税制改正が行われると税金の計算方法がかわり、知っていると知らないのでは大きく違いがでてきます。
平成29年度の税制改正で個人的に注目をし、多くの人に影響を及ぼすと考えられるのが、配偶者控除・配偶者特別控除の改正、セルフメディケーション税制です。この2つは話題となっており、すでに知っている方も多いかもしれませんが、実はもう1つ気になる税制改正があります。
税制改正といえば国税に注目をしてしまいがちですが、今回私が注目をしているのが個人住民税です。改正とは違うのですが、この事を知っていると知らないのでは税金だけではなく、国民健康保険、保育料等にも影響があるでしょう。
気になる事があったので、市役所の方に色々と聞いてみた内容と併せて確認しましょう。
所得税と異なる課税方式により個人住民税を課税する事ができる
今回どの税制改正の文章が気になっているかというと、
(地方税)
〈個人住民税〉
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(9) 上場株式等に係る配当所得等について、市町村が納税義務者の意思等を勘案し、所得税と異なる課税方式により個人住民税を課することができることを明確化する。引用元:財務省
税制改正大綱の一部ですが、この文章非常に重要です。
今までは所得税と住民税の申告の内容は同じとなるのが一般的でした。しかし今回の税制改正で、「所得税と住民税の申告の課税方式が異なる申告をする事ができる」と明確化されています。この事によってどんな影響が考えられると思いますか?
上場株式等に係る配当所得
影響の前に、まずは上場株式等の配当について確認します。
上場株式等の配当は10ある所得の中の配当所得になります。配当所得は配当金を受け取る際に、給料と同様に源泉徴収等がされています。源泉徴収される税金は基本的には、配当金に対して所得税15.315%、住民税5%が徴収されています。
配当金10,000円の場合は、所得税1,531円(10,000円×15.315%)、住民税500円(10,000円×5%)が徴収され、手取りは7,969円(配当金10,000円ー所得税1,531円ー住民税500円)です。
*発行済株式の総数等の3%以上に相当する数又は金額の株式等を有する個人が支払いを受ける場合は税率が違います。
配当所得は原則確定申告の対象になりますが、上場株式等の配当の場合、確定申告不要制度を選択する事ができます。これ以降説明をわかりやすくするために、大口株主分は除外します。
配当所得は、原則として確定申告の対象とされますが、確定申告不要制度を選択することができるものもあります。
また、平成21年1月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当所得については、総合課税によらず、申告分離課税を選択することができます。(申告分離課税の選択は、確定申告する上場株式等の配当所得の全額についてしなければなりません。)
上場株式等の配当所得に係る申告分離課税制度については、コード1331を参照してください。
- (1) 総合課税
総合課税とは、各種所得の金額を合計して所得税額を計算するというものです。
総合課税の対象とした配当所得については、一定のものを除き配当控除の適用を受けることができます。
配当控除の適用についてはコード1250を参照してください。- (2) 確定申告不要制度
配当所得のうち、一定のものについては納税者の判断により確定申告をしなくてもよいこととされています。これを「確定申告不要制度」といいます。
確定申告不要制度の対象となる配当等は、主に次のとおりとなっていますが、この制度を適用するかどうかは、1回に支払を受けるべき配当等の額ごと(源泉徴収選択口座内の配当等については、口座ごと)に選択することができます。
なお、確定申告不要制度を選択した配当所得に係る源泉徴収税額は、その年分の所得税額から差し引くことはできません。
- イ 上場株式等の配当等及び投資法人からの金銭の分配の場合(大口株主等が受ける場合を除きます。)
支払を受けるべき配当等の金額にかかわらず、確定申告を要しません。- ロ 上場株式等及び投資法人以外の配当等の場合
