ここ1年ほど、集団による意思決定についてぼんやり考えていた。
最近読んだ本に、知りたかったことの断片が書かれていたのでメモしておく。
人はなぜ集団になると怠けるのか - 「社会的手抜き」の心理学 (中公新書)
- 作者: 釘原直樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2013/10/22
- メディア: 新書
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「手抜き」という言葉からネガティブな印象を受けたので読むかどうか悩んだのだけど、少し視点を変えればポジティブな環境づくりにも活かせる気がした。「どのような環境であればみんなが楽しく仕事を進められるか」とか「どうすれば集団で有意義な議論と意思決定ができるか」とか。
社会的手抜き
この本のメインテーマとして扱われているのが「社会的手抜き」である。
「リンゲルマン効果」と表現されることもある。
作業を行う際、個人で行うよりも集団で行う方が1人あたりの努力の量が低下する傾向にあるという。つまり「集団の中で個人は手抜きを行っている」という話。手抜きをしていることは本人も自覚していなかったりするらしい。
さらに集団サイズが大きくなればなるほど、個人の手抜きも大きくなるという実験結果もある。
傍観者効果
集団でいるときに発生した問題を他人事として捉えてしまう現象を指す。
衆人の前で犯罪や事故が発生しているのに誰も動かなかった、とかそういう話。
これも社会的手抜きの一種であると考えられる。
集団思考
集団思考は集団浅慮、groupthink とも呼ばれる。
Wikipedia によると集団思考とは以下のとおりである。
集団で合議を行う場合に不合理あるいは危険な意思決定が容認されること、あるいはそれにつながる意思決定パターン
集団思考も社会的手抜きに関連する。
集団の中で誰かが意見を出したとき、集団の雰囲気を壊さないために、批判や疑問を受け付けない空気が形成されることがある。また、反対意見や疑問が挙がらないと何となく周りがみな賛成しているように感じられ、異なる意見や疑問を出しづらくなる場合もある。
この状態は集団全体が過度の楽観主義になったり、懸念事項について話し合われないまま物事が進むことにも繋がりかねない。
世の中で「何でこんな企画が通ってしまったのだろうか」というものをときどき見かけるが、これに該当するケースもありそう。
集団でのブレインストーミング
多人数が参加するブレストでも社会的手抜きが発生し、質のよい成果は出にくいという実験結果が出ているそうだ。
ブレスト自体が「質より量」を重視しているというのはそのとおりなのかもしれないが、最終的に質の高いものを出したいのであれば、まずはひとりでアイデア創出を行った後に議論を行う方がよいと書かれている。
個人的には、ブレストをコミュニケーションの手段として考えるならアリかなと思っている。ブレストを行う際は、事前に目的と参加メンバーを明確にしておくとよさそう。
社会的手抜きをどう扱うか
本の中では、社会的手抜きを軽減する方法として以下のように書かれている。
- 集団を分割してサイズを小さくする
- 集団のコミュニケーションを活性化する
- 罰や監視などネガティブな側面に力を注ぐより、ポジティブな側面に力を注ぐ
- 知的好奇心、創造性を刺激する
- 作業や課題に意味を見出せるようにする
- 個人に対して配慮する
- 個人の役割を明確にし、個人の努力が集団に役立っているという認知を高める
- 個人の努力によりビジョンの達成が十分可能であることをアピールする
作業の意欲低下
別の本になるが、組織デザイン(沼上幹著、日経文庫)では「分業によるデメリット」の項で、作業者の意欲が低下する要因として以下を挙げている。
上記と共通するところもある。
- 作業の意味が分からなくなること
- 作業者が独自に試行し、自分の工夫を生かす余地が少ないこと
- 作業から学習できる内容が少ないこと
集団の分割による副次的な効果
集団を分割することにより、集団思考を防ぐ効果も期待できる。
小さい集団から得られた結論を全体会議の場に持ち寄って議論するのだ。
他に集団思考防止策として、以下も挙げられていた。
- わざと反対意見を主張する人物を議論に加える
- 利害関係がない外部の専門家を会議に参加させる
ただこれらの対応は意思決定の速度とのトレードオフになる。
この辺りは本の中でも「場面によって使い分けるとよさそう、難しいけど」みたいなまとめになっていた。難しい。
逐次合流テクニック
他にも、個人の役割や存在を明確にし、効率的に集団意思決定を行う方法として「逐次合流テクニック」が紹介されている。
- コア集団となる2人で、課題について十分に話す
- その後3人目を招いて、3人目の意見を先に発表する
- 3人で議論を行う
- さらに4人目を招いて(以下繰り返し)
- 全員が参加したあとで最終意思決定を行う
感想とか
集団が大きくなるにつれ、個人の手抜き発生は避けられないと思われる。
手抜きが発生している状態をポジティブに捉えると「遊びがある」「余裕がある」とも言えそう。ギチギチで遊びのない状態は脆いというのは、一般的にもよく聞く話だ。
一方で、集団に入って個人の出力が弱まるのはもったいない気がする。
個人の力をなるべく活かすようなしくみを作ることは可能かもしれない。すべての個人の意向を汲むことは難しいけど、なるべく汲もうとすること、寄り添う姿勢を目指すことは不可能じゃないのかなって思った。完璧は無理でも、なるべく、できる限り。
肝心の意思決定についてはもにゃもにゃしていたところがいくらか言語化されて少しすっきりした。自分が参加するときは引き続き意識していきたい。
関連書籍など
意欲低下の話で出ていた組織デザイン。
- 作者: 沼上幹
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/06/01
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「100人いたら100通りの働き方があってよい」という思想を掲げ、働き方を選択できる制度を導入しているサイボウズ青野さんの著書。この本に書いてある、会社の文化もよいなあと思っている。
チームのことだけ、考えた。―――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか
- 作者: 青野慶久,疋田千里
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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下記の本では、論文の題材として集団思考の話が出てくる。
- 作者: 戸田山和久
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/08/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ブレストの話。
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