VRで先行者利益を狙うパブリッシャー、スレートの戦略

VRに進出するパブリッシャーが増加中だ。そこにスレート(Slate)の名前が加わった。政治とカルチャーを扱うスレートだが、週刊のVR番組を7月のローンチに向けて開発中だ。番組名は未定のようだが、トーク番組形式となり、少なくとも2カ月は放送されるという。

パブリッシャーたちにとってVRはまだ実験的な分野だ。VRヘッドセットは高価であり、大々的には普及していないため、オーディエンス規模はまだ小さい。ファイルサイズも大きいうえに、オーディエンスへ届けるためのプロモーションも大変だ。特に専用のアプリでのみVRビデオを視聴可能にするパブリッシャーが多く、オーディエンスはアプリをわざわざダウンロードしなくてはいけない。広告主もVRビデオをどう活用すべきか分かっていない

習慣を生み出す必要がある

こういった問題はスレートも自覚しているようだ。7月にローンチされる番組は2Dスタイルで開始されるという。それによってスレートが存在している既存のプラットフォームのどれでもビデオを配信することができ、ヘッドセットがさらに普及したときに真のVRとして移行することができる。

スレートはポッドキャストネットワークであるパノマリー(Panomaly)の立ち上げ、そして11年間に渡るポッドキャスト配信の経験をもつ。今回のプロジェクトには、そこで学んだ教訓が活かされている。ニューヨーク・タイムス(The New York Times)USAトゥデイ(USA Today)といったパブリッシャーたちは視聴者が行ったことのない遠い場所の映像を届けるのにVRを利用しているのに対し、スレートは彼らがもっとも得意とする分野に取り組んでいる。それは人々のあいだで議論を生み出すことだ。

また定期的なスケジュールでもってオーディエンスに届けられることの重要性も理解している。「ポッドキャストで分かったのは、人々のあいだに習慣を生み出さないといけないということだ」と、スレートのプロダクト責任者であるディヴィッド・スターン氏は言う。

VRスタイルのトークショウを展開

ラフな段階でのプロトタイプとして広告主たちに披露された物では、スレートのカルチャーエディターであるフォレスト・ウィックマン氏、スレートの映画評論家であるデイナ・スティーブンズ氏がアバターとなって登場し、シミュレーション上の映画館のなかで映画の歴史について語った。

番組における広告に関して、スレートはエンターテイメント、テック、フード、リテールそしてホテル業界のマーケターたちと話をしているという。従来のテレビ的なオープニングとエンディングの提供スポンサーとしての紹介や、個々にカスタマイズした番組内部における広告挿入といった形式の可能性がある。

「ブランドは最初に移行することによってユーザーのエンゲージメントを確保し、アドバンテージを得ようと思っている」と、スレートのセールス責任者であるケンリー・ブラッドストリート氏は言う。

スレートが製作するVRスタイルトークショウのプロトタイプのGIF

スレートが製作するVRスタイルトークショウのプロトタイプのGIF

先行者利益を獲得するために

パブリッシャーたちがVR参入に乗り気になれないもうひとつの理由は、専門知識と制作コストの高さという参入障壁だ。

とはいえスレートも大枚を叩いている訳ではない。スターン氏を含めて、スタッフがVRフォーマットに取り組んでいる時間は最小限に抑えられており、ゲーム開発ソフトウェアのユニティ(Unity)のプラットフォームを活用している。プロトタイプの制作にはVRスタジオであるバルディ・バーチュアル(Balti Virtual)と協働した。

達成困難な目標にスタッフを駆り立てるよりは、スタジオで番組を撮影してストック動画で補完することをしたいと考えている。完成品の見た目は落ちるかもしれないが、スポンサー抜きで番組ができることを意味している。

「我々が言っているのは、これにいま取り組んでしまって、VRを使いたいと興味をもっている人たちと繋がろう。人々がヘッドセットを所有すれば、より多くの応用が見られるだろうし、そのときにはこの分野において地に足が着いた状態になっているだろう」と、ブラッドストリート氏は語った。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)