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がん遺伝子治療に関する裁判を経験して弁護士 大瀧 靖峰 この裁判の相手方は、がん遺伝子治療を標榜するクリニックであり、ホームページ上や、市中一般病院内に置いてあるフリーペーパー等で、比較的大々的に治療効果を宣伝していた。 このがん遺伝子治療は、自由診療であり、治療費は主たるコースだけで約5百万円を超え、それを一括前払い、しかも、途中死亡などで解約しても支払った治療費は返還しないという特約を契約書で規定していた。 ところが、患者は、治療開始から約1か月で亡くなった。事情により治療費は約半額のみを支払い、残りの半額をまだ支払っていなかった。 クリニックからの残額治療費請求に対し、当方は、裁判の中で、消費者契約法違反(治療効果に関する不実告知、不利益事実の不告知)による契約取消し、治療効果や治療を受けた場合の予後についての説明義務違反などを主張した。 クリニックは、宣伝に用いた治療成績は正当であると主張していた。 本件は、裁判所の医療集中部に係属した医療訴訟ではあったが、高額の治療費を支払った一方で、適切なインフォームド・コンセントを経ないまま、医学的に治療効果が確認されていない治療(医学的には臨床的に有効性があると評価できない治療)を受けた事案であったため、いわゆる消費者事件にも近い様相を色濃く呈していた。 私がこの裁判を通じて思ったことは、自分や自分の家族が末期がんになり、少しでも長く生きていたいとか、少しでも長く生きていて欲しいと願う気持ちは極めて当たり前のことであり、医師はこの患者や家族の気持ちを誠実に受け止めて治療に臨まなければならないということである。 そのような患者や家族の気持ちを踏みにじらないように、期待に添えない可能性があるならば、その可能性についても、専門家としてしっかりと説明したうえで、患者側の理解を得る必要があった。 私は、例えば免疫療法など、末期がん治療のための健康保険外診療の全てを否定するものでは決してないが、医師は、患者側の勘違いや思い違いの場合も含め、患者や家族が、あわよくば完治するなどの強い期待を込めて来ている場合には、真実を述べて、誤解を解いたうえで契約するなどすべきである。 今後、このような、医学的に治療効果が確認されていない治療による末期がんに対する延命効果を誤信・過信して、高額な治療費を投じる人が出ないよう、言わば騙されたにも等しい被害者が出ないよう、私はこのエッセイを書いている。 医師、弁護士、及び僧侶は、言わば人の不幸で成り立つ職業であるため、金儲けを考えてはならないとの教えを受けたことがある。 |