一回に支払を受けるべき配当等の金額が、次により計算した金額以下である場合には、確定申告を要しません。10万円 × 配当計算期間の月数(注) ÷ 12
- (注) 配当計算期間が1年を超える場合には、12月として計算します。また、配当計算期間に1月に満たない端数がある場合には、1月として計算します。
引用元:国税庁
簡単に言うと、上場株式等の配当は確定申告で総合課税又は申告分離課税として申告する方法と、申告不要の3つ選択する事が出来ます。総合課税は他の給与所得等と合算して税率が決定され、申告分離課税は15.315%で税金が計算されます。
総合課税、申告分離課税、申告不要の3つの違い
総合課税 | 申告分離課税 | 申告不要 | |
確定申告 | 〇 | 〇 | ー |
所得税率 | 5.105~45.945% | 15.315% | 15.315% |
住民税率 | 10% | 5% | 5% |
配当控除 | 〇 | × | ー |
上場株式等の譲渡損失との損益通算 | × | 〇 | ー |
その他の所得との損益通算 | 〇 | × | ー |
*所得税率は復興特別所得税を含んでいます。
総合課税、申告分離課税、申告不要の3つの違いは上記ですが、総合課税、申告分離課税を選択した場合の損益通算について少し補足します。
総合課税は他の事業所得や給与所得等と合算して税金が計算されます。そのため、事業所得等で損失がでた場合、その損失は配当所得と相殺(損益通算)ができます。相殺後の所得に応じて所得税の税率が決定されます。
下記は所得税の速算表です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
*復興特別所得税は含んでいません。
総合課税とは違い申告分離課税は他の所得金額と合計をせずに税金が計算されます。上場株式等の配当の場合は15%(復興特別税を含まない)です。
上場株式等を売却した時に損失が発生している場合に申告分離課税により配当所得を申告すると、上場株式等の損失と配当所得を相殺(損益通算)する事ができます。その結果、配当所得の所得税が損失分還付されるかもしれません。
総合課税、申告分離課税、申告不要それぞれで有利な場合は?
総合課税、申告分離課税、申告不要と結局どれを選択したら有利になるか気になるので、例で確認してみます。
前提条件
・給与収入 240万円 源泉徴収6万円
・上場株式等の配当 20万円 所得税 3万円 住民税 1万円が源泉徴収されている
・所得控除は基礎控除のみ
・復興特別所得税は計算しない
・住民税は10%
総合課税 | 申告分離課税 | 申告不要 | |
所得税 | 66,000円 | 86,000円 | 56,000円 |
配当控除 | △20,000円 | なし | なし |
源泉徴収税額 | 90,000円 | 90,000円 | 60,000円 |
還付税額 | △44,000円 | △4,000円 | △4,000円 |
住民税 | 137,000円 | 127,000円 | 117,000円 |
配当控除 | △5,600円 | なし | なし |
配当割額控除 | △10,000円 | △10,000円 | なし |
納付する住民税 | 121,400円 | 117,000円 | 117,000円 |
上場株式等の配当は国税15.315%、住民税5%が源泉徴収されているので、総合課税で申告をして税率が20%の場合は配当控除があるので、確定申告をすると国税が還付される事があります。上場株式等の譲渡の損失がない場合は申告分離課税、申告不要で税金に差はありません。
この計算は所得税と住民税の選択を同じとした場合です。
聞いてみた内容
長くなりましたが、市役所の方に聞いてみた内容は以下です。
住民税の申告はいつまでにしたらよいですか?
配当所得を住民税は申告不要を選択した場合の申告はどうなりますか?
所得税と住民税で配偶者控除、配偶者特別控除に違いがある事はありますか?
ご協力下さった方々ありがとうございます。
住民税の申告はいつまでにしたらよいですか?
税制改正で上場株式等の配当の申告を国税と住民税で別々の選択ができるらしいのですが、住民税の申告はいつまでにしたらよいですか?
