終わらない ビッグサイト問題

終わらない ビッグサイト問題
東京・新宿の東京都庁の周辺で、抗議デモが行われました。参加したのは、ある業界の企業などで働くおよそ300人。SNSやメールでの呼びかけに応じて集まり、「東京オリンピック期間中も東京ビッグサイトを使わせろ!」と声を上げたのです。参加者が口々に訴えたのは「まさに死活問題」という言葉。東京ビッグサイトをめぐって、いったい何が起きているのでしょうか。(ネットワーク報道部 副島晋記者)
よく晴れた木曜日の昼下がり。新宿の公園に、20代から40代ぐらいの男女が集まりました。見た目は、ごく普通のサラリーマンたちですが、手に持つプラカードやゼッケンには、「オリンピック期間中ビッグサイトで展示会開催を!」「われわれ展示会業界は怒っている!」「展示会は中小企業の売り上げに不可欠」などと怒りの言葉が書かれていました。集まったのは300人余り。フェイスブックなどのSNSやメールでの呼びかけにこたえたといいます。

平日の午後に300人!

よく晴れた木曜日の昼下がり。新宿の公園に、20代から40代ぐらいの男女が集まりました。見た目は、ごく普通のサラリーマンたちですが、手に持つプラカードやゼッケンには、「オリンピック期間中ビッグサイトで展示会開催を!」「われわれ展示会業界は怒っている!」「展示会は中小企業の売り上げに不可欠」などと怒りの言葉が書かれていました。集まったのは300人余り。フェイスブックなどのSNSやメールでの呼びかけにこたえたといいます。
下茂 貴樹さん
デモを企画したのは、下茂貴樹さん(46)です。下茂さんは、東京都内のある会社の営業マンで、デモを企画したり参加したりするのは初めてです。下茂さんの勤める会社は、展示会のデザインや設営などを手がけています。この会社の仕事に大きな問題が発生。2020年の東京オリンピックで、国内最大の見本市会場「東京ビッグサイト」がメディアセンターとして使われ、展示会の会場としては長期間、使えなくなるというのです。展示会を主なビジネスとしている下茂さんの勤め先は、まさに「商売あがったり」になるおそれがあります。

こうした状況は、展示会の設営などを行うほかの会社も同様。下茂さんは、オリンピックの影響で生活が立ちゆかなくなってはたまらないと、立ち上がったのです。下茂さんは「東京ビッグサイトが使えないことで、展示会の出展者はもちろん、展示会の主催者、私どもみたいな展示会の支援業者、そこで働く職人や協力会社の全部が売り上げが落ち込んで、倒産、解雇、リストラ、賃金削減が起きるおそれがある。デモを通じて、こうした問題があることを1人でも多くの人に知ってもらいたいし、東京ビッグサイトを使えるよう小池知事に求めたい」と話していました。

長期間だから困る

東京ビッグサイト
影響を受けるのは、オリンピック開催期間中だけではないのです。東京ビッグサイトでは、施設の大半を占める「東展示棟」と、隣接する「東新展示棟」が、オリンピックの前年の2019年4月から2020年11月までの1年8か月間、一般の利用ができなくなります。メディアセンターとしての改修工事などが行われるためです。

東展示棟の西側には「西展示棟」がありますが、広さは半分もないうえ、2020年5月からは、「プレスセンター」になるため、こちらも利用できなくなります。東京ビッグサイトを運営する東京都は、拡張棟や仮設展示場を新たに設けることにしていますが、いずれも大会期間前後の数か月は利用できません。

東京ビッグサイトは、「東京モーターショー」や「コミックマーケット」など、年間におよそ300のイベントが開かれる国内最大の見本市会場。ここが利用出来なくなると、展示会に関係する企業にとっては大きな損失です。民間の団体が試算した日本全体の経済損失は1兆円を超えるとされています。業界の代表者はこれまでにも、署名活動などを行って、東京都側に見直しを求めてきましたが、問題は打開されていません。東京ビッグサイトが使えなくなるまでの時間が刻々と迫る中、下茂さんは今回、デモを通じて声をあげたのです。

参加者からは「死活問題」の声

デモ行進は新宿中央公園を出発して、東京都庁の周囲およそ1.7キロを30分ほどかけて歩きました。参加した女性の1人は「華やかなオリンピックの裏で、被害が出ることもあるということをくみ取ってほしい」と話していました。
また、展示会の装飾を手がける30代の男性は「できるだけデモという形までしたくはないのだが、われわれにとって生活にかかわってくる問題なので、東京都などに声が届いてほしい」と話していました。

企画した下茂さんは「デモを企画したときは、何人来てくれるかわからなかったが、やはり死活問題なので、多くの人にデモの趣旨に賛同してもらえたと思う。オリンピックがあっても、展示会が普通どおり開かれるようにしてほしい」と話していました。

一方、東京都はどう考えているのでしょうか。東京都の担当者はこれまでの取材の中で、「東京ビッグサイトをメディアセンターとして使うことはオリンピックの開催が決まった時に決めていて、変更はできないと思う。仮設の展示場の整備など対応策もして展示面積は相当確保できる状況になったので、展示会を通常の時期から少しずらすなど調整し、なるべく多くの展示会ができるようにしていきたい」と話しています。運営側では実際、先月下旬から、オリンピック期間中に開けなくなる展示会を一つでも少なくしようと、さまざまな調整を始めているとしています。

デモに参加した人たちは、企業に勤めるごく普通のサラリーマンという印象でした。しかしこの日ばかりは、展示会にふだん関わりのない人たちにも問題について知ってもらおうと、大きな声をあげ、道行く人にビラを手渡して理解を訴えていました。デモは終了後、解散し、参加者が東京都の担当者と直接話す機会はありませんでしたが、下茂さんは引き続き、なんとか対策を講じるよう東京都に働きかけていきたいとしています。ただ、今のところ抜本的な打開策は見つかっていないのが現状です。華やかなオリンピックの陰で生活に困るような人たちが出てこないよう、東京都にはさまざまな面に目を向けて、大会の準備を進めてほしいと感じました。