留学しても、いろいろなハードルがあり、日本での就職を選ばざるを得ない、という学生は多い。
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グローバルに活躍できる人材の採用を強化する企業が増え、海外留学生へのニーズもますます高まっている。学生側も、留学経験者を中心に海外転勤を含めた海外と関わる仕事を求めるケースも増えてきている。 にもかかわらず、なぜ「グローバルエリート」として海外での現地就職を選ぶ日本人学生は少ないのか?
現地就職したのは6%
ディスコキャリタスリサーチが2017年の2月~3月にかけて行った調査によると、日本人で海外留学経験のある9割以上(ぜひ働きたい=72.8%、どちらかといえば働きたい=19.1%)が海外での勤務を希望していることがわかった。これは留学経験のない学生の45.2%(ぜひ働きたい=19.2%、どちらかといえば働きたい=26%)と比べても極端に高い。
日本企業の国際的なプレゼンスが低下する中、日本での就活(日本企業、外資系企業)に止まらず、直接海外での就活に挑む、というのも学生の中で選択肢のひとつになってきている。
しかし、現実はそう簡単ではない。JASSO(日本学生支援機構)が2011年に行った日本人留学生の追跡調査によると、留学後に現地就職した学生の割合は5.8%。2004年の2.8%と比較して増えてきてはいるものの、留学生にとってまだまだ現地就職の壁は高い。
「一番大きいのはビザの問題ですね。特にアメリカのケースですが、昨年のトランプ政権発足からは外国人の就労ビザの基準がさらに厳しくなった。その影響もあり、最初から諦めてしまう学生も多いと思います」
ディスコ広報課の吉田治課長はそう語る。
有給インターンビザでつなぐ「就活」
慶應義塾大学経済学部からサンノゼ州立大学に1年間の交換留学をした瀧澤優作さん(22)は、1年間という期限付きだが現地のスタートアップでの採用を勝ち取った。当初は1年間の留学期間が終わったら帰国するつもりだったのだが、どうしても現地で就職したいと思うようになったという。
他国と比べて、現地に残りたいと望む日本人留学生の割合は少ない。
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「日本の会社に入って日本人向けのサービスを作ったとしても、人口が1億人くらいしかいない市場で先細りするのは目に見えている。サンフランシスコに来たら、最初からみんな世界を見ているし、あらゆることのスケールが圧倒的に大きい。インターンでも月収100万円プラス家賃補助20万とか、そういう世界です」
現地に残ろうとあらゆるツテを頼って“就活”した結果、あるスタートアップからインターンシップのオファーを受けた。無給だったが、1カ月後に成果が認められ、J-1ビザ(1年もしくは1年半の間、有給でインターンシップができるビザ)で働くことになった。
「こっちでなんとか仕事を得ようとしている日本人留学生は全然いないですね。4年間留学している人はビザも自分よりははるかに優遇されている。もっとチャレンジすればいいのに、と思います」
瀧澤さんは無事J-1ビザを得られたが、大変なのはこれからだ。
「自分は経済学専攻で、これと言って売れるスキルがない。シリコンバレーでの就活はネットワークがものをいいます。1年間で自分の能力を磨いて、もっといい会社にステップアップできるよう頑張らないと」
就職するために専攻を選ばなかった後悔
アメリカでの就活は熾烈だ。競争相手は世界中からやってくる。
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ビザ以外の理由もある。アメリカの名門大学を卒業し、総合商社からの内定を取ったAさん(22、男性)は語る。
「アメリカの就活はアメリカ人でも本当に大変。同級生で卒業時点で内定をもらっている子は3割くらいという感覚。アメリカでは基本的にポジション採用なので、新卒でも50歳でも採用プロセスは同じなんです」
UCバークレーを出たアメリカ人の友達は、150社受けてやっと1社から採用通知をもらったというような状況だった。こうしたアメリカの熾烈な就活状況を目の当たりにし、新卒で年収1500万円というような「アメリカン・ドリーム」に挑む日本人学生は少ない。
そもそもインドや中国などから来る優秀な学生は、最初から就職まで見通してビザを取りやすいSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)の専攻を選ぶという。出身国の現地ネットワークも強い。出身国の大気汚染の問題や家族が現地に残ることを強く望んでいるなど、彼らにとってアメリカに残らなければならない理由は日本人よりはるかに切実だ。
それに比べると日本の学生は就活を見据えて専攻を選ぶ人の割合は少ない。Aさんも専攻を決めた時は就活のことまで考えていなかったが、今はコンピュータサイエンスにしておけばよかったと少し後悔しているという。
同期から「これから40年間、よろしく」
エリート留学生にとって日本での就活は「ラクすぎる」?
写真: 今村拓馬
Aさん曰く、「日本の就活はそれに比べるとずっとマシ」。
「ボスキャリ(ボストンキャリアフォーラム、ボストンで毎年行われる、海外留学生を対象にした大規模な就活フェア)」のようなキャリアフォーラムもあるし、企業が定期的に海外まで足を運んで大学で説明会を開いてくれる。その場に来るのも人事権を持った採用担当者が多く、お互いラフに話してすぐに採用が決まるケースも多い。
「受けた会社全部から内定を取ったという子もざらです」
Aさんが日本の総合商社に決めた理由は、自分の専攻に関係する事業を手がけていたから。
だが今、数年以内の海外大学院進学も視野に入れている。ほとんど日本の就活を経験することなく、大手企業から内定を取ってしまったがゆえのミスマッチをすでに感じているからだ。
「内定者懇親会でいかにも体育会系という感じの同期に『これから40年間よろしく』と握手を求められて、冷や汗が出ました。これから入る企業にずっといるつもりは正直、ありません。日本企業のドメスティックな企業文化に自分が馴染めるか不安です」
学生時代から世界に触れ、卒業後もグローバルに働きたいと望む日本のエリート留学生たち。しかし、日本人であることを捨てた現地での就活は、世界中の優秀な学生との競争だ。結果、日本での就職を選ばざるを得ない状況になっているが、日本企業は彼ら彼女らを生かせるのだろうか。