茨城県の伝統工芸品にひっそりと身を潜めつつも、根強く確実に存在する真壁の石材。
県道41号つくば益子線沿いには、石材屋さんとその展示場が集まる「真壁町石材ストリート」がある。
今回は石材彫刻を求めて、真壁町を散策した時のレポートです。
車通りが多い道路の脇にたまにある石材屋さん。
「このようなモノが作れます」という事で、ディスプレイされている彫刻の数々は誰でも一度は目にしたことがあるだろう。
今思えば、立派な作品からユニークな作品まで、様々な形と用途で並べられる石材彫刻に、自分は幼い頃から深い関心を持っていたような気がする。
このサイトを作り始めてからというもの、運転中に時折見かける石材屋さんを遠目で眺めては思いを馳せていたりした訳だが、以前行った筑波山にある「ガマランド」に向かう途中に、石材屋さんが軒並み連なる場所を見つけたため、再び茨城県は真壁町へ足を運んだ。
真壁町へ
「石材屋さんが沢山ある道をみつけた」という情報だけで向かったので、町の地理や歴史などについては頭には全く入っていない。
たまたま、町全体で雛祭りイベントをやっていた(真壁町は雛人形も有名らしい)ので、それに併設された市役所の駐車場に車を停めて歩き始めることに。
ちなみに、このイベントは商店街ある普通のお店に雛人形が展示されるというもので、ピークの時間帯はかなり人で賑わっていたが、今回の目的は雛人形ではない。
ここから先は、迷わず行けよ、行けばわかるさ。の精神でお目当の石材ストリートへ向おう。
石材ストリートを歩く
結論から言ってしまうと、思っていたより石材作品と道中のアレコレのボリュームが満点だったため、旅の一部始終を交えつつ、レポートしていきたい。
全体を通して気づいた事から考えると、石材屋さんには大きく分けて
・一点物系
・大量生産系
の二つに分けられるのではないかと思う。
どういった違いかというのはおいおい理解して頂けると思うが、見てきた順にレポートしていきたい。
真壁町のお店通りをまっすぐ抜けて、茨城県道41号つくば益子線沿いに出ると、そこが「真壁町石材ストリート」(と呼んでいる道路)だ。
歩き始めて間もなく、早速石材屋さんを見つけたので立ち寄る。
休日に見学者が多い為か、石材屋さんは基本的に見学自由の所ばかりで、この日は土曜日だったが人がいたので、ひと声かけて見学させてもらう事に。
▲灯篭は茨城県の伝統工芸品
▲サングラスを掛けてるっぽいワイルドな達磨
ちなみにこちらは展示場で、工房も向かいにあるそうだが、今日は雛祭りの関係で人が出払っているので誰もいないとのこと。
アートの分野でいう所の彫刻と違い、どことなくアンニョイな感じがとても良い。自分もきっとそういう所に惹かれるのだろう。
道を一本挟んだところにもちょっとした展示スペースがあった。
幸先の良いスタートをきれ、そのリズムで次なる場所へと歩を進める。
次に見つけた石材屋さん。
横の空き地は雛祭りの駐車場用に開放されていて、遠目で見た感じだと事務所にも人がいないようなので、こちらは脇から見学した。
▲よく見ると同じ観音像がいくつかある
▲事務所には誰もいないが小坊主が素朴で良い
先程の石材屋さんと違い、パッと見だと灯篭やお地蔵さん等、神社にありそうなかしこまった石材が展示されている。
続いて見つけた、石材屋さん。
事務所に人がいたので、少し不信がられた気もするが、こちらも一声かけて中を見学させてもらう。
前の石材屋さんと違い、こちらは小さめの石材は大量生産されているようだ。
アーティスティックな石材彫刻も。どこへ売られていくのかとても気になる。
動物系の石材彫刻が豊富。どれもこれもとても可愛い。
▲犬の顔が両サイドにあるシュールなベンチ
後に聞いた話だが、海外から石材を輸入するパターンもあるそうなので、看板に輸入商社と書かれている所を見ると、この石材は輸入されてきたものなのかもしれない。
真壁石の職人と工房
車での移動だと数分で到着するところだが、徒歩移動なので足をパンパンにさせながら先に進むと、小さな工房を構える石材屋さんがあった。
▲こちらの工房はテレビの取材も度々来ているらしい
The職人さんが営んでいる様子の工房が数件。
こちらは伝統工芸の灯篭を主に制作している様子の工房。
ご自由にご覧くださいの立て札もあるが、一応ひと声かけて見学させてもらう。
