左翼がベネズエラを語らない理由

RyanMcMaken, “Why the Left Refuses to Talk About Venezuela,” Mises Institute, 05/18/2017, [https://mises.org/blog/why-left-refuses-talk-about-venezuela]

二〇一六年の大統領選挙において、バーニー・サンダーズはユニビジョンのインタビューでベネズエラの疑問に答えることを拒絶した。[1]「わたしのキャンペーンに焦点を当てる」ために語りたくないと主張したのである。多くの人々がもっと、さもとらしい理由を示唆した。すなわち、ベネズエラの現経済は国家がバーニー・サンダー式社会民主主義を実行するときに何が起こるかの実例なのである。

フランシスコ教皇――数百万人を貧困に追い込むと申し立てて市場派イデオロギーを非難することに時間をかけてきた彼[2]――も同じで、近年のベネズエラの無制約な貧困を語ることに関心がないようである。[3]

フランシスコ教皇は自ら目に余る不正義とみなすものに対して尻込みするような者としては知られていない。難民と移民、貧困、環境のような争点にかけて、フランシスコは力強く語り、そうする際に鮮明な言葉を使う。

けれども、ベネズエラで抗議者に加えられる日々の暴力、着実に増加する総死亡者数、犯罪の急増、手に負えないほど蔓延る腐敗、跳ね上がるインフレーション、司法のあからさまな政治化、基本的な食料と医療の供給の消失、圧倒的にカトリック系なラテンアメリカの国を分裂させているこの危機について、ラテンアメリカ初の教皇のコメントは奇妙にも控えめであった。

ベネズエラに実際に住んでいるカトリック司祭がこの政権をして、「この体制が実施されてきたすべての国における社会主義の「完全失敗」のもう一つの実例であると非難してきたにもかかわらず、この事実上の沈黙ときた。

ゆえに、多くのベネズエラ人にとって、疑問はこうなる。「フランシス教皇はどこにいるんだ?」

フランシスコがサンダーズと同じくベネズエラのことを何一つ語らない理由はまさに、ベネズエラ政権がバーニー・サンダーズとフランシスコ教皇その他、市場経済のいつもの反対派が支持する種類の政策を追求してきたからであると言っていいだろう。

それは、価格統制と政府の私有財産収用、膨大な福祉国家、中央計画、平等と貧困緩和についての果てしないレトリック、いわゆる「ネオリベラル」との戦いに印付けられる経済綱領である。

そして、お役立ちにもベネズエラ大統領ニコラス・マドゥロが説明したとおり、[4]「在るモデルは二つ、すべてを破壊するネオリベラル・モデルと、人だかりができるチャベス主義モデルである」。

チャベス主義モデルとは端的に、アメリカ合衆国とヨーロッパの両方で非常に多くのグローバル政治エリートに信奉されたハードな左翼イデオロギーのベネズエラ版とすれば容易に認識可能な、社会民主主義と環境主義の混合である。かたわら、ネオ自由主義とは――わたしがかつて書き留めたとおり[5]〔第一章を見よ〕――実際にはほとんどの場合、相対的に自由市場で控えめなレッセフェールのシステムを意味するにすぎない曖昧な用語である。

実際、キューバと北朝鮮を除けば、申し立て上のネオリベラリズムの脅威との明示的な戦いを行ってきた政権は、〔ベネズエラの〕他にはこの世に存在しない。

こういう理由で我々は、ベネズエラが混沌に落ち零れるにつれて、他の主な左翼でさえ気づいたとおりの、左翼のほぼ全員の深い沈黙を耳にしているのである。

たとえばペドロ・ランゲ・チュリオンが『カウンターパンチ』の記事で指摘するとおり、

それが良いニュースで、チャベスが左翼の旗印として使えることができ、彼の突飛な行動がその滑稽さで人を安堵させてくれたころは、ベネズエラは新しかった。しかし国が破滅のスパイラルに突き進み、チャベス主義が他のラテンアメリカ権威主義政権に似始めるやいなや、見てみぬふりをする方がよくなった。

にもかかわらず、ランゲ=チュリオンは献身的な左翼として、残念ながら今なお間違って、ベネズエラの問題が政治的であり経済的ではないと考えている。それは彼にとっては、チャベス主義の経済アジェンダの実施がちょうど偶然にも民族の政治経済制度の破壊と同時に起こったという残念な偶然にすぎない。

しかし実態はこうだ――偶然ではない。

これは実は市場派改革の数年を台無しにして経済を破壊するに終わる左翼大衆主義を選出した国の教科書的な事例なのである。

これは、ルドガー・ドーンブッシュとセバスティアン・エドワーズに説明されたとおり、[6]何度も何度も同じサイクルを繰り返すラテンアメリカにおいて数十年も続いてきたことだったのである。

