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 ネット空間はだれもが自由に情報をやりとりする場だ。規制は最小限でなくてはならない。

 しかし中国政府は、そう考えていないようだ。今月、「インターネット安全法」が施行された。すでに厳しいネット管理・統制をさらに強める法律だ。

 実質的に言論の自由を否定する内容であり、中国で活動する外国企業にも大きな影響を与えるおそれがある。

 習近平(シーチンピン)政権は「ネット主権」を主張する。ネットにおいても国家の安全・秩序維持を最優先させる考え方だ。

 今回の法律は利用者の実名登録を徹底させ、ネットを通じた「政権転覆」や「国の分裂」の扇動を禁じる規定を掲げる。ネット空間を厳格に監視する体制を築こうとしている。

 各国で政府機関や企業がサイバー攻撃にさらされたり、ネット犯罪が横行したりしており、対策は追いついていない。だがそうした問題への取り組みと、言論の封じ込めを混同するわけにはいかない。

 法律の施行と前後して、著名な改革派の学者がネットで発信できなくなった。外国メディアのサイトが閲覧できない、世界の人々が交流するフェイスブックのようなソーシャルメディアが使えない、などの措置は以前から続いている。

 政権批判につながる文言が流れるのを警戒しているとみられるが、ネット時代に逆行する異常な取り締まりである。

 何かにつけ国家の安全を名目に市民の権利を軽視するのが中国当局のやり方だ。今回の法律も、そうした傾向を強めるものでしかなく、利用者の自由を守る発想は欠けている。

 中国で展開する外国企業にも不安が広がっている。

 ネット関連の製品・サービスは「国家標準に適合しなければならない」とされ、外国企業の事業を制限しかねない。犯罪捜査に際し「技術的支援、協力」を義務づける点については、企業秘密の技術を取られるのではないかと心配されている。データの国外持ち出しに規制をかけているのも穏当ではない。

 日本を含む多くの国の企業団体が主体となり、強い懸念を示す文書を中国政府に提出したが、法は施行されてしまった。

 世界で重きをなし、積極的な外交に打って出る大国が、いっぽうで国を閉ざし、社会を息苦しいものにしている。

 恣意(しい)的な法執行を少しでもなくすよう、中国の外からも引き続き監視しなければならない。それは声を上げられない中国の市民のためでもある。

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