例年以上のハイレベルな戦いが予想されるとともに、「カジツの高校総体出場は?」と注目を集めた九州高校総体新体操競技は、6月24日14時半に始まった。
試技順1番で登場したのは優勝候補の神埼清明高校(佐賀県)。
まだ、会場の空気も温まっていない中での登場だったが、下馬評とおりの圧倒的な強さを見せつける演技で、17.900の高得点をたたきだす。点数が出にくいと言われる試技順1番としてはこの上ない得点だ。しかも、ラストポーズの静止がやや不十分だったように見受けられたが、それでもこの点数というのが、神埼清明の強さが突き抜けていたことの現れだ。
2番で登場した芦北高校(熊本県)は、演技冒頭の動きで会場を静まりかえらせた。静かで穏やかな曲調から急にスリリングな曲に変わり、力強い旋律を経て、希望を感じさせる美しい曲調で終わるこの作品は、1年前の熊本地震からの復興をテーマにしているそうだ。年々力をつけてきてはいたが、今一歩、印象が薄いと言われてきた芦北高校が、自分たちの「持ち味」を強く訴えることに成功した作品についにたどりついた!と感じさせる演技で、やや倒立で揺らぎはあったものの、16.000をマーク。
そして、3番目に鹿児島実業高校(鹿児島県)が登場した。
この日の鹿児島実業は、会場練習のときから気迫に満ちていた。
決して楽な試合ではないとわかってはいただろうが、そのことが選手たちによい緊張感を与えているように見えた。
樋口監督もいつも通り、穏やかな雰囲気ではあったが、少しだけいつもよりも笑顔が少ない気はした。
監督にもただならぬ重圧がかかっていたことは想像に難くない。
彼らは何回も何回も細かい部分を修正し、動きを揃えていた。
事前に学校での練習を取材したとき、選手たちが口々に「実施勝負!」と声を出しながら練習していたことを思い出す。
最後の瞬間まで、彼らは実施を磨き続けている。そう感じた。
鹿児島実業の作品は、昨年の高校総体でお披露目した「ウルトラセブン」のままだったが、その実施力は格段に磨かれていた。
さらに。
鹿児島実業の持ち味であるユニークな振り付けは生かしながらも、これまでに審判から減点や批判をくらった部分はすべて修正してきていた。こうなれば、鹿児島実業のあの振りは、音楽と最高に一致し、6人が見事にシンクロした見事な振りでしかない。
男子新体操の名門である青森山田高校や井原高校などの演技にも、技ではない動きは多い。そして、そこが彼らの演技が「すばらしい!」と評価される所以なのだ。
だとしたら、減点要素を排除した鹿児島実業のこの演技ならば、十分得点は出せる可能性はある、はずだと感じた。
そのくらい。
鹿児島実業は、今回、かつてなく本気で点数を取りにきていた。
彼らの美しく、かつ表情豊かな指先から、美しく伸びた足先から、音をきっちりなぞるシャープな動きから、その真摯な思いが伝わってきた。それは練習のときからずっと変わらなかった。
こんなに真剣な、こんなに張り詰めた空気の鹿児島実業は初めて見た気がした。
それはおそらく。
いつものように彼らに密着していたテレビ局のクルーにとっても同様ではなかったか。
どこの大会でも、鹿児島実業の取材が楽しくてたまらない! という様子だったテレビクルーもこの日は、言葉少なく神妙に、ただ彼らを見守っていた。
そして、そのときがやってきた。
冒頭のウルトラセブンの部分ではいつもより笑いは少なめだった。
笑うには、あまりにも彼らの動きは美しかった。
観客も笑うのではなく、見入っているようだった。
そして、どんな動きからも真剣さが痛いほど伝わってきた。
倒立ではわずかに揺れが見られた。
しかし、ここでも練習が生きた。
練習で倒立を失敗した選手に、樋口監督は「失敗したときこそ、減点を最小限に抑えられる対処をしろ」と言っていた。
そのとおりにできた。
完璧ではなかったが、傷を大きくしなかった。
ここでも彼らの執念、意地が見えた。
こうなってみると、鹿児島実業のあの演技が、ただ「ふざけている」んじゃない、と改めてわかる。
