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 全国トップの水産物取引を誇る「東京の台所」の将来像を、小池百合子都知事はいったいどう描いているのか。おとといの記者会見を聞いて、どれほどの人が理解できただろう。

 知事が示した基本方針を一言でいえば、築地市場を予定どおり豊洲に移し、跡地は当初の売却計画を取りやめ、再開発して賃料を得るというものだ。

 だが具体的な姿は見えない。「豊洲と築地を両立させる」という知事の言葉は、都が主体となって築地に再び市場を設けるように聞こえ、事実そう受けとめた業者も少なくない。

 だがこれはいかにも唐突な案で、いくつもの疑問が浮かぶ。

 豊洲と築地は2キロほどしか離れていない。しかも流通の多様化で、市場の取扱高は減っている。「多額の税金をつぎこむことにならないか」と、豊洲の持続可能性に疑義を呈してきたのは、他ならぬ小池知事だ。

 にもかかわらず、会見では豊洲と築地の役割のすみ分けも、採算や財源のおおよその見通しも示さないまま、二つの市場が併存できるような夢を語った。「基本方針」の段階とはいえ、無責任に過ぎないか。

 都議選を前に自民党は「決められない知事」と批判を強めていた。豊洲移転を表明するだけでは「迷走の揚げ句、元に戻った」と、さらに攻め込まれかねない。そこで生煮えのまま「両立」という新たな看板を掲げ、当座をしのぐ。そんなふうにしか見えない会見だった。

 焦点の「安全・安心」問題もはっきりしないままだ。

 豊洲の地下水から環境基準を上回る汚染物質が検出されたことについて、専門家会議は地上は安全だとしたが、知事は「安全と安心は別」と慎重だった。

 その姿勢は変更したのか。であるなら、石原慎太郎元知事の時代から豊洲開場の条件としてきた「無害化」は取りさげると明言し、判断に至った理由を説明して理解を求めるのが、行政の長としてとるべき態度だ。

 昨夏、小池知事が立ち止まって移転を先送りしたことで、都議会のチェック機能の欠如をふくむ、豊洲市場をめぐる数々の問題が浮かび上がった。その功績は大きいが、混乱をどう収束させていくか、知事の手腕が問われるのはこれからだ。

 おとといの会見はその大切な第一歩だったのに、わずか30分で一方的に切り上げ、記者の質問にも正面から答えなかった。

 説明の場を改めて設け、都民の疑問に現時点で答えられることを丁寧に答える。さもなくば旗印の「情報公開」が泣く。

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