最新記事

感染力

「咳やくしゃみの飛沫は4メートル飛び、45分間、空中に留まる」との研究結果

2017年6月22日(木)17時50分
松岡由希子

<豪クイーンズランド工科大学他の研究チームは、「ヒトの咳やくしゃみによって飛沫が空中に放出された後、飛沫に含まれる細菌の感染力は、どの程度持続するのか」について研究結果を発表した>

咳やくしゃみは、私たちにとって日常的な生理現象だが、これらによって空中に放出される飛沫は、いったい、どのように広がり、どれくらいの時間、残存するのだろうか。そして、その飛沫に細菌が含まれている場合、他の人々に感染させてしまうリスクは、どのくらいあるのだろうか。

豪クイーンズランド工科大学(QUT)とクイーンズランド大学(UQ)の共同研究チームは、「地球に広く分布する常在菌のひとつであり、院内感染の原因菌としても知られる"緑膿菌"がヒトの咳やくしゃみによって放出された場合、空中にどれくらい生存するのか」について研究してきた。

2014年8月には、呼吸器系医学雑誌『ソラックス(Thorax)』で、「咳による飛沫は、最長4メートル飛び、45分間、空中に残存する」との研究結果を発表している。

10秒程度で半減するものもあれば、10分以上かかるものも

この研究結果をふまえ、共同研究チームでは、「ヒトの咳やくしゃみによって飛沫が空中に放出された後、飛沫に含まれる細菌の感染力は、どの程度持続するのか」についてさらに研究をすすめ、2017年6月、『プロスワン(PLOS ONE)』において、ヒトの咳の飛沫に含まれる細菌には、早く減衰するものもあれば、減衰までに時間がかかるものも存在することを明らかにした。

この研究では、嚢胞性線維症(CF症)の患者と慢性緑膿菌感染症の患者からそれぞれ咳の飛沫を採取し、分析。咳の飛沫は、空気に当たると、すぐに乾き、冷やされ、酸素と触れることで部分的に劣化しながら空中にとどまることができるくらい軽くなるが、その中に含まれる緑膿菌は、10秒程度で半減するものもあれば、半減するまでに10分以上を要するものもあったという。

咳の飛沫に含まれる細菌において、なぜこのような"時間差"が生じるのかについては、まだ明らかになっていない。共同研究チームでは、飛沫が生成された気道の場所や飛沫に含まれる細菌の量が異なるためではないかとみている。

【参考記事】パーキンソン病と腸内細菌とのつながりが明らかに

院内感染の予防などにも

緑膿菌は、弱毒菌ゆえ、健康な人に感染しても無症状であることがほとんどだが、幼児や高齢者、患者など、体の抵抗力や免疫力が低下している人が感染すると、肺炎などの感染症を引き起こすため、とりわけ、医療現場では、その早期発見と感染の拡大防止が求められてきた。

ヒトの咳をサンプルに、飛沫やこれに含まれる細菌の性質を解明したこの研究結果は、今後、院内感染の予防などにも役立てられるだろう。もちろん、私たちも、咳やくしゃみを避けられないとき、飛沫が飛び散らないように工夫するなど、周りの人々への十分な配慮を心がけたいものだ。

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場は横ばい、オバマケア改廃案受けヘルスケ

ビジネス

通貨安の物価押し上げ懸念、利上げ必要=フォーブス英

ビジネス

米上院共和党、オバマケア改廃案公表 保守派反発で先

ビジネス

ドル小動き、堅調な米指標でも米国債利回り上昇せず=

MAGAZINE

特集:インテリジェンス戦争 中国の標的

2017-6・27号(6/20発売)

CIAの情報提供者を処刑し、日本人12人を容赦なく拘束──。スパイ戦を強化する中国インテリジェンスの最終目標

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    世界最恐と化す北朝鮮のハッカー

  • 2

    シリアで米軍機を撃墜すると脅すロシアの本気度

  • 3

    ドイツでタイ国王がBB弾で「狙撃」、これがタイなら......

  • 4

    D&Gが女性歌手に激怒した理由はメラニア!? 

  • 5

    気になるCMを連発、旅行サイト「トリバゴ」の意外な…

  • 6

    アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島…

  • 7

    エリザベス女王にも愛想を尽かされた?メイ英首相が…

  • 8

    ISISが国家樹立宣言したモスクを自ら爆破 イラク首…

  • 9

    就任5カ月、トランプは馬鹿過ぎて大統領は無理

  • 10

    米イージス艦事故と映画『バトルシップ』の意外な共…

  • 1

    アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島の衝撃

  • 2

    就任5カ月、トランプは馬鹿過ぎて大統領は無理

  • 3

    ロンドン高層住宅火災で明らかに イギリスが抱える「貧富の格差」

  • 4

    モンゴル人を大量「虐殺」 記憶遺産に値する中国の罪

  • 5

    イーロン・マスク「火星移住は生きている間に可能だ…

  • 6

    北朝鮮、米国人大学生釈放を発表 拘束中暴行され昏…

  • 7

    ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

  • 8

    世界最恐と化す北朝鮮のハッカー

  • 9

    エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあ…

  • 10

    身体が不自由な患者の頭をドナーの身体に移植する「…

  • 1

    ヤマト値上げが裏目に? 運送会社化するアマゾン

  • 2

    国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由

  • 3

    人相激変のタイガー・ウッズが釈明 いったい何があったのか

  • 4

    大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出 

  • 5

    アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島…

  • 6

    佐藤琢磨選手のインディ500優勝は大変な快挙

  • 7

    就任5カ月、トランプは馬鹿過ぎて大統領は無理

  • 8

    アイシャを覚えていますか? 金正男暗殺実行犯のイン…

  • 9

    ロンドン高層住宅火災で明らかに イギリスが抱える…

  • 10

    メラニア夫人が手つなぎ「拒否」、トランプは弱って…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク試写会「ファウンダー」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2017年6月
  • 2017年5月
  • 2017年4月
  • 2017年3月
  • 2017年2月
  • 2017年1月