強い毒を持つ南米原産のアリ「ヒアリ」が5月下旬、兵庫県尼崎市のコンテナ置き場で見つかった。国内で確認されたのは初めて。中国から輸送された貨物コンテナに紛れ込んでいたとみられる。ヒアリは世界的に生息域を拡大し、定着すれば根絶は難しく、米国では刺され、毎年約100人が死亡しているという。一体、どんなアリで、刺されるとどうなるか。

 「刺されると名前の通り、火が着いたような痛みが走る。私の場合は軽い『アナフィラキシーショック』(免疫の過剰反応)で目まいや動悸(どうき)、手の震えが起き、瞳孔が収縮し視野が狭くなった」

 アリの生態に詳しい九州大学「持続可能な社会のための決断科学センター」(福岡市)の村上貴弘准教授は2010年に台湾で、ヒアリの蟻塚を生態調査のため掘り起こした際、被害にあった体験をこう振り返る。

 村上准教授や環境省によると、ヒアリは体長約2・6ミリ〜6ミリで茶褐色。赤土の土壌に高さ約20センチ、直径60センチほどのドーム状の蟻塚をつくり、集団で生息する。攻撃性が強く、獲物や外敵にかみつき腹部の先端にある毒針で何度も刺す。

 刺されると患部が腫れてニキビのようにうみ、痛みやかゆみが2、3週間は続く。複数回刺されてアナフィラキシーショックが重症化すれば、呼吸困難や意識障害が起き死に至ることもある。

 原産地の南米から北米や中国、台湾、オーストラリア、東南アジアなどに外来生物として定着。貨物にまぎれ、港や空港などから侵入したとみられる。米国ではヒアリ被害で年間約100人の死亡例が報告され、駆除や農作物の食害などで約5000億〜6000億円規模の経済損失も出ている。

 「日本に侵入すれば東京から沖縄までの雪が少ない地域に定着する恐れがある。米国では大規模な駆除作業を続けているが、蟻塚の深さは地中1メートルほどあるため殺虫剤が効きにくく、根絶が非常に難しい」(村上准教授)

 環境省によると、コンテナは5月25日、中国・広州市から神戸港に到着。26日に兵庫県尼崎市で積み荷を取り出す際に床や壁にアリ数百匹が見つかった。

 アリは駆除されたが、環境省は「周辺に逃げた可能性を否定できない」として、コンテナが置かれた神戸市と尼崎市の計3カ所にわなを設置するなどし、調査している。

 村上准教授は「ヒアリが外部に逃げた可能性は低い。ただ、海外旅行で公園などの赤土のあるところを訪れた際には蟻塚がないか注意してほしい。刺された場合は医療機関を受診してほしい」と話している。