二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ
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vsギーシュ戦。

結果は見えてます。

どうギーシュ戦に持っていくかかなり悩みました。


第二話  トゥ、戦う

「お腹すいたー。」
「ご飯抜き!」
「ヤダ!」
 翌日もこんな感じであった。
 食堂に入れれば食事を奪われると学習したルイズは、トゥを食堂に入れないようにした。
 ブーブー文句を言うトゥを残して、ルイズは食堂に入った。
 残されたトゥはその場に座りこんだ。
「お腹すいた…。」
「あの…。」
「うん?」
 声を掛けられ、トゥが顔を上げると、そこにメイドの少女がいた。
「だれ?」
「私はシエスタといいます。あの、お腹がすかれたんですか?」
「うん。」
「よかったらこちらへ。」
 シエスタに案内され、トゥは、食堂の厨房に入った。
 コック達は忙しく働いていたが、トゥの姿を見るとざわつきだした。
 そりゃ美しい女性が、それも肌を見せた女性が入ってきたら驚くし、目を奪われてしまうだろう。その多くがだらしなく鼻の下を伸ばしていた。
「待っててください。」
 トゥをその辺にあった椅子に座られたシエスタは、厨房の奥へ行った。
 それからシチューが入った皿を持ってきた。
「どうぞ。賄のシチューです。」
「わあ、美味しそう!」
 皿を受け取ったトゥは、顔を輝かせ、早速食べ始めた。
「美味しい!」
「よかったですね。」
「私、トゥ。ありがとう、シエスタ。」
「トゥさんって…、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったって噂の…。」
「うん。使い魔だよ。ねえ、おかわり貰っていい?」
「いいですよ。たくさん食べてくださいね。」
 シエスタは、にこにこしながら空になったお皿を持っていった。
「ねえ、お礼にお手伝いとかするよ?」
 食事を終えたトゥが言った。
「じゃあ、デザートを運ぶお手伝いをしてください。」
「うん!」
 トゥは元気よく頷いた。





***





 ケーキが乗った大きなトレーを運んでいたトゥは、床に落ちていた紫の小瓶を見つけた。
「なにこれ?」
 しゃがんで拾ったトゥであるが。
 バキッ
「あっ。」
「あーーーーーーーーーー!!」
「ギーシュ、どうした!?」
「よくもモンモランシーからもらった香水をぉぉぉ!!」
「えっ?」
 絶叫する金髪の少年に、トゥはきょとんとした。
「ギーシュ様! やはりミス・モンモランシーと付き合っていたのですね!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ケティ…。」
 言い訳しようとしたギーシュであったが、ケティという少女から平手打ちされて去れてしまった。
「ギーシュ様…、やはりあの一年に手を出していたのですね?」
「も、モンモランシー…、ち、違うんだ…。」
「嘘つき!」
 しまいにはモンモランシーという少女にワインをぶっかけられて去られた。
「大丈夫?」
 残されたギーシュにトゥが話しかけた。
 ふるふると震えていたギーシュが、突然薔薇の杖をトゥに向けた。
「君の所為だぞ!」
「なんで? 私、なにかした?」
「モンモランシーの香水を壊した上に…。そもそも君が、君が…香水の瓶を拾わなければ…。」
「私のせいなの?」
「君の所為だ!」
「でも二股かけてたのはおまえだろ?」
 ギーシュの友人がツッコミを入れた。
 そうだそうだと周りも言った。
「ふ…、給仕の君、例え見つけても知らんぷりするべき時があるのだよ。今がその時だったのだ。分かるかね?」
「分かんない。」
「そうか…。ならば仕方ない。物わかりの悪い給仕にはお仕置きが必要だね。」
「えっ?」
「おいおい、ギーシュ、そりゃないぜ。」
「相手は女だぜ?」
「女だろうがなんだろうが、仕置きは必要さ。」
「えっ、えっ?」
 混乱するトゥに、ギーシュは言った。
「貴族の食事処を血で汚すわけにはいかない。ヴェリストリの広場まで来たまえ。」
「ふぇ? 何するの?」
「決闘さ。」
「なんで? なんで戦わなきゃいけないの?」
「君はさっきまでの話を聞いてなかったのかね? とにかく広場に来たまえ。」
「戦わなきゃいけないの?」
「だから…。」
「分かった。でもちょっと待っててね。」
 頷いたトゥは、ささっと食堂から出ていった。
「しまった、逃げられた!」
「お待たせ。」
 すぐトゥは戻ってきた。
 その手には、召喚された時に傍らにあった大きな剣が握られていた。
 トゥの見かけに似つかわしくないその剣の大きさに、周りがざわついた。
 ギーシュもたらりと汗をかいた。あんな剣で切られたらひとたまりもない。
「ほ…、ほう? 剣術を嗜んでいるのかね?」
「分かんない。」
 ギーシュを始め、周りがずっこけた。
「だって、覚えてないんだもーん。」
 トゥは呑気に言った。
「ま、まあいい…。とにかく広場に来たまえ。」
「分かった。」
 ギーシュは、トゥを連れてヴェリストリの広場へ行った。
「あれ? 今のって…。トゥ!?」
 トゥがギーシュと共に食堂から出るのを見たルイズは慌てて後を追った。





