内閣府の研究会は、先日、今の景気は、バブル期を超えて戦後3番目の息の長い回復を続けているという見解を示しました。
「いざなぎ景気」「神武景気」「オリンピック景気」、それに、「バブル景気」。好景気には、いろいろな呼び名がつけられています。今の景気、どんなふうに呼んだらいいでしょうか。
(経済部・楠谷 遼記者)
沸き立ったバブル景気(1986/12-1991/2)
ボディコン姿の女性がディスコのお立ち台を占拠し、週末の夜ともなれば、東京の繁華街には1万札をかざしてタクシーをつかまえようとするサラリーマンが路上にあふれました。
映画「私をスキーに連れてって」が大ヒットし、苗場や志賀高原といったスキー場は若いカップルのリフト待ちの行列。「財テク」が流行語になり、日経平均株価は史上最高値の3万8915円まで上昇。地価は高騰し、都心には“億ション”も登場しました。
今から30年近く前、4年3か月続いた「バブル景気」の光景です。
バブル期超え?の景気(2012/12-現在)
好景気と不況を繰り返す経済。その浮き沈みを公式に認定するのが著名な経済学者などを集めた内閣府の有識者研究会です。今月15日、研究会は、2012年12月に日本経済は景気回復を始め、今月までで4年7か月にわたって回復を続けている可能性が高いと判断しました。「バブル景気」を超え、戦後3番目の息の長い「好景気」になっているというのです。
ちなみに、戦後最長の景気回復は、2002年2月から2008年2月までの6年1か月間。2番目は高度成長期のまっただ中の1965年11月から1970年7月までの4年9か月。自動車、カラーテレビ、クーラーが「新三種の神器」と呼ばれ個人消費が大いに盛り上がった「いざなぎ景気」です。
政府は22日、6月の月例経済報告を発表し、景気判断を6か月ぶりに引き上げました。今の景気回復、長さでは「バブル」を超え、「いざなぎ」すら超える可能性もありそうです。
実感とぼしい景気回復
確かにバブルを超える指標もあります。雇用情勢を見ますと、4月には、有効求人倍率が1.48倍とバブル期を超える高い水準まで改善しています。大学生の就職活動もかなりの売手市場になっているといいます。
企業の業績も好調です。ことし1月から3月までの経常利益は前年同期比で26%余り増え、1~3月期では史上最高を記録しました。(財務省「法人企業統計調査」)
しかし、多くの人にとって、それほど好景気だとは思えないのが率直なところ。街行く人から聞こえてくるのは「回復の実感はない」「特売品などできるだけ安いものを買っている」などなど、好景気にはほど遠い声です。
それもそのはず、景気の力強さが決定的に欠けているからです。
まず、経済はどれだけ成長しているのでしょうか? 調査会社の三菱UFJリサーチ&コンサルティングに調べてもらったところ、1年当たりの実質GDP=国内総生産の伸びは、「いざなぎ景気」の間は11.51%。「バブル景気」は5.58%の成長。しかし、今回の景気回復は1.26%。かなり緩やかな回復です。
個人消費の伸びも同じです。「いざなぎ景気」は9.63%。「バブル景気」は4.57%伸びました。しかし、今回の景気回復では0.41%。ほとんど伸びていないのです。
賃金の伸びはどうでしょうか? 実質賃金の変化を見ると「いざなぎ景気」の頃は1年当たり8.2%上昇。統計の仕組みが少し違いますが、「バブル景気」の頃は1.5%の上昇。しかし、今回の景気回復では増えるどころか0.6%減少しています。ゆるゆると景気回復を続けているけれども、勢い不足は明らかです。
専門家に聞いた「○○景気」
では、今の景気回復に仮に名前をつけるとすると、どんな名前がふさわしいでしょうか。政府の経済財政運営の司令塔・石原経済再生担当大臣に聞いたところ、想像していたとおりでしたが、「アベノミクス景気」という答えが帰ってきました。
同じようにエコノミストに聞いてみました。それを見ると、今の課題をずばりと言い表すネーミングがそろいました。
空回り景気
企業が利益を上げ、賃上げをし、個人消費の拡大につながる経済の好循環をアベノミクスは目指しているが、企業が利益をためこんでしまっているのが実態。目指す好循環が始まらず「空回り」している。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング
小林真一郎主席研究員
べたなぎ景気
経済成長率が低く、海に風が吹かず全く波が立たない(=「べたなぎ」)ような緩慢な成長。日本経済の実力である潜在成長率が0%に近く、これを引き上げる構造改革の取り組みが不十分。
BNPパリバ証券
河野龍太郎チーフエコノミスト
目詰まり景気
年金など社会保障制度の将来不安から、賃金が上がっても消費せずに貯金に回ってしまう。公共投資を行っても人手不足で建設が進まない。経済がいろんなところで「目詰まり」を起こしている。
SMBC日興証券
宮前耕也シニアエコノミスト
道半ば景気
雇用情勢はよくなったし、消費や設備投資もかつてのような悪い状態は脱したので、政策の方向性は間違っていないが「道半ば」。先進国最悪の財政の健全化に地道に取り組むべきだ。
大和総研
熊谷亮丸チーフエコノミスト
2012年12月から始まった今の景気回復。実は、安倍政権発足と同時に始まっているのです。エコノミストの指摘は、アベノミクスの評価そのものともいえそうです。
実感が乏しい緩やかな景気回復では、海外経済などになんらかのショックが起きれば、たちまち深い谷へと沈みこんでしまうおそれもあります。「バブル」や「いざなぎ」のような熱気は望めないにしても、もう少し、勢いづけなければならないのは明らかです。皆さんならば、今の景気、どう名付けますか?
- 経済部
- 楠谷遼 記者
- 平成20年入局
鳥取局をへて経済部
内閣府担当