誰よりも真剣に、彼らは「見る人を楽しませよう」としてきたんだ。
楽しませたいから精度はあげていかなくてはならない。ミスもできない。
さらに言えば、試合での得点は出にくい。
それでも認めさせる演技をするために、すさまじい努力を重ねてきたに違いない。
この日の鹿児島実業の演技は、そう感じさせるものだった。
目に付いたミスは、倒立での揺れくらいだった。
鹿児島実業は、自らが志した「実施勝負」の演技をやりきった。
それでも、会場もおおいに盛り上がった。減点覚悟のおふざけがなくても、カジツの演技はやはり面白い、のだ。
樋口監督は選手たちを笑顔で迎えていた。
どんな結果になるとしても、選手たちはよくやった、そう思っている笑顔だった。
鹿児島実業のこの演技に出された得点は、14.750。
構成7.85、実施6.90。
「タンブリングの難度がライバルチームに劣る」とは、樋口監督も自認していただけに、構成点が低いのは仕方ないかもしれない。
が、実施はもっと高くてもよいのではないかと感じたが、それも「いや、あちこち引くところはあったので」と、試合後に顔を合わせたとき、樋口監督は受け入れていた。
そうなのかもしれないが。
少くとももう少し高く評価されてもいい、と感じさせる演技ではあった。
4番目に登場した小林秀峰高校(宮崎県)は、地元開催ならではの大歓声の中、古豪らしい貫禄を見せ、倒立もしっかり決め、17.050。
ここまでの順位は、神埼清明、小林秀峰、芦北、鹿児島実業。
6番目の日出総合高校(大分県)は、部員不足で6人編制にできていないため、あとは5番目の福岡舞鶴高校(福岡県)次第という展開になった。
福岡舞鶴高校は、ここ数年、惜しいところで高校総体出場を逃しており、今年こそは! と一丸となっていた。
ここで14.750以上をマークして4位以内に入れば、初出場が決まる。
しかし、福岡舞鶴にとっての14.750は、楽に出せる点数ではなかった。
今年3月の高校選抜では13.725、5月の全日本団体選手権では14.875。
大きなミスが出てしまえば、また今年も高校総体の切符が手をすりぬけていく。
ましてや福岡舞鶴高校には、新体操用のフロアマットがない。
そのため日ごろの練習では、タンブリングを入れての通し練習がほとんどできないというから、本番でミスが起きてしまう可能性は低くない。ましてや、悲願の高校総体出場のかかった大一番だ。
「いつもとおりの演技ができればいける!」
そこでいつもとおりにやることが、じつは一番難しいものだ。
結果的には、福岡舞鶴は自分たちの演技をやりきった。
ミスらしいミスはなく、彼らの気迫が十分に伝わる演技だった。
得点は、15.750。この土壇場で、団体選手権を1点近く上回る得点をたたきだし、4位に飛び込み、初の高校総体出場を勝ち取ったのだ。
この結果、鹿児島実業の高校総体出場はなくなった。
2011年の青森総体から続いてきた出場がここで途絶えることになった。
そのことを残念に思う人はもちろん多いだろう。
しかし、一方で4位の福岡舞鶴が高校総体に出られることは、多くの人の希望になる。
しかも彼らは文句なしの演技を、大事な場面で決めてみせたのだ。
思い返せば、3月の高校選抜では、福岡舞鶴は、13.725、鹿児島実業は、9.500だった。
この3か月間、彼らがどれほど必死に努力してきたかは、得点の伸びだけを見てもわかる。
競技人口の少ない男子新体操に欠けがちな「厳しい競争」がこの進化をもたらしたのだ。
くやし涙もあった。
歓喜もあった。
間違いなく語り継がれる名勝負だった。
そして、高校総体への出場こそはかなわなかったが、「本気のカジツ」の演技は、美しく、素晴らしかった。
彼らのあの全身全霊の演技には、得点以上の価値があった。
激戦の九州を勝ち抜いた4チームは、高校総体に向けて。
そして、鹿児島実業は、次に向かって。
この夏を駆け抜ける。
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