特集 2017年6月23日
 

NYの路線図が分かりづらくてスカートがまくれる

ニューヨークの地下鉄を味わいつつ、路線図に異議を唱えたくなり、最終的に納得した顛末です。
ニューヨークの地下鉄を味わいつつ、路線図に異議を唱えたくなり、最終的に納得した顛末です。
過日ニューヨークに行った際「なんでこんなに地下鉄路線図が分かりづらいんだ!」といらいらした。

慣れない街だからというだけではないと思う。だってロンドンではこんなに混乱しなかったもの。

あまりに分かりづらくて辟易したのでなんでこんななのかをいろいろ考えた結果、最終的に「マリリン・モンローのスカートがまくれた理由も同じか!」と思いいたりました。

なんのことやら、って感じですが、順を追って説明します。

なんだかんだいって雰囲気があってかっこいい地下鉄風景の写真と共にご覧ください。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。

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見事にわかりづらい

まずは問題のニューヨークの路線図をご覧ください。
MTA(Metropolitan Transportation Authority:ニューヨーク大都市圏交通公社)公式ウェブサイトのものを元にトリミング。すごい! 分かりづらい!
MTA(Metropolitan Transportation Authority:ニューヨーク大都市圏交通公社)公式ウェブサイトのものを元にトリミング。すごい! 分かりづらい!
見事にわかりずらい。まず、みょうに曲線でぐにゃっとなっているのが腹立たしいし、線の重なりと離れ具合のバランスが悪い。

DPZで路線図といえば西村さんだが、彼に「NYの路線図分かりづらいですよね」って言ったら「路線図マニア界では問題児と勝手に呼んでいます」との回答が。やはりそうなのか。

日本を含め、世界中で普及しているダイアグラム的な「分かりやすい」地下鉄路線図は、1931年にHarry Beckによって発明された。ロンドンの地下鉄でデザインされたのが最初。
神・Harry Beck さんによる最初のダイアグラム路線図。美しい。 London Transport Museum(ロンドン交通博物館)で撮影。
神・Harry Beck さんによる最初のダイアグラム路線図。美しい。 London Transport Museum(ロンドン交通博物館)で撮影。
Harry Beckの発明以前の路線図。地図にそのまま線を載せていた。見づらい。そしてNYのものに似ている。
Harry Beckの発明以前の路線図。地図にそのまま線を載せていた。見づらい。そしてNYのものに似ている。
世界15都市の地下鉄路線図が地理的な位置関係から変形させられているようすを示したアニメーションが話題になったが、これを見てもニューヨークだけがダイアグラム化していないことがわかる。東西方向に引き延ばされただけで、ほぼ地図そのままだ。

ニューヨークの路線図がダイアグラムに徹しきれない原因のひとつは、そもそも路線の考え方自体がややこしいからだ。

先の路線図から一部を取りだして説明しよう。
さきほどと同様MTA公式ウェブサイトのものを元に加筆加工。
さきほどと同様MTA公式ウェブサイトのものを元に加筆加工。
あまりにわけがわからなすぎてどう説明していいかすら分からないし、そもそもぼく自身がまだちゃんと理解していない(なので間違っているかもしれません)。

この線はどういうことかというと、同じプラットホームにやってくる線でも、終点と停まる駅が違うものは「違う路線」として認識しているということを表している。

上の「A」「B」「C」「D」は、東京だったらたとえば浅草線から京急に乗り入れた線が、羽田空港行きか、三崎口行きか、逗子行きか、によって「別の線」として描かれているということだ。そのうえ普通か、快特か、の区別も「別の線」にしているということに相当する。
このホームには「E」と「M」と「R」が来ますよ、と。なるほどわからん。どういうことだ? ってなった。ほんとうに困った。
このホームには「E」と「M」と「R」が来ますよ、と。なるほどわからん。どういうことだ? ってなった。ほんとうに困った。
そりゃぐちゃぐちゃになるだろうよ。日本人からしたら、これはすべて同じ路線として描き、普通/急行などの区別と行き先の違いは別途表記すべきだ、と思う。

(ただ、小田急線の快速急行、急行、多摩急行、準急、とかわけわかんなすぎるので、あればっかりはニューヨーク方式にして「別の路線」表記にしてもらいたいと思う。何度経堂駅を通過してしまったことか)

日本方式とニューヨーク方式、どっちが合理的かは一概には言えない。ニューヨーク方式の利点は、間違えずに乗りさえすれば、目的地に行くためにあまり乗り換えをしなくていいというものだ。東京の地下鉄が、目的地に最短で行くルートを選べる代わりに乗り換えが多くなる、というものなのでその対極だ。都市のできあがり方と人びとの移動のパターンを反映しているのだろう。要するに慣れの問題だ。

でも、路線図のわかりやすさからしたら明らかにニューヨークのものは世界基準から外れてる。

ところで高架がかっこいいぞ

さて、ここでちょっと地下鉄から別の話題に脱線だ。鉄道だけに。いや、この表現はまずいな。すみません。

ニューヨークに行ったら見たいと思っていたものに「鉄道高架」がある。車両がガタガタと音を立てて、リベットの模様もかっこいい鉄でできた高架の上をゆく。そういう風景が待っていると思っていた。で、これがすぐは勘違いだと気づいた。高架はニューヨーク名物じゃない。この街で、あまり高架鉄道の存在感はない。

とはいえ、マンハッタンの東、イーストリバーを渡って「クイーンズボロ」とか「マーシー・アベニュー」あたりには高架がある。だったら見に行かねば。
で、見に来ました。クイーンズボロ駅付近。かっこいい! そうそう、こういうやつが見たかった!
で、見に来ました。クイーンズボロ駅付近。かっこいい! そうそう、こういうやつが見たかった!
日本ではお目にかかれないごちゃごちゃ。すてきだ。
日本ではお目にかかれないごちゃごちゃ。すてきだ。
カーチェイスが似合いそうですよね。
カーチェイスが似合いそうですよね。
道路に落ちる影が独特。まるで木漏れ日のようではないか。近所にこういう高架ほしい。
道路に落ちる影が独特。まるで木漏れ日のようではないか。近所にこういう高架ほしい。
夜もすばらしいです。ここにこう、ハンモックでも吊って眠りたい。いい夢見られそう。
夜もすばらしいです。ここにこう、ハンモックでも吊って眠りたい。いい夢見られそう。
満足だ。

しかしなんでニューヨークでかっこいい高架がたくさん見られるぞ! と思い込んでいたのか。これにはいくつか理由がある。

まずディズニーシーにある「エレクトリックレールウェイ」。あの高架が好きで、いかにも昔ながらの高架鉄道のデザインはきっとニューヨークのものがモデルだときいたことがあった(気がしていた)ため。

あと、ぼくは古いミステリ小説が好きで、それらを読んでいるとしばしばニューヨークの高架鉄道が登場するから。

コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)という作家にはその名も『高架鉄道の殺人』という作品があるし、ディクスン・カーの『帽子収集狂事件』には「ニューヨークの三番街付近の高架鉄道駅で、撃ち合いをやって殺された」というセリフが出てくる。

そしてなんといっても映画『ブルース・ブラザース』だ。あの高架かっこいい。でもよく考えたらあれはシカゴだった(よし、近いうちにシカゴに行くぞ)。

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