Xperia Touchは「企画でごまかす必要がなかった」モデル――開発リーダーと企画者に聞く
笑顔があふれるインタビューとなりました
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6月24日に発売となるソニーモバイルのプロジェクター一体型のAndroidデバイス「Xperia Touch」。投写面タッチ技術で壁やテーブルを23インチのスマートスクリーンにしてアプリやゲームを使ったり、最大80インチの画面を投影するポータブル超短焦点プロジェクターとしても使うことができる製品です。
Engadget編集部では Xperia Touchの開発リーダーである斉藤氏と、商品企画を担当した城重氏に製品の魅力をインタビューしました。「僕たちは真面目な話はできないですよ」と前置きをされたのですが、終始笑いながらインタビューに答えてくれた二人の様子とともにご覧ください。
なお、Xperia Touch自体の機能や仕様に関しては、下記の記事を参照ください。
速報:ソニーの投影型コンピュータXperia Touchは15万円、6月24日発売
明るさは?使い勝手は?ーーソニー Xperia Touchを徹底解説:週刊モバイル通信 石野純也
写真左:ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社
スマートプロダクト部門 スマートプロダクト開発部 システム1課
斉藤 裕一郎氏
写真右:ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社
スマートプロダクト部門 商品企画課
城重 拓郎氏
3ヶ月でプロトタイプをつくってMWC2016に出展
ーー Xperia Touchはどういうキッカケで生まれた製品なのでしょうか?
斉藤:僕のところはタブレットやスマホの開発をしているのですが、次のタブレットはどういったものにしようかを考えていたときに、ちょうどソニーから「新技術のプロジェクターモジュールと、タッチが使えますよ」という連絡がきたんです。
エンジニアとして、新しいインタラクションというか、インプットデバイスは面白いなと思って、これらの技術をどうやってAndroid端末を普通に使っているような人たちに使ってもらえるかをみんなで試行錯誤しはじめたのがキッカケです。
ーー プロジェクターモジュールの新技術というのは、超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」にも使われている技術でしょうか?
城重:そうですね。ただ、厳密に言うとLSPX-P1から持ってきたわけではないんです。もちろん情報共有や協力はしてもらっていますが、そもそもモジュール自体は厚木のソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)のモジュールチームが数年間かけて開発・研究したものです。そこから導入した形になります。
ーー なるほど。では、LSPX-P1とは兄弟的な感じでしょうか?
斉藤:兄弟ですね。Xperia Touchの場合はタッチとAndroidの親和性が高いということもあって、Androidとの組み合わせを検討してみた結果、出来上がったものになります。
ーー それが2016年のMobile World Congress(MWC2016)でお披露目された「Xperia Projector」(当時の名称)になるわけですね。
斉藤:そうですね。あそこでデモしていたプロトタイプは3ヶ月くらいで作ったもので、もうほんとギリギリで間に合ったんですよ。
ーー え!? 出来上がったばっかりだったんですか?
斉藤:前日にやっと持っていけた感じで...。多くの方に見ていただいたり、触ってもらう機会ってなかなかないので、どうにか間に合わせたくて頑張りました。
城重:当日も暗幕かぶって調整していましたよね(笑)。
斉藤:そうそう。先ずは動かすってところに注力して調整していました。あの頃は、まだAndroidだというのも隠していたのでそこにも注意しながら...。っても、固まったときにAndroidマークが出ててバレてましたけどね(笑)。
城重:MWC2016の時から中身はだいぶ進化しましたよね。当時は、四隅とか全然ダメでしたしね。
斉藤:Androidってフルで使おうとすると四隅をけっこう触るんですけど、当時はチューニングがまだまだだったんで、四隅を使わないようにお絵かきのソフトなどでごまかしていました(笑)。
ーー そういう裏事情があったんですね。でも、そこから1年で量産体制を整えて製品化まで持っていったわけですよね?
斉藤:そうですね。3ヶ月でつくったとはいえ、初めから量産化を見据えて設計してるのと、スマホやタブレットの蓄積もあるので1年で発売までいけました。
商品の魅力が高いので、企画でごまかす必要がなかった
ーー Xperia Touchの開発で苦労したところがあれば教えてください。
斉藤:「いかに精度良くタッチできるか」は1番注力をしたところであり、苦労したところでもあります。
▲Xperia Touch製品ページのスクリーンショット
Xperia Touchの製品ページに赤外線をイメージした画像があります。赤いところが赤外線が出ているイメージなのですが、そこを触れることで指の反射をイメージセンサーで読み取っています。
赤外線で23インチの画面をカバーするには、ちょっとでも傾いてると端がタッチできないなどの問題が出てきます。赤外線をいかに平らに出すかがタッチの精度に1番効いてくるので、特に注力したところです。
斉藤:赤外線を表面から3mmくらいのところ出しているんですが、高くなると誤差が増えます。テーブルや机自体にちょっとした傾きがあったりもするので、低すぎてもいけない。そのバランスを取りながら、赤外線を平らに出すのが設計で1番苦労したところです。
あと、製造側でも平らにする部分はこだわっています。フレームもひとつひとつに誤差というか微妙に傾きがあったりするので、1個ずつ丁寧に組み立てています。
ーー 企画面で苦労したところはありますか?
