イーロン・マスクは常人の「8倍速」で目標を達成している:調査結果
ロケット開発、自律走行車、大都市の地下を進むトンネル…と、さまざまなプロジェクトを恐るべきスピードで実現していく男、イーロン・マスク。彼の事業とほかの企業の取り組みを比較した結果、彼が通常の「8倍の速度」でプロジェクトを進めていることが明らかになった。
TEXT BY JACK STEWART
WIRED(US)
犬にとっての1年は、人にとっての7年に相当することをご存知だろうか? ふわふわした毛に覆われたあなたの友人は、人生のすべてを短い期間に凝縮しているのだ。
考えてみれば、次々と起業や発明を繰り出すイーロン・マスクは、ある意味でそんな生き方を体現しているように思える。テスラ、スペースX、そしてボーリング・カンパニーを率いる彼は、何事もたいていの人が可能だと考えるより、もっとスピーディーに実現されるべきだと信じているようだ。マスクの世界では“締め切り”が通常より短いので、3カ月なら十分な開発期間となる。では2020年は? 遥か遠い未来だ。
「1イーロン年」と、地球が太陽を1周する時間が等しくないのは明らかだ。そこでわれわれは、彼が目標として設定した期日や納品実績、そして未来予測を基に「1イーロン年」の長さを算出してみた。すると、彼の1年は彼以外の世界にとっての約8年に等しいことが明らかになった。以下、過去に彼が成し遂げたことを振り返ってみよう。
ロケットをつくる
2002年にマスクは、ロシアからロケットを買うのはコストがかかりすぎると判断し、自分でつくるべく「スペースX」の立ち上げを決心した。08年に彼の「ファルコン1」は、民間資本で初めて軌道に到達したロケットとなった。
2000年にアマゾンのジェフ・ベゾスも、民間宇宙開発ヴェンチャー企業、ブルー・オリジンを設立している。ブルー・オリジンは、ロケットの軟着陸を実証できたものの、宇宙に届きやすい高度まで到達しているに過ぎない。実際に軌道へ乗りそうな同社のロケット「New Glenn」は、2020年までの打ち上げが予定されている。
これは6年対20年であり、1対3.33の時間比となる。
自律走行車をつくる
フォードは、完全な自律走行車を2021年までに市販するという。Uberとボルボも、同じくらいの期間を想定している。一方でマスクによれば、テスラは17年末までに全米を自動運転で走れる予定だという。
1年対4年、時間比1対4。
ロサンゼルスからサンフランシスコまでの移動
カリフォルニア州の高速鉄道プロジェクトが実現すると、サンフランシスコからロサンゼルスまで最高時速220マイル(時速約354km)で3時間もかからず移動できるようになるという。一方、マスクはハイパーループの構想を打ち出した。真空に近いチューブのなかを時速700マイル(時速約1127km)前後で走り、30分で移動するというものだ。現段階ではどちらも等しく現実的でない。
30分対180分、時間比1対6。
トンネルを掘る
マスクはトンネルを掘っている。なぜなのかは誰もよくわかっていない。どうやら交通渋滞を避けるためのものではあるらしい。彼はこれを実験の初期段階だと語っている。彼によれば、現在のトンネル掘削機はカタツムリの1/14の速さでしか動けないのだという。彼のボーリング・カンパニーの目標は、カタツムリと競争して勝つことであり、その過程でトンネル掘削業界に衝撃を与え、精神をすり減らす交通渋滞から人類を救おうとしているのだ。
時間比1対14。
手の届く電気自動車を販売する
「自動車会社を立ち上げること自体愚かなことかもしれないわけですから、電気自動車会社なんて愚の骨頂です」と2016年に発表されたマスタープラン(パート2)のなかでマスクはそう述べている。それでも彼は止まらなかった。しかも、マスクの常軌を逸した目標設定は他社をも動かしてしまうのだ。シボレーはボルトEVのコンセプトカーを15年1月にデトロイトオートショーで披露し、16年12月までに販売へこぎつけた。これはすごいことである。
テスラのモデル3は、2016年3月に初公開され、生産は17年7月に開始される予定だ。最初の生産品はまず従業員たちのもとへ行くことになってはいるが(もちろんどちらの車も公開のだいぶ前から開発に取りかかっていたであろうが、それでもすごい)
16カ月対24カ月、時間比1対1.5。
自動車生産ラインを稼働させる
マスクは機械をつくる機械が大好きだ。彼の工場は、そこから生産される車、バッテリー、ソーラーパネルと同じくらい重要な製品である。しかも彼は、それをもっと速く動かせると考えている。「バッテリーセルの出荷速度は、マシンガンから発射される弾より速くなるだろでしょう」。2016年、彼はギガファクトリーから出荷されるバッテリーセルについてそう述べた。
現代の自動車生産ラインは、3分に1台の車を容易に完成させられる速度で動いている。これに対して、カリフォルニア州フリーモントにあるモデルSとモデルXの生産ラインは、現在、毎秒約5センチで動いている。テスラはそれを20倍の速度にあげることができると彼は主張する。つまり毎秒1メートルだ。10秒ごとに1台の車が生産されることになる。もしかしたら、もっと速くなるかもしれない。
10秒対180秒、時間比1対18。
火星へ行く
NASAは、2030年代までに人類を火星に送ろうとしている。マスクは、自社のスペースXが60年代までに火星で(何百万人規模の)文明社会をスタートさせることを夢みており、人による最初のミッションは25年に行う想定だという。
1年対8年、時間比1対8。
調査結果
イーロン・マスクのさまざまなプロジェクトの時間比を平均すると1対7.83となる。つまり、彼は平均的な人が8年近くかかってすることを、およそ1年でやろうとしていることになる。あなたのイヌ科のお友達と似ていなくもない。テクノロジー業界の最も忙しい人物がこれほどのことをやり遂げてしまうのも、不思議ではないのだ。
SHARE