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この作品「水滴の中」は「佐倉慈」「がっこうぐらし!」等のタグがつけられた作品です。

りーさんはめぐねぇのことが好きだったんだよめぐねぇもりーさんのことが好きだった...

水滴の中

tama

2017年6月25日 23:17

りーさんはめぐねぇのことが好きだったんだよめぐねぇもりーさんのことが好きだったんだよでも両想いではなかったんだよ

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道路の上に広がるのは「水たまり」ではなく、最早池と呼ぶべきものだった。その中にぽつぽつと離れ小島が生じているが、源義経ではあるまいし、身軽に跳躍して渡航できるはずもない。雨が降るたびに水の溜まりやすい場所ではあったが、こんなに酷いのは初めてだ。「もう、仕方ないよね」と独り言が漏れた。一歩目を恐る恐る踏み出してみる。ローファーがじゃぶじゃぶと嫌な音を立てる。それから間を置かずして靴下が水浸しになる。
ここまで来たら走り抜けてしまえばいいのに、何だか怖い。水底に亡霊が潜んでいるわけでもないのに。下校してからずっと握り締めていた、私をずっと守ってきてくれたはずの傘がどこか頼りない。折り畳みではない大きくて丈夫な傘なのに。
靴の浸水は収まらず、足先からはどんどん体温が失われていく。もしかしたらこれは少し気持ちいいのではないか、と思い始めた時に後方から自動車のエンジン音が近づいてきた。見覚えのある車だった。その車は私に近づくにつれみるみる減速していく。私が捕らわれている池の前に来たとき、ついに静止してしまった。そして運転席の窓が開いた。「悠里さん、どうしたの」と呼びかける優しい声が、激しい雨音をくぐり抜けて届いてくる。
「水がすごくて、動けなくて」
先生が車から降りてきた。ヒールが何のためらいもなく水を蹴る。傘を握る手に、ずっとハンドルを握っていたであろう先生のそれが触れた。冷たさに順応しつつあった身体には、火傷しそうなほどに熱く思える。導かれるがままに先生の車に乗ると、自宅よりも安らげるような気がした。先生がシートベルトを着用し、ハンドルを握り直した。
助手席に乗せてほしかったのに、先生は私を後部座席に通した。それが不服で、「そのまま通り過ぎてもよかったのに」と意地悪を言ってみたのに、先生は怒らなかった。
「自動車はね、歩行者に水を跳ねたら法律違反なのよ。だから徐行しないといけないんです」
「あそこにいれば、こうやって先生が拾ってくれると思って、ずっともたもたしてたんです」
「そうだったの」
「だから、拾ってくれなくてもよかったんですよ」
いっそのこと降ろしてくれてもいいとすら言い放ったのに、先生は「馬鹿なこと言わないで」とだけ返してきて、前方をじっと見つめる。車内には天井を叩く雨の音とラジオの音声が淡々と鳴り続ける。この付近で発生した盗難事件のニュースだ。市内で連続三件発生し、警察が懸命に捜索に当たっているそうだ。物騒ですね、と背後から話しかけてみたが、何のことかと逆に尋ねられてしまった。
「ラジオ聞いてないんですか」
「うん、いつも何となく鳴らしてるだけなの。行きも帰りも」
それ以上の会話を交わすこともなかったが、すぐに最寄り駅に着いた。タクシーの姿すら乏しいロータリーに我が物顔で進入する。私は降りたくないのに、先生は「それなら悠里さんが降りるまでずっと待ちます」と言って譲らない。
「別れるときが寂しくなるから、乗せてもらわないほうがよかった」
「別れるのが寂しいのは、悠里さんだけじゃないのよ」

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