「ごちゃごちゃしている」
当時、なんとなく思っていたことです。
その考察と、読み返して思ったこと。これらを並行して述べていきます。
内容としてはこの記事の続きになります↓↓
凄まじいほどの世界観の作り込み
尾田先生の頭の中の5割も伝わってないんじゃないか。読み返してみて、書き込みの多さを見て、そんなことを思うんです。
46巻の巻末にある「SBSスペシャル 完全図解 サウザンドサニー号」などは良い例だと思います。骨組みから構造から一つ一つに細かな設定(=愛)があることが伝わります。
「尾田栄一郎の世界展~スリラーバーク編~」という全国周遊型の企画展で披露されるレベルのものをギュッと詰め込んで、マンガという形で見ている。そんな印象を受けました。
活かされない設定
ただ、この作り込みが悪い方向に出ています。以下の描写で説明できます。
47巻 第458話 アフロだけは より
オーズがいかにすごいのかを描写している一部分です。この後、 特別冷凍室は次のコマであっさりとオーズに破壊されます。
ワンピースは、設定をセリフにして紹介する描写がとても多い。
このように、説明した後にすぐに無になる設定が登場します=特別冷凍室までしっかりと世界観を作り込んでいる。
ただ、すぐに無になるわけですから、これらが続けばセリフの長さを感じてしまうのは自然なことです。作り手の立場になって考えると、作り込んだ分、殺したくない気持ちは伝わるのですが……。
例:アブサロムのゾウの皮膚〜、デュバル初登場の武器のサソリの毒、インペルダウンの剣樹など
もう一つは、モブキャラの多さ。
スリラーバーク編ではものすごい数のモブキャラが登場します。キモいゾンビや可愛いゾンビなど多種多様です。
漫画家として本当にすごいと思う一方で、ただでさえ暗い世界なのにあれだけのキャラとセリフを敷き詰めたら……と思ったのが正直なところです。一言で言えば、やはり書き込みが多すぎます。
もちろん、モブキャラなので後に活かされません(ゾロとくまのやり取りを聞いた2名とキャプテン・ジョンは除く)。
カラー版がオススメ
暗い世界と書きましたが、これには解決策があります。カラー版になると、世界観がすんなり入ってきます(最近知りました)。
スリラーバーク編で読むのを止めた人には、本当にオススメです。
アニメを見てる方は違うかもしれませんね(僕は見ていません)。
展開とは関係のないところでボケ・ツッコミのやり取りが増加
「笑い」に関しては人それぞれなのであまり言及できませんが……ただ、個人的に解せない点が以下になります。
目と舌が飛び出るような「ええええ!!」というリアクション
スリラーバーク編はこの表情が非常に多い。チョッパーや外野に顕著だと思います。
要は、このリアクションがあまり好きじゃないんです。
それはなぜか。
共感・納得できないんです。僕が唯一、共感・納得できたのはエネルのみ。
30巻 第279話 海賊ルフィvs神・エネル より
自身のことを「神」と称していたエネル。その無敵の能力がルフィに効かないと理解した瞬間だからこそ、この表情に対して理解が生まれたんです。また、展開を大きく左右する出来事でもありました。
エネルのこの表情は、心情的にも展開的にも納得できたんです。
エネルにとって雷の効かないルフィは唯一の「天敵」でした。
この一連の流れを描くために、ルフィをゴム人間にしたことが伝わってきましたし、改めて感銘を受けたものです。
=この時は世界観の作り込みがいい方向に働いていた。
バトルで緊張感を欠く
これは個人的な意見かもしれませんが、バトル中にボケ・ツッコミを入れるのはあまり好ましくないです。
サンジVSアブサロムの「女湯」のくだりが顕著でした。
いやね、僕も女湯は覗きたいですよ。おっぱいも大好きですよ。でも、笑えませんでした。
ウソップVSペローナはネタバトルだとわかっていても、ちょっとなあ~と。
なぜなら、自身の存在を否定するような発言を促すネガティブホロウがロビンには当たらないように配慮してあるから。当たっても当たらなくても、「存在の肯定」をテーマにしていたウォーターセブン編が好きなので残念でした。
これはつまり、僕の中で「バトル」と「笑い」が上手く両立してないことを意味します。
ゾロVS侍リューマはこれらがありません。加えて、先に結果を見せる構成も良かったので、スリラーバーク編のバトルでは最も好きです。
じゃあ笑ったところはどこ?
