長年著作権問題があったハッピーバースデーの歌
誰かの誕生日には必ず「♪ハッピーバースデー トゥーユー」で始まる歌を歌うと思います。
これはアメリカや日本だけでなく、歌詞やメロディーが変わっても結構どこの国でも同じで、世界中に普及した非常に有名な曲です。
実はこの曲が作られたのはそんなに古い時代ではなく、現代でも一部著作権が生きています。著作者は著作料を得るのですが、その報酬はかつて年間2億円以上もありました。
そしてこのあまりに有名になりすぎた曲の著作権が認められるかは、長期間に渡って法廷で戦われていました。
1. 元の曲「Good Morning to All」
ハッピーバースデーの歌の元となった曲は、1893年にアメリカ・ケンタッキー州ルイビルで幼稚園を経営していたパティー・ヒルとミルドレッド・ヒルの姉妹が作った「Good Morning to All」という曲です。
歌詞はこちら。
Good morning to you, good morning to you.
Good morning dear children.
Good morining to all.
ヒル姉妹はこの曲を園児たちの朝の「おはようございます」のあいさつの曲として作曲しました。たしかに、シンプルなメロディーで耳に残って、子どもたちが喜んで歌いそうですよね。
ではいつから「Good Morning to All」が「Happy Birthday to You」と歌詞を変えて歌われたのか。
実は正確には分かっておらず、ごく初期の頃から様々な替え歌が幼稚園内で歌われていたと考えられます。
確かに、「Good morning」を「Happy birthday」に変えるだけなので、めちゃくちゃ汎用性が高いですよね。
「Happy Birthday to You」が掲載された歌集で最も古いものは1912年のもの。これには著作権やクレジットは記載されていません。おそらくこれより以前にも掲載されていると考えられていますが、その印刷物は見つかっていません。
「Good Morning to All」と「Happy Birthday to You」は人気の歌になり歌集に数多く掲載れるようになりますが、初期の頃はクレジットが入っておらず、ほとんど著作権は野放し状態でした。
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2.ワーナー・ミュージックが著作権を得る
1935年、歌集にクレジットがないことに目をつけたサミー・カンパニー(Summy Company)という会社が、プレストン・オレム(Preston Orem)とR.R.フォルマン夫人という人物二名を著作者として著作権登録をしてしまいました。
この会社は、当時まだ存命だったヒル姉妹が著作料を得られるように「Good Morinig to All」を姉妹の名前で著作権登録をしてあげました。彼らがHappy Birthday to Youの曲の著作者となれたのは、もしかしたら登録作業のバーターだったのかもしれません。
1962年5月19日、マリリン・モンローが大統領ジョン・F・ケネディの誕生祝賀会で歌った「Happy Birthday to You」はあまりにも有名です。
彼女のエロ過ぎる歌声は、世界中の男性の股間を直撃したに違いなく、ケネディ自身も「オレもう政治家辞めていいわ」と冗談を言ったほど。
1988年、サミー・カンパニーは大手レコード会社ワーナー・ミュージックに2500万ドル(約25億円)で買収されました。結構な高額の買収のように思えますが、当時「Happy Birthday to You」の曲が持つ価値は500万ドル(約5億円)と見積もられました。
権利を数年保持していたらいつかは減価償却できるはずと考えられたのでしょうが、実際この曲は年間200万ドル(約2億円)の著作権料があり、そのすべてがワーナー社の利益となりました。総計では5000万ドル(約50億円)もの利益を上げたと推量されています。実は相当安い買い物だったのかもしれません。
3. 2016年にようやく「パブリック・ドメイン」に
ワーナー社は、初めて「Happy Birthday to You」の曲が著作権登録されたのは1935年であるため、著作権は2030年まで有効であると主張しました。音楽などの著作は95年間著作権が保護されるという、「ソニー・ボノ著作権法」に則った主張です。
ワーナー社の主張では、「Happy Birthday to You」を公共の場で流したり、公演で歌ったりする場合は著作権料が発生し、支払わないのは違法だとしています。2010年のある事例では、「Happy Birthday to You」を歌ったがために700ドルの支払いを命じられたケースもありました。
しかし、これほどまでに普及してしまった歌に著作権を求めるのはいかがなものか?
レストランが誕生日のお客さんにサプライズ・サービスをする時も、都度ワーナー社にカネを支払わねばならぬのか?
そもそも、この曲の元々の著作者はヒル姉妹であってワーナー社は関係ないし、1893年に出来た曲だからワーナー社が著作権を買い取った時点で既に失効しているのではないか?
1998年のソニー・ボノ法成立後、ワーナー社のドル箱であった「Happy Birthday to You」の著作権問題がにわかにクローズアップされるようになりました。
アメリカの法律学者ロバート・ブラウニーズは「Happy Birthday to You」の著作権問題を総合的に検証した結果、2010年に「この曲の著作権は既に失効している」と結論づけました。
これに対し、ワーナー社は「ロバート・ブラウニーズの主張は明確な誤りであり、当社への著作権侵害に当たる」と主張してロバートを相手取って裁判所に訴えました。
長年の審議の結果、2015年9月に連邦裁判所はワーナー社の「ロバート・ブラウニーズによる著作権侵害」の主張を無効であると宣言。
ワーナー社が保有する著作権は、歌詞やメロディーにはなく、特定のピアノのアレンジのみに適応されるとの判決を下しました。
2016年、敗訴したワーナー社は1400万ドル(約14億円)を支払って和解し、ようやく「Happy Birthday to You」はアメリカ国内においてパブリック・ドメインであると認められました。
まとめ
「Happy Birthday to You」はあまりにありふれた歌ですが、ほんのつい最近まで著作権がかかっていたのですね。
ここまで広まりすぎてしまった曲の著作権となると、どこまでがOKでどこからがOUTなのかの線引も困難です。
オリジナルも日本でも、3行目の歌詞では「Happy birthday dear **」と人の名前が入りますが、国によっては「Happy birthday, Happy birthday」と二回繰り返すパターンもあったりします。これも著作権料がかかるのか?とか。
重箱の隅をつつけばいくらでも抜け穴は出てきますし、合法ながら著作者ではない人間が著作権収入を得てガッポガッポなのは、倫理的にどうなんだ?というのものあります。
著作権は守られるべき重要なものでありますが、その権利の濫用はいかがなものか、というのを考えさせられる事例です。
参考サイト