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 「数」の上にあぐらをかく政治はやがて行き詰まる。手間はかかっても地道に理解を求める努力こそ、改革への正道である。フランスのマクロン大統領は、そう肝に銘じてほしい。

 総選挙の決選投票で、マクロン氏の率いる新党が、連携する政党とあわせて定数の約6割の議席を確保した。

 「右でも左でもない政治」を訴えて政治運動を立ち上げてから1年余。5月に大統領に就いたころは政治家としての経験不足を危ぶむ声もあった。

 それでも左右双方から人材を登用した巧みな組閣人事、外交で米国やロシアの首脳らと堂々と渡り合う安定ぶりが、懸念をやわらげたといえるだろう。

 マクロン氏が向き合うべき課題ははっきりしている。

 10%近い失業率、年1%前後で横ばいの低い成長率、積み上がった政府の借金――。

 マクロン氏は停滞から抜け出す処方箋(せん)として、「規制緩和で経済を活性化して成長につなげつつ、セーフティーネット(安全網)も充実させる」と説く。

 だが、これが決して平坦(へいたん)な道ではないことは明らかだ。

 とりわけ「いったん採用したら解雇できない」と形容される正社員に手厚い現行制度が、成長を妨げ、若者の雇用を阻んでいると指摘されて久しい。

 歴代政権が改革を成し遂げられなかった背景には、「柔軟な雇用」を口実に労働者の正当な権利まで奪うのではないかと疑う国民の根強い不信があった。

 さらに先進国共通の現象として、経済のグローバル化や技術革新の波で、もはや正規雇用すら安泰とはいえない時代だ。

 政治への不信を映すように、今回の総選挙では有権者の半数超が棄権した。新党の勝利は、就任後間もないマクロン氏の個人人気によるところが大きい。

 たとえ議席は多くても、政権基盤は盤石ではない。「痛みを伴う改革」に取り組むには、謙虚にきめ細かな説明努力を尽くす以外にない。「おごり」の政治こそが、マクロン氏の大敵と心得るべきだろう。

 トランプ政権や欧州連合(EU)離脱を決めた英国政治の混迷で、「自国第一主義」を声高に説く欧州のポピュリズムの波はやや一服したかに見える。

 だが、既得権益にまみれた既存政党に有権者が背を向けたいま、マクロン氏が新たな信頼関係を築けなければ、民意は残された選択肢として再びポピュリズムに向かいかねない。

 国際協調の基盤を守るためにも、マクロン氏には改革への丁寧なかじ取りを望みたい。

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