色々と書いたので、笑ったところを2つ。あくまで、僕が面白いと思ったところです。一部だけ切り取らせていただきました。
①
6巻 第46話 招かれざる客 より
やっちまえゾロ!! で笑ってしまいます笑。男と女で態度が変わりすぎるサンジもナイス!
②
27巻 第255話 うわばみと探索組 より
神妙な流れからウソップのナイスツッコミ。次のコマでピエール(鳥)が馬になってウソップに噛み付くあたりも◎。おもろい笑。
チョッパーの成長を描くことの難しさ
ホグバックとのバトルを見て確信しました。このバトルは、よほどの想い入れがない限り印象に残らないと思います。それはなぜか。
「命」というテーマにそぐわない描写の少なさ
ホグバックとのバトルでは、ゾンビを例に挙げて「命」に対する考え方の比較を描いています。
「命」というテーマは、出版業界を見渡しても永遠に語り尽くせないテーマです。というか人類にとって永遠のテーマですよね。それだけ描き方があるのと同時に、書き手としては難しいことを意味しています。
医療従事者としての成長を描くためには、患者を通して命について深く考えたり、視点が増えるような経験が必須です。これは現実に基づいていると思いますし、ドラマでも映画でも他のマンガでも共通しています。
ただ、「命」を最優先に描いていたらワンピースとして成り立ちません。かと言って、他の仲間との活躍のバランスを考えると描かないわけにもいかない。なのでチョッパーをリアクション要員にした(なった)のかな? と考えるようになりました。
プロットの問題
スリラーバーク編では、
・スリラーバークという世界観の説明・描写
・オーズ、モリアとのバトル
・くまの登場
・ブルックの加入
これらがプロット上で優先されています。
なので、チョッパーVSホグバックは丁寧な描写を入れる余地がなかった(オーズを倒す糸口になるキッカケのバトルとして繋げてはいるものの)。
個人的に残念なのは、このバトルでも上記に述べたリアクションが出てくることです。
48巻 第468話 海賊チョッパーvs怪人ホグバック より
・「命」の大切さを伝えるチョッパーのセリフが「ツッコミ(笑い)」を挟むことで両立しない。入ってこない。
・直後にオーズとのバトルが始まるので、構成上のインパクトとしても弱い。
チョッパーVSホグバックのバトルは、何から何まで噛み合わない印象を受けました。
「ごちゃごちゃ」まとめ
凄まじいほどの世界観の作り込み→書き込み面・セリフ面
展開とは関係のないところでボケ・ツッコミのやり取りが増加→セリフ面・バトル面
チョッパーの成長を描くことの難しさ→構成面・キャラ面
以上から「ごちゃごちゃしているように感じた理由」を書きました。
スリラーバーク編の救い
スリラーバーク編にも好きなところはあります。
ゲッコー・モリアのモットー「他力本願」
49巻 第481話 影の集合地 より
当時の記憶では、モリアは七武海の格を下げ、懸賞金の持つ意味をウヤムヤにしたイメージがありました。
また、ルーキーをバカにして、煽られては怒って、仲間も大して信用していない。これってカゲカゲの実を食べただけのちょっとめんどくさがりなクロコダイルなんじゃ……と思っていました。
結果を出す他力本願の定義
傍から見るとクズなのに、なぜかのうのうと生きてる人っていますよね(僕もよく言われます)。ぶりっ子や愛人、ヒモなんかが具体例でしょうか。そういった人は、幼少期に「自分一人の力では生きていけない」と、自然に自覚するような家庭環境で育った場合が多いです。あくまで相対的な話になりますが。
すると、自分が生きていく上で抑えておかなければならない人間を見抜く術に長けます。なぜなら、そうやって生きてきたから。そうやらなければ生きてこれなかったから。
結果、自覚のあるなしに関わらず、長期的な視点での実利を取るようになります。
こういった類の「人を見る目」を持ち、かつ、自立出来るけど「他力にすがる」ことに価値を見出す人間性。その中でも、自分は動かないのに「人を見る目」だけで「他人を上手く動かして」、結果を出す人。
これを「結果を出す他力本願」と定義しています。
