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米国の現状から考察する日本の株式市場

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昨今、「為替と株価の連動感が無くなっている」という意見をよく耳にする。いわゆる “米ドルが安くなっているのに、NYダウ等の米国の株価指数が軒並み高くなっている” という現象だ。

本来であれば、株式市場が活性化するという事は、そこに投下するための米ドルの需要が増えているという事になるので、双方は同じ方向に向くものである。それが特に今年に入ってからは、そのセオリーがまかり通らなくなっており、ものの見事に逆行している局面が多々ある。
特に今年のドル/円とNYダウのチャートを見比べると、それは一目瞭然である。

ドル/円
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NYダウ
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米ドルと米株価が同方向に向かうというのは先述のとおりだが、逆行するケースは無いわけではない。
その要因は米国の政策金利の変動にある。
あくまでセオリーだが、例えば政策金利が上昇したり、上昇するという思惑が市場に蔓延すると米ドルは買われやすくなる傾向がある。何故なら、米ドルを保有する事で受け取れる金利が今までより多くなるため需要が高まるという事だ。


対して株価は下がる傾向にある。
市場へ投下する米ドル資金の調達コストが今までより高くなるため、機関投資家などは株式市場から遠ざかる事になるからだ。
今回はまさにその逆で米ドルが軟調、対して株価は堅調という現象が起きているのだが、それは何故か。原因は米政権の政策によるものと考えられる。

トランプ政権が目論む作為的相場による米国財政の建て直し

米国のトランプ大統領は頻繁に「米ドルは高い水準にある」という発言をしている。
結論から言ってしまえば、それが米ドル高の牽制となっているという事なのだが、では何故その様な発言をするのだろうか。

現時点のトランプ政権は公約として、貿易赤字の改善、米国企業の業績の改善、及び雇用の創出を挙げている。まず米国は長い期間、慢性的な貿易赤字に晒されている。この貿易赤字は、輸出入のバランスや米国の貯蓄の少なさ等様々な要因があるが、米ドルの需給のバランスも大事になってくる。

一時はユーロの追い上げもあったが、米ドルは基軸通貨という立ち位置を維持しており、米ドル高は輸入割合が比較的高い米国にとっては強みとも取れる。
ただそれは同時に輸出に関しては不利に働く事になり、これが米国の成長の足枷となっている。
そして米国の貿易赤字、ひいては財政赤字を引き起こす要因の一つとなっている。

米国貿易収支推移
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米国経常収支推移
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つまりドル安に誘引する事で、輸出の拡大と米企業の業績の底上げ、雇用の創出という掲げている公約がそれぞれ改善に向かう可能性がある。特にトランプ政権の支持層は製造業が多いため、ドル安誘引は一層注力したいポイントであろう。

市場もその効果を見込んでか、今年は株式市場への資金流入が活性化しており、これが結果的に米国株価指数と米ドルの逆行現象を生んでいると考察できる。
もちろんそれだけが現在の米ドルの原因ではないだろうが、下記のドル/円の推移を見ても、今年は特に上昇し難い地合となっているのは否めないだろう。

ドル/円の今年の推移
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前述のような米ドル安政策により、本当に米国企業、雇用が一定水準まで改善される事になれば、今度は米ドル需要が高まってくる事になる。
本来利上げとは温まってきた景気に対する抑制として行うものなので、その段階に到達できれば非常に健全な国家体制を構築できる運びとなる。

ただ上昇力が付いている景況下では、投機マネーが過度な後押しとなり得る。
ただでさえ米国は莫大な借金を補うために、海外から投資資金を集めるという考え方が定着しているので、そこに飛び乗ってくる投機マネーによりオーバーシュートしやすい体質がある。
その過程では米ドルの需要が過度に高まってしまうため、利上げをはじめとした通貨高抑制に随時着手する、これが本来の金融政策の姿であろう。


トランプ政権の真意は解らないが、そういった健全体質の国家の成就は大半の米国民の願うところであるのは間違いない。

金融政策に翻弄される日本の金融株

ここまでは米国の情勢について考察してきたが、米国のドル高牽制は日本の株式市場にも影響を及ぼしている。何故なら日本の株式市場参加者の6割強は外国人投資家であり、その殆どが米ドル建ての取引をしているからである。

