[PR]

 6年前に福島第一原発の事故を起こした東京電力が、経営陣を刷新し新たな体制を発足させた。この先も長く続く事故対応や、必要な資金を稼ぎ出すための経営改革に向けて、足場を固め直すのがねらいだ。

 事故で経営が立ちゆかなくなりながら国の支援で存続を許されたのは、被災地の復興に重い責任を負ったからだ。経営陣と社員らはこの原点を改めて心に刻み、使命をまっとうしなければならない。

 持ち株会社の社長には小早川智明氏(53)を起用した。保守的な社風で知られる電力大手では異例の若さだ。ほかの幹部人事も抜擢(ばってき)が目立つ。

 これまでは、政府が送り込んだ社外取締役と生え抜き幹部の間で足並みの乱れが指摘された。社内をどうまとめるか。日立製作所の経営を立て直したことで知られる新会長の川村隆氏(77)の役割は大きい。

 東電は膨らむ事故処理費用をまかなうため、事業部門ごとに他社との提携・再編を進めて稼ぐ力を高める戦略を描く。国民負担を抑えるためにも身を削る努力は必要だが、再編が進むほどに東電グループとしての意識が薄れる恐れもある。

 廃炉や復興支援などの事故対応は数十年間にわたり、事故や直後の混乱を経験した社員は時とともに減っていく。そうした中で組織の形が変わっても、加害企業としての当事者意識と責任感をしっかり保っていけるかが問われる。

 風化を防ぐには具体的な行動が欠かせない。

 東電は被災地で賠償や廃炉に直接責任を負うほか、除染作業や事業再開の手伝いなどの復興活動に人員を投じてきた。家の片付けや除草といった地域密着の活動には、大半の社員が一度は参加したという。今後は福島第一原発や被災地での業務を社員研修に組み込むなどして、全員が定期的に経験することにしてはどうか。

 経営陣にとっては、社内の縦割り意識を改めることも急務だ。柏崎刈羽原発で最近、重要施設の耐震性不足を原子力規制委員会に報告していなかった問題が発覚した。社内の連携不足が主な原因というが、福島第一の教訓を真剣にくみ取ってきたのかと疑われても仕方がない。

 電力会社を取り巻く環境は、販売の地域独占をなくす全面自由化で大きく変わった。事故の反省を生かし、監督官庁や自治体、政治家にばかり目を向ける古い体質と決別して、広く社会と向き合う。そうした企業への脱皮を東電に求めたい。

こんなニュースも