CULTURE
告発 スタートアップはこうして「やりがい搾取」に狂奔する|「使命感とお楽しみ」にダマされるな!
Text by Dan Lyons
ダン・ライオンズ 小説家、ジャーナリスト、脚本家。著書『スタートアップ・バブル』が「ニューヨーク・タイムズ」ほか各メディアで大反響を集める
『スタートアップ・バブル』の舞台となったハブスポットにて。スタンディングデスクで働く従業員
PHOTO: PAT GREENHOUSE / THE BOSTON GLOBE / GETTY IMAGES
この本を書いたのは、「ユニコーン」企業の内幕を見る、より現実的な視点を提供し、世間が信じているヒーローさながらの起業家の物語に一石を投じたいからだ……。
「ニューズウィーク」をリストラされた51歳の毒舌おじさん記者が転職したのは、注目のIT企業「ハブスポット」。彼がそこで見たのは、若者の「やりがい搾取」の実態だった! キラキラなスタートアップ企業の、ぐっちゃぐちゃの内側とは?
「ハーバード大学以上の難関企業」
「ここにいるってことは、君たちは全員、きわめて特別な存在なんだ」と、研修トレーナーが新入社員に向かって言う。
「ハブスポットには数え切れないほどの応募者がやってくる。この部屋に座ってるってことは、君はとびきり優秀な多くの人たちより優れていたってことだ。知ってたかい? わが社に採用されるのはハーバード大学に入るより難しいんだ」
このハーバードうんぬんという言葉は、相当広まっている。私も何度も耳にした。どこからそんな主張を編み出したのかは知らないが、ハーバードの合格率はたしか6%だから、おそらくそこから思いついたのだろう。ある年に、履歴書を出した人の6%未満しか採用しなかったから、ハブスポットはハーバードより難関なのだ、と。
バカバカしい。しかも意外に思うかもしれないが、大した話でもない。マクドナルドやウォルマートだって、応募者の6%未満しか採用しないこともある。それでも新人たちはその言葉を聞いて、「自分は特別なんだ」と感じるのだろう。
この会社に採用されるのは、若くて影響されやすく、フラタニティ(大学の男子社交クラブ)やソロリティ(大学の女子社交クラブ)に所属していたり、大学でスポーツをしていたような人。ここが初めての職場だという人が多く、黒人はいない。中流で、郊外に住み、大半がボストン地区の出身だ。ルックスも同じ、ファッションも同じ。この画一性には、目を見張るばかりだ。
「選ばれし者」に与えられる過酷なノルマ
「世界をよりよくする」社風にふさわしい若くて頑張り屋の白人をかき集めるのは、はじめの一歩に過ぎない。ハブスポットは2段階での洗脳をおこなう。
まず新人たちは、「君たちは選ばれた存在。ここにいられてどれほどラッキーか」とたたき込まれる。次に来るのは脅しだ。競争が激しく猛烈な職場だから、期待に応えられない人が多いのだ、と。
「部屋をぐるっと見回してごらん」と研修トレーナーは言う。
「1年後には、いまいる人の多くが、もうここにはいない」
この会社では、誰よりも優秀な者だけが生き残るのだ。入社は第一歩でしかない。今後は、チームで重要な人材だと認められなくてはならないが、営業部で働く者にとって、このプロセスはとりわけ厳しいものになる。過酷なノルマを達成できなければ外されるのだ。大勢の若者を採用し、燃え尽きるまで働かせ、ポイと投げ捨て、また新人を採用する──これがパターンだ。
顧客には最先端の営業ソフトを販売しているが、自社では昔ながらのコールセンターを運営し、薄給の若者に来る日も来る日も何千本もの電話をかけさせている。
これはハブスポットだけではない。真実を言おう。IT企業の大半が、電話営業もしている。理由は単純、安いからだ。年収400億ドルのソフトウェア企業オラクルだって、販売コストを下げるために、何千人もの大学生を雇ってコールセンターに詰め込みだした。何千人もの見込み客に電話営業するのは強引で泥臭い戦略かもしれないが、投資家たちがケタ外れの成長率を求めてくる以上、目標の数字を上げる唯一の方法なのだ。
電話営業の成功率について、若者たちもすぐわかってくるけれど仕方がない。ノルマがあるんだもの! 彼らは笑顔で電話する対価として、年収3万5000ドルと成績に応じてボーナスをもらう。これは営業の世界では最低レベルだし、ある種のしごきと言ってもいい。だが、ハイクラスの営業マンになりたいなら、まずはテレマーケティングという奈落で実績を上げなくちゃならないのだ。
ここはたしかにおしゃれなオフィスだが、仕事自体は100年前にひい爺さんがしていたかもしれない仕事より、そうマシだとは思えない。古い労働搾取工場がブラック企業に変わっただけ。
ある意味、現代版のほうがひどい。朝から晩までソフトウェア・プログラムに一挙一動を追跡される。電話した件数を数えられ、「ノルマを達成してない」「来月には失業かも」と絶えず通知される。
狙われるのは、安くて便利な若者たち
ベンチャー投資家がハブスポットにどっさり投資するのも、「IPOに成功する」と信じているのも、増収のおかげだ。赤字が何億ドルだろうと成長さえしていれば株価は上がり、ストックオプションで投資家と創業者だけは大儲けができる。ハブスポットが山ほど若者を雇う理由も、投資家のためだ。人生を楽しみ、「世界を変える」と口にする大勢の若者……。それが企業としての“売り”になるのだ。
若者を雇うもう一つの理由は、安いから。赤字経営だけに、何百人もの人を、なるべく安い賃金で営業やマーケティングといった部署で働かせるには、どうすればいい? 大学出たての若者を雇い、仕事を面白く見せるのも一案だ。
キャンディとナッツの瓶が詰まった壁、犬がうろつく廊下、わくわく大好きカルチャーを象徴する遊び場のようなオフィス。タダのビールを与え、たびたびパーティを開けば、やってくる若者が途切れることはない。そして朝から晩までけた外れな精神的プレッシャーに耐え、あくせく働き続けてくれる。
彼らをだだっ広い部屋に、肩が触れ合うくらい密な状態で詰め込めば、さらにコストを削減できる。そして、こう告げるのだ。
「オフィス空間にかかるお金がもったいないからじゃないよ。君たちの世代は型にはまらない働き方が好きだから、こうしてるだけ」
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