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2017-06-21

第193回通常国会での内閣提出法案の衆議院での審議状況に関する雑感

第193回通常国会安倍政権:2017/1/20〜2017/6/18)で内閣から提出された法案は66本、うち3本が閉会中審査になったものの残り63件は全て成立しています*1

法案成立率は実に95%です。一般的に議員立法法案成立率は50%にも満たないのに対し、内閣提出法案の成立率は50%を切ることはまずなく80〜90%となることが多いのですが*2、それでも95%は高い方だと言えます。

言うまでも無く議席数が多ければ多いほど閣法の成立率は高くなる傾向にあります。最終的な本会議での議決のみならず、委員会審議などでも有利な役職を抑えることが出来るからです。しかしながら、基本的には議席数が多いから何でもできるわけでもありません。全て多数決で決めてよいのなら、圧倒的な多数派が提出する法案は審議する必要がないということになるからです。

それは提出された法案に問題が無いかチェックしたり、場合によって修正したりという審議が行われなくなることを意味し、多数派党による独裁となってしまいます。多数派党の提出する法案は常に正しく、審議の必要がない、なんてことは議会制民主主義にあっては前提とされません。

民主的選挙によって選出された議員は“選ばれた優れた人”という意味で“選良”とも呼ばれますが、そのような選良が数に頼って独善的に法案を成立させたりしないという性善説に基づく制度に、現在はなっています。

性善説に基づく制度であるが故に、有権者が無関心に放っておいたらトンでもないことになるわけです。

さすがに全ての内閣提出法案について審議せずに多数決だけで決めてしまえば、マスコミ批判的に報じ、多くの有権者批判的に捉えるでしょう。今のところは。

その場合、“選良”を偽装している独裁者は何を考えるかというと、形式的に審議をしている振りをします。すなわち、形式的に審議時間をかけ、与党寄りの野党を抱き込み、与党だけの賛成ではないことを偽装するわけです。そういう手法に騙されないためにも、審議で何が議論されているのかを知り、質疑に対する政府側答弁が適切かを自ら判断する必要があります。

ここで重要なのは、野党による質疑の質よりも政府側による答弁の質の方をより厳しくチェックすべきだということです。

理由としては、政府側には野党の意図するところを真摯に理解し誠実に答える義務があるという点、情報量という点において政府側がはるかに有利である点、行政・国民生活に直結する法案の成否を政府側が握っているという点、成立後の法の執行政府側が行うという点、などが挙げられるでしょう。

にもかかわらず野党批判にばかり勤しんでいる論者は一体何なんでしょうねぇ。


それはさておき。

国会・第193回通常国会における内閣提出法案の成立率は95%(63/66)、これをどう捉えるべきでしょうか。

政府側が真摯に法案について説明野党の質疑に誠実に答え時に修正に応じた結果でしょうか。それとも、政府側が議席数に任せて形式的な審議のみで採決強行した結果でしょうか。

それを判断するために、成立63本の法案について会派別の賛否状況を確認してみます。

会派賛成数欠席数対数
自由民主党無所属の会63(100%)00
民進党無所属クラブ50(79.4%)1(1.6%)12(19.0%)
公明党63(100%)00
日本維新の会61(96.8%)02(3.2%)
自由党35(55.6%)7(11.1%)21(33.3%)
社会民主党・市民連合35(55.6%)6(9.5%)22(34.9%)
日本共産党21(33.3%)042(66.7%)

第193回国会 議案の一覧 閣法の一覧から集計。

公明党はまあ与党なので内閣提出法案に全て賛成というのはわからないではありませんが、民主党政権時に与党だった社民党普天間基地問題を巡って連立離脱を決断していますから、与党内にあっても重要議案では連立離脱をかけることは出来るわけです。日蓮よりも安倍を信じる公明党にそのような気概を期待するのは無理のようですが。

自民公明以外で目立つのは、賛成率96.8%の維新です。

反対したのは、「所得税法等の一部を改正する等の法律案」「企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律の一部を改正する法律案」の2本のみ。内閣提出法案に賛成しかしないのなら、実質的に与党と区別がつきませんね。

最大野党民進党は賛成率79.4%です。反対数は12本。数字的には野党らしいですね。自由党社民党は共に賛成率55.6%。反対数自由党21本、社民党22本です。

国会共産党はかなり強く反対していますが、それでも賛成率33.3%です。

“何でも反対の野党”という誤ったイメージ

“何でも反対の野党”というのは巷間よく言われるフレーズではありますが、実際には政府提出法案の8〜9割で賛成していることが多いんですよね。共産党などはかなり反対しているイメージがありますが、それでも政府提出法案の6割で賛成という程度です。また、反対の場合も対案となる議員立法が提出されていることがありますから、決して何でも反対というわけでもないんですよね。

