Suchmos・YONCEへの偏愛を聞かされる

CMにも起用され、若者に絶大な人気を誇るミュージシャン・Suchmos。おしゃれな音楽性とファッションで注目されているのかと思いきや……? Suchmosのボーカル・YONCEのファンに勝手にセッティングされ、魅力について話を聞く食事会に行くことになった武田砂鉄さん。既視感のある展開に嫌な予感が漂います。

「cakesで連載している感じで書いてくださいよ」

こういうコラムを毎週連載していると、知人から「○○について書いてよ」と気軽に言われるし、「○○について書けばPV稼げるんじゃないか」とアドバイスを受けるのだが、最も大切なのはPV数ではなく、PV数が極めて少なくても峰竜太を探求する姿勢を維持することにある。「cakesで連載している感じで書いてくださいよ」と本人サイドからPR記事を頼まれることもあるけれど、「cakesで連載している感じ」はPR記事ではないことによって保たれているのである。

しかしながら、業務過多が続くと、誰について書くかのセレクトすらままならないこともあり、そういう時に「○○について書いてよ」と言われるとうっかり乗ってしまいたくもなるのだが、○○について調べたり語ってくれたりするわけでもない。半年に1度くらいしか会わない女性の友人からメールが届く。「私、ようやく気付きました、Suchmos・YONCEの素晴らしさに。魅力を話したくてたまらない。食事をしましょう。15日の夜はどうですか。新宿の餃子屋を予約します」とのこと。Suchmosについての知識はCMに使われている「STAY TUNE」を何度か聴いたくらいのもの。餃子屋に向かう。一方的に話し始める。業務過多ゆえに、以降は彼女の談話でお届けする。

YONCE「虫と上手くやっていく方法は無いものでしょうか」

砂鉄はどうせSuchmos=いけ好かないシティーボーイだと思っているでしょう。違うんだよ、『BRUTUS』に出るような感じじゃないんだよ。YONCEの魅力は洗練されていないところ、いなたい(=田舎臭い)ところにある。今、メディア戦略の一環として、彼がちょっとしたイケメンに仕立てられているでしょう。私はそれに異議を申し立てたい。YONCEはただの田舎の子なの。つまり、どういうことか。彼はね、絶対にエゴサーチをしていない。そう確信できる、純朴な子なんです。そして、彼の魅力はミュージックビデオよりもむしろ、インスタとツイッターに現れている。YONCEはインスタのコメント欄で、地元・茅ヶ崎の友達と「ハゼ釣りしようぜ」と話してたりするの。セルアウトしても姿勢が変わらないって、めちゃめちゃ尊くない?

最近の芸能人はみんなそうやってプライベート晒してファンとの距離を縮めてくるよね、って砂鉄は言うけれど、読みが甘い。このツイートを読んで欲しい。ちょっと声に出して読んでもらっていいかしら。はい、どうぞ。「虫と上手くやっていく方法は無いものでしょうか。なぜ大人になると苦手になるんだろう。心が狭くなったように感じちゃうなー。いろんな意味で悲しい!でも苦手なんだもの!」……ほらっ、本当にいい子なんだよ。私、このツイートを読んで、すっかりYONCEのことが好きになったんだ。童心を懐かしむアピールってありがちだよね、って砂鉄、言うと思ったよ、いかにも砂鉄が言いそうなことだよ。砂鉄が言いそうなこと、今日はおおよそ想定済みだから。ならば聞きたい。YONCEのツイッターとインスタのアカウント名が何か知ってるかい? ソリティアマン(@solitaire_man)なんだよ。あのWindowsパソコンに標準で入ってるゲームのソリティアだよ? ここから本物の童心を感じ取れない人なんているのかな。いないよね。

ライブのMCで「風の歌を聴いてください」って言える?

YONCEのファッションはダサい。でもね、YONCEは本気なんすよ。ファッションセンスがジーンズメイトなの。でも、そこがいい。茅ヶ崎の友達といつまでも仲良く、お姉さんの犬・通称「ちびドラゴン」と戯れている生活。亡くなったおじいさんが夏になると黒アゲハになって戻ってくる、そう信じられる子なんだよ。あっ、烏龍茶ください。ライブのMCで「風の歌を聴いてください」って言える? 砂鉄、言える? 言えないでしょう。でもね、YONCEは言えるの。未だに実家暮らし。ポイント高い。

私、YONCEに性的魅力を感じたことはないの。弟的な存在かもしれない。これって40歳を過ぎて初めて抱いた感情なのね。YONCEはYONCE。「YONCEさん」でも「YONCEくん」でもない、「YONCE」なの。YONCE、スーツ着てくれないかな、絶対に似合うと思うんだよ。ああ、毎日YONCEを見ていたい。

いろんな街を一夜にして沸かす

最後に一つだけ質問をさせてもらった。「何年前くらいからファンなんですか」。答えは「10日」。この日一番の驚き。ファンの度合いを「いつからファンなのか」で計測するべきではないとはいえ、彼女が、ファンになったばかりの感じではなく、すっかりファンとしての安定感を持っていることに驚いたのである。たった10日で、熱狂を通り越した冷静さで自身にYONCEが定着している。

この定着の早さ。自分のためにこの人がいる、と確信させる早さ。それは、YONCEにあって峰竜太にないものだ。音楽をやるうえで一番大事なことについてYONCEは「〝リスナーに信用されるバンド〟でいるっていうこと」(『SPUR』2017年3月号)と答えている。でも、同じインタビュー内で「ほっといてもなるやつがスターなんだと思う」「周りを意識する必要はない」と突き放してもくる。どっちなんだ、どこへ向かうんだ、と戸惑わせる。戸惑わせてファンを吸着させる。

場を設けてまで一方的に語ってきた彼女とはもう15年くらいの付き合いになるが、特定の芸能人について喋り倒してきたのは初めての事。楽しそうな表情のまま、新宿の夜の街に消えていった。YONCEは「いろんな街を一夜にして沸かすっていう、それが醍醐味」とも語っていたが、今宵の彼女の沸きっぷりはそれに入るのでしょうか。別にどちらでもいいんだけど、入るとイイな、と思う。来週からは通常運転に戻ります。

(イラスト:ハセガワシオリ

7月、武田砂鉄さん1年振りの単著が出ます! 天然パーマから遅刻癖まで、コンプレックスをしつこく探究!

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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コメント

kingmayummy わかりますすごくこの「10日」の女性の気持ちわかります。> 10分前 replyretweetfavorite

umeruma 愛溢れるいい語り 37分前 replyretweetfavorite

kawaG3 贔屓目に言ってYONCE最高 42分前 replyretweetfavorite

nknayc YONCE好きになった  約1時間前 replyretweetfavorite