2016年5月7日に発生したテスラModel SのAutopilotモード走行中の死亡事故で、事故当時死亡したドライバーがハンドルに手を置かないと発生するアラームを再三にわたり無視していたことがわかりました。一方で、衝突されたトラックの運転手が証言していた「ハリー・ポッターの映画を鑑賞中だった」という話は、実際にはサントラかなにかの音楽のみが流れていたことが判明しています。
米国家運輸安全委員会(NTSB)がまとめた500ページにおよぶ調査報告書によると、テスラの運転席に登場していたジョシュア・ブラウン氏は事故発生時、Autopilotモード中に一定時間ドライバーがハンドルを握らずにいると発生する警告表示やアラーム音を7回、延べ37分間に渡って無視していたとのこと(ハンドルを握っていた時間はわずか25秒)。
また、トラック運転手が証言していた「ハリー・ポッターの映画が再生中だった」という件については、テスラ車内にあったPC(Chromebit)のストレージ内に当該の動画ファイルが見つからなかったものの、ハリー・ポッターシリーズのサントラ音楽が再生された痕跡が確認されたとのこと。
この件について、ブラウン氏遺族の弁護士はブラウン氏が運転中に映画を見ていたという「明らかに間違っているうわさ」が正されることを望むと声明を発表しています。
米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は2017年1月、この事故でAutopilotモードに欠陥は見つからなかったとしています。NHTSAの事故車の調査からは、事故2分ほど前にとられたドライバーの最後の行動がクルーズコントロールの速度を74mph(119km/h)に設定したこと(制限速度は65mph)、事故発生時にテスラがまったくブレーキを使用していなかったことが明らかになっています。
またNHTSAは当時の状況から、ドライバーが正常に前方を中止していれば衝突の7秒前にはトラックを視認できていたはずと指摘しました。しかし、実際にはドライバーはなにもアクションを起こさず、Autopilotセンサーはトレーラーの高い車高と白いボディを正常認識できないまま荷台下部に突っ込み、ルーフを削ぎ落とす格好でくぐり抜けました。
テスラは事故後、Model Sの前方認識用センサーをMobileye製から社内生産品に変更しています。さらにAutopilotのバージョンアップを実施して安全性を高めたとしています。Autopilotに関しては目前で発生した玉突き事故を早期に感知、回避に成功した例もあり、今回のNTSBによる報告書からも、その安全性に大きな欠陥がないことが裏付けられたと言えそうです。
一方で、ドイツ当局はテスラに対し「Autopilot(自動操縦)」という表現を禁止する通達を出し、日本の国土交通省も日産自動車の半自動運転機能の事故を受けて注意喚起をするなど、自動運転という誤解を生みがちな言葉にも、より正確な表現が求められるようになりつつあります。
ちなみに、現在の市販車に搭載される「自動運転」というキーワードはいずれも「加速・操舵・制動のうち複数をシステムが自動制御する支援システム」、いわゆる「自動運転レベル2」であることを意味し、もちろん使用中に事故を起こせば責任はドライバーにかかります。印象の強い宣伝文句に踊らされないようご注意下さい。
[Images:Florida Highway Patrol, AOL]