もうすぐ7月。人事異動が少なくない季節です。すでに、内示を受けたビジネスパーソンもいるでしょう。それが嬉しい異動だったら良いのですが、不本意な命令だったら、たちまち目の前が暗くなり、「どうして、こんなことに」と上司を恨みたくなってしまいます。
そこで今回は人事異動で勝つヒントを、平安時代の昇進エピソードから探ってみたいと思います。
というのは今昔物語の中に“平安時代の朝廷で鳴かず飛ばずだった紫式部の父親が、天皇に漢詩を贈ったら出世した”という有名なエピソードがあるのですが、よく調べてみると、その裏になんともリアルな“組織の事情”が隠れていたのです。そこを掘り下げれば、人事異動に勝つ知恵が得られるかもしれません。さっそく今昔物語のエピソードからご紹介しましょう。
今昔物語集の第24番に「藤原為時、詩を作りて越前守に任ぜらるる語」という話があります。平安時代の朝廷で、本当にあった話として語り継がれています。
藤原為時といえば、「源氏物語」を執筆した紫式部の父親として知られています。文才に長けた人で、花山天皇の治世では式部丞(文部科学省のようなところ)・六位蔵人(出世コースの役職)に任じられていましたが、一条天皇の治世になるとともに辞任し、その後10年間も官職に就けず貧乏暮らしを余儀なくされていました。
しかし996年(長徳2年)の除目(人事異動)のとき、一条天皇に次の漢詩を贈ったことで一足飛びに越前の国司(知事のような役職)越前守に任じられたというのです。
苦学寒夜紅涙潤襟 除目後朝蒼天在眼
(苦学の寒夜。紅涙襟を霑す。除目の後朝。蒼天眼に在り。)
※寒い夜に耐えながらも勉学に励んでいましたが、昨年の除目では希望する官職に就けず、紅い血の涙が袖を濡らしております。しかし除目が変えられたら、蒼天(一条天皇のこと)に忠誠を誓うでしょう。