強行採決代替的定義の検討

強行採決の定義はなかなか難しく、単純に採決で賛否が分かれただけで決めるわけにもいかないのですが、データとしての取り扱いやすさを考慮して以下のような便宜的な定義をいくつか提示してみます。

全会一致(欠席なし)16本
全会一致(欠席を賛成とカウント)20本
1会派以上の反対あり43本
2会派以上の反対あり26本
3会派以上の反対あり19本
4会派以上の反対あり10本
5会派以上の反対あり1本

無所属議員はカウント対象から除外。

全会一致でなければ強行採決というのはさすがに乱暴*3ですので、上2つは定義としては不適切でしょう。同じ理由で「1会派以上の反対あり」も不適切。逆に「5会派以上の反対あり」となると全ての野党が反対しなければ強行採決ではないということになり、閣外与党紛いの少数政党がいる場合に強行採決過小評価されてしまいます。

この両極端の野党として、共産党維新が対置できるかもしれませんが、共産党の賛成率33.3%に対し、維新の反対率が3.2%というのを考慮すると、維新のみが極端に与党寄りで共産党法案によって是々非々の判断を行っていると見るべきでしょう。

すると、審議時に2〜4会派以上の反対がある場合は強行採決だと定義すると、比較的実態に近いと言えそうです。

4会派以上が反対した法案は以下の10本です。

6 所得税法等の一部を改正する等の法律
10 地方税法及び航空機燃料譲与税法の一部を改正する法律
11 地方交付税法等の一部を改正する法律
15 地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律
21 農業競争力強化支援法案
23 主要農作物種子法を廃止する法律
26 防衛省設置法等の一部を改正する法律
29 農村地域工業等導入促進法の一部を改正する法律
40 畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律
54 国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律

そうすると、共謀罪法案が上記に含まれていないことがわかります。共謀罪法案衆議院でも強行採決されていますから、挙がってこないのは常識的な判断と矛盾します。そこで共謀罪法案の会派別の賛否情報を確認してみると以下のようになっていました。

(抜粋)

項目内容
衆議院審議時賛成会派 自由民主党無所属の会; 公明党; 日本維新の会
衆議院審議時反対会派 民進党無所属クラブ; 日本共産党
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DC46A6.htm

つまり、自由党社民党がカウントされておらず欠席扱いになっています。実際、調べてみると社民党自由党本会議に欠席して抗議しています。

共謀罪」新設法案が23日の衆院本会議自民公明与党維新の賛成多数で可決、通過した。民進、共産は出席して反対。社民自由は欠席。

(略)

本会議開会前、社民党又市幹事長自由党小沢一郎代表らは衆院議員会館で共同記者会見。「(野党4党で衆院法務委員会に)差し戻しを求めているのだから、本会議採決に加わるわけにはいかない」(又市幹事長)と、欠席方針の理由を説明した。

http://www5.sdp.or.jp/topics/2017/05/26/%E5%85%B1%E8%AC%80%E7%BD%AA%E3%80%80%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%88%E3%81%AC%E6%9A%B4%E6%8C%99%E3%80%80%E5%8F%82%E9%99%A2%E3%81%A7%E5%BB%83%E6%A1%88%E3%81%AB/

委員会で審議を継続すべきだから本会議での採決に応じないというのは、少数政党の戦略としては間違ってるとは言えません。また、こういう欠席が本質的に反対であることは明白です。そこで反対だけではなく欠席の場合も含めてみるとこうなります。

2会派以上の反対または欠席あり30本
3会派以上の反対または欠席あり23本
4会派以上の反対または欠席あり13本

無所属議員はカウント対象から除外。

4会派以上が反対・欠席した法案は以下の13本です。

6 所得税法等の一部を改正する等の法律
10 地方税法及び航空機燃料譲与税法の一部を改正する法律
11 地方交付税法等の一部を改正する法律
15 地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律
21 農業競争力強化支援法案
23 主要農作物種子法を廃止する法律
26 防衛省設置法等の一部を改正する法律
29 農村地域工業等導入促進法の一部を改正する法律
35 農林物資の規格化等に関する法律及び独立行政法人農林水産消費安全技術センター法の一部を改正する法律
40 畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律
54 国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律
55 地方自治法等の一部を改正する法律
64 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律

64号が共謀罪法案になります。

現在の政党構成において、少なくとも4会派以上が反対・欠席している中で法案を採決成立させるのは強行採決とみなして大きな問題はないように思えますね。今国会衆議院においては13本の内閣提出法案において強行採決が行われたといって良さそうです。

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