一因として以前より、日米の金利差による円キャリートレードが定着している事が挙げられるが、近年は日本の量的緩和と米国の利上げによりそれが一層活性している様だ。
したがって日本の株式市場に投下される米ドルの割合は増加傾向にあると言われている。


特に日本市場は、海外の機関投資家が裁定取引のためにシカゴやシンガポールで仕込んだ日経225先物に合わせるため、現物株式を買い入れる事もそれを助長しているのだろう。買い入れられる現物株はおよそ日経平均株価と連動性の高い銘柄、若しくは連動型のETFである。
必然ではないが「日本市場は昨日の米国市場の流れを引き継ぐ」等と言われるのはこういった背景からである。
ここ一ヶ月ほどは米国株の上昇基調が強いものの、下記の日経平均株価のチャートを見ると値動きがNYダウに非常に似通っている事が見て取れる。

日経平均株価チャート
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対して先のドル/円チャートと比較すると、こちらも連動性が乏しいのが解る。連動している部分があるとすれば、米国の利上げ前であろう。

先述では利上げ公算が高い事が市場に蔓延すれば、株式市場は全体的に懸念が拡がるのがセオリーであるが、こと金融株に至っては需要が高まる傾向がある。
特に米国では金融規制緩和と年単位での利上げペースを掲げている事から、金融株への需要はその度増加している。

反面、この期待に暗雲が立ち込めると大きく売られる事になるのだが、日本は逆で今後も量的緩和を継続するスタンスを採っている。
消費税増税計画が足踏みしている事でペースは鈍化しているものの、この流れを止めてしまう事は今更できないだろう。既に日銀は発行済み国債の4割強を保有しており、日本は財政ファイナンスに陥っているとも言われている。


市場がこの懸念を覚えた途端に、日本国債の利率が急上昇してしまう可能性がある。
それはアベノミクスの頓挫を意味する事になるので、日銀はこの流れを止めるわけにはいかないという事だ。そのため、日銀当座預金のマイナス金利、国債の利回り低下と立て続けの悪材料により銀行等の金融機関は苦戦を強いられ、株価は軒並み軟調地合となっていた。

特に2017年3月はトランプ政権の景気浮揚政策に対する期待が後退したため、米国株式が調整地合となり円高に進んだ事から日本株も大きく下げ、中でも金融株は15.8%と大きく下落する事となった。

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ただ株価が安くなった事で配当利回りが高くなったため昨今、機関投資家を中心に銀行株が物色されている。もともと配当率が比較的高めである銀行株は魅力が高く、下落後の立ち直りが他業種に比べて遅れている為、特に国債依存度が低い銘柄に注目が集まっている様である。

テクニカル視点で見た日本の全体相場の今後

NYダウをはじめとした米国株式指数に遅れを取っていた日経平均株価も20000円を超えて堅調地合となったものの、直近安値から9週目である6月の第2週で20000円を割る事となった。
3週目は反発し再び20000円を超えるも2週目の下げ幅を消化する事が出来ず、4週目初頭も3週目の高値を抜けられずにいる。

実は現水準の上には20031円というネックラインがあり、この水準は昨年の11月に3週間にわたり頭を抑えられ、その後反落したというポイントでもある。
現時点のチャートの形からして上昇力はまだ見受けられるものの、上昇は既に三段目、時間的サイクルから見ても暫く伸び悩む地合となりそうに見受けられる。ただし19680円辺りは強いサポートラインとなっているため、20031円との間でレンジとなるとも考察できる。

日経225週足
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レンジ幅が狭いが、新たな材料が無い現時点としてはあり得ない値幅ではないだろう。
昨今は、為替やファンダメンタル等のセオリーが株価に対して効き難い地合となってはいるが、英国のEU離脱交渉の行方やトランプ大統領の立場についての疑念など材料としては芳しくないものが蔓延している感がある。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170621163127j:plain 神川 龍人
大手邦系証券会社にて国際事務部門、FXブローカーにてフロント業務及びカバーディーリング業務に従事し、邦系ファンドにて運用業務に携わる経歴を持つ。 現在はプロップハウスにてトレーダーとして従事しながら、マーケットに経済系セミナー等の講師も随時務める。