だから、七武海までのし上がったモリアがバーソロミュー・くまに煽られて怒ることに違和感がありました。「結果を出す他力本願」は、いっときの感情に流されることで損するような経験を積んでいる(=長期的な視点の実利を取る)からです。
読み返してみて
カイドウとの戦いで得た教訓が「他力本願」というモットーだった。敗北の経験がモリアを変えたんですね。当時は完全に読み間違えてました。
他力本願の設定はルフィとの対比が意図でしょう。
「早くおれを海賊王にならせろ!」と「海賊王におれはなる!」
最初は良かったです。ルフィから逃げる描写。あれは他力本願らしさが出ています。戦っても利にならないですから。日が昇ればそれで終わりですし。しかし、本質的に「他力本願」でないならば仕方がありません。
ただ、現在、モリアは「消えた」らしいので、カイドウと上手に絡めて再登場することを密かに願っています。ワンピースのキャラの大半は主体性にあふれているので余計に。
以前とは異なるロビンの精神性
仲間の名前を呼ぶところで顕著に見られます。
「ウソップ チョッパー ケガはない?」
47巻 第457話 肉~!!! より
このセリフから感じたことは、やはりロビンの心境の変化です。言葉以上に、仲間への思いやりを感じます。
ウォーターセブン編のウソップを見て、仲間を案じるその思いを深めたのかもしれません。仲間から学ぼうとする姿勢は誰よりも強いはずです。
また、描写はないですが、名前を呼ばれた側の心境なども知りたいところです。ドキッとしたキャラもいれば、ロビンの心境の変化を己と重ねて感慨深くなるキャラもいるでしょう。僕は尾田先生が描くトレースが大好きなんです。
ちなみに、スリラーバーク編では、ルフィ、ナミ、ウソップ、チョッパー、フランキーの名前を呼んでいたと思います。
また、以下はフランキーと共闘する場面のセリフです。
47巻 第453話 くもり時々ホネ より
敵と味方を見て、状況を読んで、最善の策でサポートする。それで自分が活きることを理解していることから、余裕と経験を感じさせる描写です。
このように、精神性が見えるところが好きなんです。精神性を感じることが出来れば、キャラの過去が現在につながります。
結果、今までに描かれた描写にも新たな意味を見出すことが出来るからです。
まとめると
世界観の理解が必要に
概要や背景をしっかり頭に入れて、今どこで何が起こっているのかを意識して読む必要があると感じました(僕の場合は、ウォーターセブン編までは無意識に頭の中に入っていたことに気付きました)。
それはつまり、セリフを読んでしっかりと理解する必要があることを意味します。
ただ、ワンピースのセリフには設定もあればただのやり取りもあるので、「意味のあるセリフ」なのか「そうでないセリフ」なのかの判別が必要です。
それらや書き込みの多さなどが積み重なって面倒くさくなってしまった。当時の僕が魚人島で読むのを止めた理由の一つです。
なので、以前に比べて読むのが難しくなったから、展開に関係しない「笑い」を息抜き的な意味で増やしたのかなあ、と今では思ったりします。
しかし、「世界観の理解」は読者年齢層を上げたのに、「笑い」に関しては読者年齢層を下げた印象もあります。この辺りはわからないですが、より多くの人にワンピースを読んで欲しいという意思を感じることも出来ます。
作り手の意図を感じたい
マンガでも映画でも小説でもテレビでもなんだってそうなんですが、作り手の意図を僕は感じたいんです。
どんなことを伝えたいのか、どんなことを作者は面白いと思っているのか、共感できるところは何か、試行錯誤したところはどこなのか。作り手に脳みそを寄せるとでも言いましょうか。
今回、既刊のワンピースを全て読み返して、この記事を書いていて最も強く思ったこと。
それは尾田先生の挑戦を応援したいということです。 こんな僕にでも、挑戦していることがビシビシと伝わってくるからです。
いちファンとして、応援しております!!
ブルックについて↓↓ 。アニメでイキイキしてるなんて知らなかった。
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シャボンディ諸島、インペルダウン編へ続く