き券が見えた。
迷彩で見えなくしたオーラの腕を伸ばして、剣を掴んで回収する。
ただのくじ引き券だった、そして元の時代と同じくじ引き券だった。
(またでるようになったね、くじ引き券)
「オルティアがメルクーリに入ってからだな、戦場でまたでるようになったのは」
(我々の旅が終わりを迎えようとしているからなのかもしれんな)
エレノアの意見に、おれはなんとなく同意した。
確証はない、誰かに言われたからでも無い。
それでもそう思う、何となくそう思う。
黄金のくじ引き券がタニア、オリビア、オルティアと、この時代に生きるおれが知っている女達と遭遇したあとに現われたのと同じように。
戦場に再びくじ引き券がでるようになったのも、敵が最後の一人になった事の表れなんだろうと思った。
最後の敵、エレノア。
あいつを斬って魔剣の姿に戻せば、この冒険は終わりを迎えるだろう。
くじ引き券の再出現がおれに確信を持たせた。
号令と共に、また敵軍が一斉に前進して攻撃をしかけてきた。
とにかく斬る、斬りまくった。
(ねえおとーさん、おーちゃんとおねえちゃんたち大丈夫かな)
「そうだな、ちょっと見てくるか」
エレノアを握り締め、オーラを溜めて地面にたたきつける。
オーラが爆発を起こし、襲ってきた敵兵が砂煙の中で混乱した。
おれはさっと異次元倉庫を開き、ワープの羽を取り出した。
まずは左翼、イオとタニアのところに飛んだ。
「乱戦になってるときはとにかく魔法を打ち込むことだけを考えて。狙いをつけるより少しでも多く魔法を打ち込むことを考えるの」
「は、はい!」
兵士を前線に出し、魔法使いの二人は後方から援護射撃した。
何回か戦場に連れ出したこともあって、イオはすっかり戦場になれきって、その経験をタニアに伝えていた。
「ここは大丈夫だな」
(うむ)
(次はおーちゃんだね)
うなずき、ワープの羽根をつかって今度は右翼に飛んだ。
右翼ではオリビアが奮戦していた。
500人の兵士を従えて敵兵と戦っている。
面での兵力は負けているが、竜王オリビアの奮戦がまわりに伝染して士気があがり、ほぼ互角の戦いをしていた。
「ここも大丈夫だな」
(おーちゃん強いね)
(竜王だからな、人間どもは相手にならんよ)
両翼の戦いを確認したあと、ワープの羽根で元の場所に戻った。
砂煙がまだ舞っていた。
「や、やつはどこだ!」
「ここは危険だ、一旦引いて砂煙が晴れるのを待つぞ」
敵兵は混乱して、あたふたしていた。
一部が隊長クラスの命令に従って一時撤退したが、大半は砂煙の中であたふたしている。
(ケリをつけよう)
「ああ」
魔剣の母娘を握り直して、777倍の聴力で声を頼りに敵兵を斬っていった。
力で勝っているだけではなく、地形もおれに味方した。
何も見えない中で向こうは同士討ちのリスクを恐れて及び腰になってる中、おれは単独だからとにかく斬っていけばいいだけ。
もちろん万が一の同士討ちを避けるように気をくばった。
呼吸で男のものだと判断した相手だけを斬っていった。
(器用なことを)
(おとーさんすごいね、お姉ちゃんたちのこと愛してるね)
母娘の声を聞きながらとにかく斬っていった。
斬って斬って、斬りまくった、砂煙が晴れても斬り続けた。
やがて、帝国軍が潰走をはじめた。
途中まで「相手は一人だ」と数で押し切る気運があったのだが、ある時を境に部隊単位で逃げ出し始めて、ダムにあいた穴のように決壊し、総崩れになった。
おれは追わず、斃れた敵兵が出したくじ引き券をオーラの腕で回収した。
枚数を数える、98枚――約100枚になった。
(ざっと三千人ってところか)
(ひかり、1752人斬ったよ)
(われよりも多いかも知れないではないか。おい貴様、まだひかりをえこひいきか)
エレノアはひかりには甘いが、魔剣としてのプライドがあるのか、敵を斬った数だけははりあう傾向がある。
……ま、それが面白くてわざと差をつけたんだけどな。
(おい貴様、今から追撃だ。ひかりはオリビアのところにいって遊んでくるといいぞ)
おいおい、そこまでかよ。
魔剣だというのに、最近はこんな風に妙に人間くさいところをみせる。
大半はひかりがらみだが、それでも人間くさい。
それは、割と好――。
瞬間、手に強い衝撃を覚えた。
拾ったくじ引き券がまとめて吹っ飛び、あたりに紙吹雪を舞わせた。
知覚できなかった一撃、完全に虚を突かれた一撃。
それを放ったのは離れた場所に佇む、まったく人間味のない。
「エレノア……」
魔王の様な姿をした、エレノアだった。
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