***





「諸君、決闘だ!」
「決闘、決闘!」
 周りの野次馬に宣言するギーシュと、剣を持ってピョンピョン跳ねるトゥ。
「でも決闘って何するの?」
「言葉のままさ。僕はメイジだ。魔法を使わせてもらうよ。」
「いいよー。」
 ギーシュは、こう言っては何だが、女性には誠実であろうと心がけている男だ。
 ゆえにモンモランシーからもらった香水を壊されて激昂したとはいえ、今更ながらトゥを傷つけるのは気が引けた。
 トゥは美しい。野次馬の中には、ギーシュに対するブーイングがあった。
 美しいだけじゃなく、美しい身体をいかんなく見せつける恰好もあり、思わず見とれてしまいそうになってしまう。
 できることなら傷を残さず倒してあげたい。あの白い肌と柔らかそうな胸には特に…。
 ギーシュは、もう後には引けないという状況ということもあり、せめて鳩尾に一撃を入れて倒そうと決めてギーシュは薔薇の杖を振るい、ワルキューレを錬金した。
「わー、すごいすごい!」
「そ…それほどでも。っ、ええい、惑わせてくるね。」
「じゃあ、私もいっくよー。」
 トゥが剣を構えた。
 その構えからギーシュは感じた。
 この女。戦い慣れていると。
 軽やかなステップを踏んだトゥが、片手で、軽やかに大きな剣を振るった。
 その速度。一撃の重たさ。
 一撃でワルキューレは、真っ二つに切断された。
「あれぇ? もう終わり?」
「ま、まだだ!」
 一瞬呆然としたギーシュは、もちなおし、すぐに七体のワルキューレを錬金した。
 ワルキューレ達は武器を持っていた。
 トゥが戦い慣れた戦士であると見るや、もう手加減はできないと判断したのだ。
「わあ、すごいすごい! 魔法ってすごいんだね。」
「無駄口叩いている場合じゃないぞ!」
 そう言ってワルキューレ達をトゥに向かわせた。
 しかし、トゥは、軽々と剣を振るい、そして軽いステップを踏みながら踊るようにワルキューレ達を切って捨てていった。
 あっという間であった。
 全部のワルキューレを倒したトゥは、ギーシュを見た。
 にっこりと愛らしい笑みを浮かべて、剣を構えて走ってきた。
「ひっ! ま、待て、降参だ!」
「そーれ!」
 杖を手放すギーシュに向かって、トゥが剣を振り上げ、ギーシュの頭に向かって振り下ろそうとした。
「待って、トゥ!」
「ルイズ。」
 トゥが手を止めた。あと、数ミリ。あと数ミリでギーシュの頭に剣の刃が刺さるところだった。
「邪魔しないでよ。」
「ギーシュはもう降参してたわ。あなたの勝ちよ!」
「えー。」
 トゥは不服そうだった。
「お願い、殺さないで。」
「…分かった。」
 トゥは、剣を下ろした。
 周りにいた野次馬は、トゥの戦闘能力の高さに言葉を失っていた。
 鍛えられた兵士でも片手じゃ到底持ち上げられそうにない大ぶりの剣を、片手で軽々と持ち、青銅でできたワルキューレを一撃で切断するほどの剣技。人間技とは思えなかった。
 誰も気づいていないが、布で覆われたトゥの左手のルーンが、彼女が剣を手にしてからずっと光っていた。





***





「トゥさん!」
「どうしたの、シエスタ?」
「お、お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。」
「よかった…。変な因縁を付けられているのに助けられなくてすみません…。怖くって…。」
「あいつ全然弱かったよ。」
「強いんですね、トゥさんって。」
「んー。よく覚えてないんだけど、剣持ってたら勝手に身体が動いたの。不思議。」
「もしかしてトゥさんって…、傭兵だったとか…。」
「違うと思う。覚えてないけど。」
 シエスタの言葉をすぐに否定した。
「そうですよね…。その…お洋服が…。」
 シエスタは、恥ずかしそうにトゥの恰好を見た。
「トゥ! こっち来なさい。」
「分かった。じゃあね、シエスタ。」
「はい。」
 シエスタに手を振りながら、トゥはルイズのところへ走って行った。
 シエスタは、トゥの後姿をキラキラした目で見つめていた。





***





「ねえ、トゥ…、あなた何者なの?」
「分かんない。私は、私だよ。」
「そうじゃなくて…、なんであんな戦い慣れてるみたいな…。」
 そう言われても、分からないものは分からないっとトゥは首を振った。
「剣を持つとね。体がふわーっと軽くなって、戦えるようなるの。なんでか体が勝手に動いたの。不思議だね。」
「ええ…。ほんと不思議ね。」
 不思議そうに言うトゥを、ルイズは不審げに見つめていた。
 トゥの表情を見る限り、嘘はついていないようだ。
 だがあまりにも慣れているあの動きは不自然だ。
 トゥは、もしや、ルイズと出会う前はどこかで戦っていたのだろうか。
 こんな露出の高い格好で。
「ありえない…。」
「えっ?」
「あんたがどこかで戦ってたなんて信じられない。まさかどこかの上等な家のお嬢様だったりして…、なーんて…。」
「違うと思うよ。」
 すぐにトゥは否定した。
「だって、私は…、私は………っ…。」
「トゥ?」
「わ、たし…は……。」
「トゥ? ちょっと、トゥ!?」
 トゥは突然ふらりと倒れてしまった。
 倒れたトゥは、スースーっと眠った。

 その後、トゥは、三日三晩も目を覚まさなかった。






トゥに、ガンダールヴ…、鬼に金棒ですね。