国税と住民税別々の選択は以前からありました。今回の改正でその事が明確化されています。国税と住民税で別々の選択をして申告する場合は、国税よりも先に住民税の申告をして下さい。
同じ質問を別の市役所の方に聞いてみたところ、
住民税の申告は国税の後でも大丈夫です。
という回答もありました。市町村によって違うかもしれないので、実際に申告をする役所の方に事前に問い合わせをした方が確実かもしれません。
住民税の配当所得は申告不要を選択した場合の申告はどうなりますか?
給与所得のみの場合、通常は年末調整があるので確定申告は不要です。しかし、上場株式等の配当を申告するために国税の申告をして、何もしないと住民税の申告も国税と同様になってしまいます。この場合住民税の配当所得は申告不要を選択するためにはどうしたよいか...と思い聞いてみました。
住民税の配当所得は申告不要を選択した場合の申告はどうなりますか?
確定申告の控えをもって、直接市役所の窓口まできて住民税の配当所得は申告不要を選択する旨を伝えて下さい。
「なるほど」と思い、同じ質問を他の市役所の人に聞いてみました。
確定申告の下の余白に「住民税の配当所得は申告不要」等と記載して下さい。
市役所によって取り扱いが違うので事前に問い合わせをした方がよさそうです。確定申告を電子申告で提出する場合も同様に事前に問い合わせをした方がよさそうです。
所得税と住民税で配偶者控除、配偶者特別控除に違いがある事はありますか?
配偶者控除、配偶者特別控除の改正で、扶養にする人、扶養になる人どちらも所得の金額によって所得控除の金額が違います。国税で配当所得を申告し、住民税で配当所得を申告不要にした場合 国税の所得=住民税の所得 とはならないので、改正後の配偶者控除の金額が国税と住民税で違ってくるのではないか、国税は配偶者特別控除、住民税は配偶者控除になる事がありえるのでは...と思い聞いてみました。
所得税と住民税で配偶者控除、配偶者特別控除に違いがある事はありますか?
所得税と住民税で改正後の配偶者控除や配偶者特別控除の金額が違う事はありえます。しかし、まだそういった情報がでていないのではっきりとした答えではありません。
やっぱり配偶者控除の金額等にも影響がありそうです。詳しい事がわかり次第、記事を作成します。
所得税は申告、住民税は申告不要を選択するとどうなるか
先程、所得税と住民税どちらも同じ選択をしましたが、所得税は申告、住民税は申告不要を選択した場合は以下の通りになます。
総合課税 | 申告分離課税 | 申告不要 | |
所得税 | 66,000円 | 86,000円 | 56,000円 |
配当控除 | △20,000円 | なし | なし |
源泉徴収税額 | 90,000円 | 90,000円 | 60,000円 |
還付税額 | △44,000円 | △4,000円 | △4,000円 |
住民税 | 117,000円 | 117,000円 | 117,000円 |
配当控除 | なし | なし | なし |
配当割額控除 | なし | なし | なし |
納付する住民税 | 117,000円 | 117,000円 | 117,000円 |
所得税と住民税別々の申告をする事でどちらも有利な方法を選択できるようになります。
税金以外の影響
住民税は申告不要を選択する事は税金以外にも影響があります。
国民健康保険
保育料
高額療養費
等は住民税所得割額で金額が決定されます。住民税で配当所得を申告する、しないで所得に違いがあるため国民健康保険、保育料等にも影響があります。
住宅ローン控除、ふるさと納税は保育料等に影響はありませんが、医療費控除、セルフメディケーション税制は保育料等にも影響があります。
ふるさと納税、住宅ローン控除、配当控除、医療費控除と保育料の関係
セルフメディケーション税制とは?税金以外も安くなるかもって本当?
まとめ
上場株式等の配当等が所得税と住民税で別々に選択できる影響は大きいです。FXや株式投資等の副業は人気なため、沢山の人に関係してきます。
最近では政府が正社員の副業や兼業を後押しする動きがみられます。改正により複雑になってきている税金ですが、少しずつ確実に理解する事が一番重要です。
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