これは近年ではアルゼンチンとブラジルで起こり、次のとおりに進んでいる。まず、相対的にネオ自由主義的な政権が権力を握り、政府歳出を控えめに削減し、政府権力をやや制限し、成長の期間を前触れする。しかし成長してなお、ラテンアメリカのような中所得国は世界の豊かな国々と比べれば相対的に貧しいままであり、大きな不平等が残る。ついで、大衆主義的〔「大衆迎合主義的」〕な社会民主主義者が投票者を説得する。いわく、富を再分配し、強欲な資本家を処罰し、彼らをもっと「人間的」に変えるよう市場を規制するだけで、みんながもっと速く豊かになるだろう。貧者を搾取する邪悪な資本家が処罰されればなお良い、と。最終的に、経済が新社会民主政権以下まで崩壊して、窮境を掃き清めるためにネオ自由主義的な政権が再び当選する。

今のベネズエラはこのサイクルの真っ只中なのである。相対的に制約的な政府干渉の数十年を経て、ベネズエラはラテンアメリカで最も豊かな民族の一つになった。[7]けれども最近の十二年間は、チャベス派がこの富を奪って、「平等」のため、資本主義の邪悪を削りながら、最分配し、規制し、収用できた。しかしあなたは、生産的階級が降伏して富が尽きるまでの間しか、そんなに再分配し、課税し、規制し、収用することができない。[8]

関連:ダニエル・フェルナンデス・メンデス、「ベネズエラ危機は原油価格のせいか?」[9]

左翼の心にとって、結果として生じた貧困の爆発は悪い経済政策のせいであってはならない。結局、チャベス主義政権は望みをすべて叶えたのである。欲しいままに富を再分配した。生存賃金と健康保険、豊かな食料を「保障」した。「ネオリベラル」の反対の叫びを乗り越えて、「平等」が法令で押し付けられた。

唯一可能な答えとは、左翼が決め付けるには、資本家の妨害工作か――教皇が思い出させるような――行き過ぎた「個人主義」[10]に違いない。

けれども、左翼のこの事例での主張の問題点は、この語り方が端的にさもとらしくないということにある。コロンビアはベネズエラより資本家と個人主義者が少ないとでも? ほぼ確実に、もっと多い。それではなぜ、ベネズエラ人はベネズエラの社民パラダイスでは手に入らない基本的な食料品を買うためにコロンビアの国境を越える列で数時間も待っているんだ? チリはネオリベ式の貿易と市場を放棄したか? 明らかに、していない。ではなぜベネズエラの経済が縮小してきたかたわらでチリの経済が過去二十五年間に150パーセント成長したのやら。[11]

応答はおおむね沈黙からなる。

だからといって、左翼が「ネオリベ」、「新自由主義者」と呼ぶものが何の落ち度もないということにはならない。

ネオ自由主義の――自由貿易と相対的に自由な市場のような――幾つかの側面は、世界貧困と乳幼児死亡率が低下しており、識字率と衛生設備が上昇していることの理由である。[12]ネオ自由主義の他の側面は誠に不快であり、特に中央銀行[13]とクローニー資本主義の領域でそうだ。しかし自由市場という答えはすでにルートヴィヒ・フォン・ミーゼスによってかなり昔から言葉にされており、彼はネオ自由主義者に対する彼自身の戦いの際、[14]整合的なレッセフェールと健全貨幣、国際貿易での大幅に広い自由を提唱していた。

しかしながら、ネオ自由主義に対する左翼の答えの例証として、人民が文字通り飢え死にし、トイレットペーパーの一巻きを買うために数時間かけて列で待つようなベネズエラのことを、これ以上調べる必要はない。

そして左翼のネオ自由主義に対する勝利がこういうものであるならば、左翼がこれをちっとも語らなかったのは驚くことではない。

[1] http://hotair.com/archives/2016/05/27/stump-the-socialist-bernie-would-rather-not-talk-about-venezuela/

[2] https://mises.org/library/trusting-politics-and-politicians-it-pope-who-na%C3%AFve

[3] http://www.catholicworldreport.com/Item/5648/as_venezuela_burns_many_latin_americans_ask_where_is_pope_francis.aspx

[4] http://www.venezuelasolidarity.co.uk/president-maduro-oppositions-neoliberal-model-destroys-everything/

[5] https://mises.org/blog/whats-difference-between-liberalism-and-neoliberalism

[6] https://mises.org/library/bait-and-switch-behind-economic-populism

[7] https://mises.org/blog/venezuela-chavez-prelude-socialist-failure

[8] https://mises.org/library/santa-claus-principle

[9] https://mises.org/blog/are-oil-prices-blame-venezuelan-crisis

[10] https://mises.org/blog/popes-favorite-straw-man-individualism

[11] https://mises.org/blog/latin-americas-pink-tide-crashes-rocks

[12] https://mises.org/blog/inequality-doesnt-create-poverty

[13] https://mises.org/library/why-austrians-are-not-neoliberals

[14] https://mises.org/library/against-neoliberals