結婚宣言 「らしさ」と炎上の「綱渡り」
沖縄県で17日に開かれたAKB48グループの「第9回総選挙」。1位には指原莉乃さんが輝き、初の3連覇を達成した。だが、話題をさらったのは、指原さんでも卒業を発表した2位・渡辺麻友さんでもなく、ファン以外にあまり知られていない20歳のメンバーによる「結婚宣言」だった。戸惑いや批判の声が渦巻く中、一部では「マンネリ感」も心配されるAKBのこれからは--?【増田博樹、大村健一/統合デジタル取材センター】
「AKB総選挙史上最大の衝撃」 メンバーも怒り
「初めて人を好きになりました。結婚します!」
発表会場となった沖縄県豊見城市(とみぐすくし)の公民館。20位となったNMB48の須藤凜々花(すとう・りりか)さんがスピーチすると、まさかの発言に司会の徳光和夫さんは「今、何を話しているか分かる? 真剣なんだよな?」と当惑した様子。見守るメンバーも一様に複雑な表情を見せた。メディアは「AKB総選挙史上最大の衝撃」(デイリースポーツ)などと伝え、毎日新聞のアクセスランキングも、総選挙関連記事は「結婚宣言」を報じる記事が上位を占めた。
そもそもAKB48は、素人っぽいと指摘されれば、それを逆手に取った歌をヒットさせたり、メンバーのスキャンダルも話題作りに転じたりするなど「なんでもあり」のグループとも言える。また須藤さんは「将来は哲学者を目指すマージャン好き」という、一風変わったキャラクターで知られており、ファンにも「耐性」があるはずだった。
ところが、結婚宣言は一線を越えたと感じたファンも多かったようだ。須藤さんの公式ツイッターにはスピーチ後、「(投票に必要なCDを大量に購入するなど)いくらつぎ込んだと思っているのか」「卒業してから宣言すべきではないか」といった投稿が殺到した。メンバーからも「ファンの気持ちを考えると本当に胸が痛い」(11位のAKB高橋朱里さん)、「何と言っていいかわからない」(NMBキャプテンで人気メンバーの山本彩さん)など、怒りや戸惑いの声が相次いだ。
メンバーとファンが作る「世界観」 リスク管理に不備はなかったか
「アイドルと結婚」。古くは1980年に21歳で引退した山口百恵さんのケースでも語られてきたテーマ。困惑や批判、そして祝福が飛び交う今回の事態を専門家はどう見ているのか。
「婚活」という言葉を世に広め、アイドルにも造詣が深いジャーナリストの白河桃子さんは「20歳の女性が結婚すること自体は、おめでたいことだと思う」と祝福。一方で、AKB総選挙は立候補制でもあることから、「事前に総選挙を辞退するなど、アイドルもファンも守られるような道を作れなかったのかという思いはある」と話す。
「アイドルの世界は、本人やファンたちが努力して構築した壮大な『ファンタジー』という側面もある」と白河さんは指摘する。たとえば、宝塚歌劇団は「清く正しく美しく」という劇団の理念に基づいた行動を求められ、その結果、世界観が守られている、と話す。「今回のことは『世界観』を一緒に作るチームのメンバーやそのファンのモチベーションに関わること。大人である運営サイドのリスク管理が求められる」と話した。
「アイドルとは」「結婚とは」 考えさせた須藤さんを評価
アイドル評論家の中森明夫さんは「CDを買って投票したファンや、他のメンバーに対する部分で批判の声が上がるのは理解できる。しかし須藤さんは、一世一代の舞台で、リスクを背負いながら、思い切った発言で私たちにインパクトを与え、総選挙の主役になった。AKBに興味がなかった層でさえ『アイドルとは何か』『結婚とは何か』を話題に盛り上がっている。この点は大いに評価したい」と称賛する。
2005年の最初のライブから、AKB48を見つめてきた中森さんは「何が起こるか分からない」ことがグループの魅力と考える。「AKBはこれまでのアイドルの既成概念にとらわれず、次々と新しいことを打ち出してきた。09年に始まった総選挙もその一つで、9回目を迎えた今回、何事もなく終わっていたらマンネリ感も出た。20歳のアイドルが話した数分のスピーチが、空気を読んでそんたくしたり、不祥事がすぐにバッシングされたりという、息苦しさ漂う現代社会に風穴を開けてくれたとさえ思う。これから大変なこともあると思うが、アイドル史に残る一大事件だ」と熱を込めて語った。