他の石材屋さんでも灯篭は展示されていたが、今まで見たものとは違って、素材の質感がにじみ出ているというか、とても自然的な灯篭。
用途や場所の違いで名前が変わってくるというのも目から鱗だ。
別の工房では作業中の職人さんがいたので、制作風景もちょっとだけ見せてもらった。
機械で作るものだとばかり思っていたが、一度削ったら修正が効かないであろう一枚の石材を、少しずつ手作業で掘り起こされていくという、浪漫溢れる作業内容。
石材が見たいという安直な目的だったのだが、こちらの工房の職人さんは、真壁の石材についての話を聞かせてくれた。
茨城の染物や焼き物などの工芸品と比べると派手さが無いので影りがちだが、真壁灯篭は伝統工芸の一つということや、近隣で加工に適した花崗岩が取れる為石材が栄えたこと、修験者がいつ死んでもいいように墓石を背負って歩いた事などの、石材に対する熱い思いや、埼玉の長瀞で採れる天然石についての話で盛り上がった。
石材の展示場へ
職人さんとの触れ合いも出来たことで、満足しながら 更に先へと進む。
下見の段階で見つけたハニワ屋さん(こちらは次回の記事で紹介します)を折り返し地点として、7、8キロある道を再び歩くが、すでに半日が過ぎてしまっていた。
▲次回紹介予定の埴輪屋さん「にしうら」
全店制覇はできないかとは思っていたが、このままでは予想の半分も行けないと思っていたところ、人通りのない県道沿いを朝から必死に歩いている僕たちを見かけた地元のブロガーの女性が車から「乗っていく?」と声を掛けてくれた為、お言葉に甘えて相乗りさせてもらい、徒歩移動から車移動へと変わった。
石材屋を見て回ってる旨を伝えたところ、まだ行っていない石材ストリートにある石材屋さんへと連れて行ってくれた。
最初に行ったのは、身の丈6~7メートルありそうな巨大寝神仏が展示されている石材屋さん。
割と広めの展示場になっていて、僕たちの他にも数グループの見学者が来ていた。
寝神仏の他にも神社にあるような仁王像や阿修羅像などの巨大石像が展示されていたが、説明用の札がついている所を見ると売り物のようだ。
巨大な石材彫刻だけでなく、ミニマムな石材も展示されている。
置物系の石材だけでなく、鳥居や石柱なんかも展示販売されているようだ。
県道沿いの石材アート「Rockギャラリー」
真壁町で有名な所があるから是非行ってみようという事で、連れて行ってもらったのがこちらのRockギャラリー。
▲Rock SPIRITは恐らくここの社名
現在は営業していないらしいが、その名残ともいえる不思議な石材の作品が数点周りに残っている。
▲プレーンな石材が敷地に残っていた
個人的に気に入ったのはRockギャラリー前にあったこちらの縁石。
意外と気づかない位置にあるが、恐らくここで造られたのだろう。
気の利いた遊び心にとても共感がもてる。
ストリート以外にもある石材屋さん
石材ストリート沿いのめぼしい石材屋さんは何とか回ることが出来たのだが、最後に真壁町周辺だと特に数が多い石材屋さんに連れて行ってもらうことになった。
石材ストリートからは結構離れている場所(土地勘がないのでどこなのかわからなかった)だが、今日一番の巨大さを誇る観音菩薩像が入り口にある。
撮影NGな雰囲気だったが、一応通りかかった会社の方に尋ねてみたところ、「若そうだからいいよ」と意外といい返事がもらえたので中へ入ると、神妙且つものすごい量の彫刻作品達。
力強い印象より曲線が際立つ作品の数々。
そして、こちらへ迫ってくるかのような大量ロットの石材の威圧感。
メジャーどころで言うと、二宮金次郎像のバリエーションの豊富さと、こんな風に売られているのか、という驚きがある。
個々で見ていくとあまり差を感じないが、集まっている石材彫刻達を比べてみると、少しずつ表情が違っていいたりするところがとても味わい深い。
一時は不完全燃焼で終わることも頭に過ぎっていたが、真壁町の人たちの助けもあってかなり濃密な一日となった。
石材彫刻の素晴らしさはさることながら、真壁町は人情味と小粋さのある町だったように思える。
折角なので採掘場にも行こうと思い市役所に尋ねてみたのだが、完全予約制だった為、今回は断念。次に来たときは是非訪れたいところだ。
おまけ:「真壁伝承館」
真壁町に到着して、まず初めに行った「真壁伝承館」。
かなり綺麗な資料館と図書館のある施設だった。
次回は途中で立ち寄った埴輪屋さん「にしうら」を紹介します。
写真・文/平井利治