城重:今回は企画的には苦労しなかったんですよね。
ーー えっ!? そうなんですか!
城重:はい。デバイスが良いとそれだけで商品の魅力が一気に上がるので、企画でごまかす必要がなかった。Xperia Touchは、いい技術に素直に乗っかっていくだけでいい商品ができあがりそうだったので、企画が邪魔をしないように気をつけていました。
企画が変な欲を出して好き勝手言い始めると、お客さんのもとに届くときに使えないものになっちゃうので...。素材の良さをそのまま活かすためになるべく開発任せで進めていました。
斉藤:まぁ、邪魔されると怒り出しちゃいますしね(笑)。
AI搭載のスマートスピーカーは全く意識していない
ーー リビングで、家族でネットを使う製品としては、AI搭載のスマートスピーカーを各社が発売や発表をして話題になっています。ホームデバイスとしてそこらへんを意識はしていますか?
城重:企画段階ではまったく意識していませんでした。今もべつに意識していないんですが、なぜかよく比較されます。Amazon Echoと並べられて高いと言われたときは困りましたね(笑)。
ーー それは(笑) 比較されている現状を見て、意識すべきだったと思いますか?
城重:意識したらぶれちゃうので、意識しなくてよかったと思います。
斉藤:OSに規制はかけていないので、「OK Google」にも対応していますし、「Hi Xperia」と呼びかけてもらえれば音声で操作はできるんです。ただ、我々のポイントはタッチのほうですね。
ーー なるほど。投写面タッチのほかに、空中で手を動かして操作するジェスチャー対応も発表されていますが、そちらの進捗はどうでしょうか?
城重:まだリリース時期は未定ですが開発中です。
ーー 開発中というのはリリースはあると思っていてよいでしょうか?
斉藤:します。いや、したいんですけど...、あくまで予定です。
ーー なるほど...。ジェスチャーでの操作はどんなイメージになるのでしょうか。
城重:手の動きでポインターを動かす機能です。Android端末にBluetoothのマウスを接続したイメージに近いと思います。
ーー そもそもジェスチャーは企画段階から対応することを視野に入れていたんでしょうか?
城重:もともと23インチでタッチをすることを前提にしていたので考えていなかったですね。ただ、大画面の表示もできるから、ジェスチャーのような操作もやりたいお客さんもいるだろう、という話はあったので、タッチを完成させてから大画面の最適化に関しては動こうと思っていました。
全部を100点満点で出そうと思ったらいつになっても発売できないので、まずはタッチにフォーカスすることを決めて、あとはアップデートで対応をしていこうというのが基本的な考え方です。
ーー ジェスチャー以外の機能的なアップデートも今後はありそうですか?
城重:もちろん候補は色々あるんですけど、まだ検討中の段階ですね。海外ではすでにXperia Touchを発売開始していますので、お客様の声だったりを見ながら、どこを伸ばしていくかを考えていこうと思っています。
とはいえ、何でもかんでも自前で用意する必要もないと思っていて、世の中にもっといいものがあるんだったら、それを使ってもらった方がいいかなと。そういう意味では、外部の方が作れない、タッチの精度だったりジェスチャー部分をしっかりしたいなと思います。
ーー 最後の質問です。Xperia Touchは約15万円という価格ですが、この価格設定って難しかったと思います。ニッチなものでもあると思うので、落とし所の15万円なのか、かなり頑張った感じの15万円なんでしょうか?
城重:答えにくい質問ですね(笑)。おっしゃったように、値付けは難しかったです。よくある商品であれば、機能のプラスマイナスなどで値付けもできるのですが、競合製品もないので悩みました。悩んだというと、安くできるんだなと思われそうですが、安くはできませんよ!
斉藤:プロジェクターとスマートフォンが入っていますしね。
城重:一号機なので安くして品質を落としてもしょうがないのと、実際にけっこうなお金をかけて開発をしています。ちゃんとしたものを作らないと、二号機を出せなくなってしまうので。
一号機で大事なのって数を売ることではなく、こういった世界観をお客様にアリだと思ってもらえること。15万円って決して安くはないですが、お客様に納得していただける品質やスペックの商品を用意できたと思っています。