“新文書”の内容
この文書は去年10月21日、萩生田官房副長官が文部科学省の局長と面会し、官邸や内閣府の考えを伝えた発言をまとめたとするものです。
文書には、萩生田官房副長官が「加計学園」の名前を挙げた上で内閣府、そして総理補佐官と相談した結果として、四国で獣医学部新設が認められるようにするため、ハイレベルな伝染病実験ができる研究施設や、既存の大学を上回る教授の数が必要とするなど、具体的な指示を出したと記されています。
そして、総理補佐官の発言として、「農水省は了解しているのに、文科省だけがおじけづいている」と伝えたとしています。
さらに、「官邸は絶対やると言っている」、「総理は平成30年4月開学とおしりを切っていた」などと文部科学省に具体的な時期を示して、新設を認めるよう求める発言をしたと記されています。
文書の後半には、「加計学園の事務局長を文部科学省の課長のところに行かせる」という発言があったと記されています。
松野大臣「局長の面会は事実」
この文書について、松野文部科学大臣は文書にあった去年10月21日、萩生田官房副長官と文部科学省の高等教育局長が面会し、そこで獣医学部新設の話をした事実については認めました。一方、「確認された文書の内容は高等教育局長の確認を受けておらず、萩生田副長官の発言ではないことも含まれていると報告を受けている」と述べました。
“新文書”どこにあった?
文部科学省は新たな文書は専門教育課の共有フォルダーから見つかったとしています。NHKの取材でこの文書は省内の3つの部署のおよそ10人の職員にメールなどで共有され保管されていたことが分かっています。
文部科学省はすでに2度、調査を行っていますが、見つからなかった理由について「調査の対象が国会で民進党などから問題とされた19の文書に限られていたため」としています。
“新文書”の意味は
この文書が書かれた時期は事業者として、加計学園が決まる3か月前で、国家戦略特区で獣医学部新設も決定していません。しかし、文書には、この時点で「加計学園」の名前が記されていました。そして、開学の時期を1年5か月後に区切り、文部科学省に早く新設を認めるよう求めていました。
また、萩生田官房副長官が具体的に指示していたとする内容は、今治市のある四国で獣医学部を新設する条件をクリアするための具体的なアドバイスとも読み取れます。
さらに、文書の後半に書かれていた加計学園の事務局長と文部科学省の課長との面会については、NHKの取材で実際に、この6日後、加計学園の事務局長が文部科学省の担当職員と会っていたことが明らかになっています。
副長官“正確性欠く個人メモ
この新たな文書について、萩生田副長官はコメントを発表し文部科学省から「文書は個人メモであり、著しく正確性を欠いたものだ」と説明をうけ、謝罪もあったことを明らかにしました。
そのうえで、獣医学部の新設について、文部科学省などから報告を受けたことはあったものの具体的な指示や調整を行ったことはないとしています。
また、「総理は平成30年4月開学とおしりを切っていた」などと発言したと記されていることについては、「安倍総理大臣からいかなる指示も受けたことはなく、具体的に開学時期の指示をしていない」と事実関係を否定しています。
さらに、「加計学園の事務局長を文部科学省の課長のところに行かせる」と発言したとされたことについては「加計学園の事務局長とはやり取りしたこともなく名前も存じ上げていない」と事実関係を否定しています。
そのうえで、「このような不正確なものが作成され、意図的に外部に流されたことについて非常に理解に苦しむとともに強い憤りを感じている」としています。
文科省の職員「内容は当然」
文部科学省の現役の職員からは、「説明には不自然な点が多く、事実をしっかり解明すべきだ」という声があがっています。
職員のひとりは、「萩生田官房副長官に面会した局長や文書を作成した職員はいずれも記憶が曖昧(あいまい)で文書の内容は不正確だと説明しているというが、私たちは内容を忘れないため記録に残しており、事実と受け止めるのが当然だ。文部科学省は当時の経緯について事実を解明し、納得できる説明をするべきだ」と話しています。
“新文書”専門家の見解
獣医学部新設をめぐっては、特区を所管する内閣府と、学部新設の許認可権を持つ文部科学省との間でせめぎ合う構図がありました。
萩生田氏は安倍総理大臣が議長を務める国家戦略特区諮問会議の議員ではありませんが、内閣府によりますと、官房副長官として、会議には慣例的に出席していたということです。
萩生田氏は20日発表したコメントの中で「文部科学省から報告を受け、気づいた点を指摘することはあったが、具体的な指示や調整を行ったことはない」と否定しています。
また、萩生田氏は加計学園が千葉県銚子市で運営する千葉科学大学で一時期、「客員教授」となり、報酬を受けていたとしています。現在は「名誉客員教授」ということで、報酬はうけてないということです。
野党から「学園の利害関係者が規制緩和の調整をしたことになるのではないか」と指摘されたのに対して、萩生田氏は「名誉客員教授は肩書きだけの立場で、一度も学校に行っておらず、報酬も一切もらっていない」と説明しています。
萩生田氏が内閣官房副長官の立場で、規制官庁の文部科学省の相談に乗っていたことについて、特区制度に詳しい立命館大学の高橋伸彰教授は「内閣官房副長官であっても、特定の人や法人の利益を誘導した形になっていなければ相談にのること自体は問題がない。
今回の場合、萩生田氏が調整に動いた結果、加計学園に有利な結果となったとすれば、立場を越えていたと見られてもしかたがない」と話しています。
また、萩生田氏が加計学園が運営する千葉科学大学で名誉客員教授になっていることについては、「理事長や経営者など学園を代表する立場ではなく、問題はないと思う。ただし、ほかの客員教授に比べて優遇されていないか、利害関係の有無は明らかにする必要がある」と指摘しています。
どうなる来年4月の開学?
今回の問題の本質は獣医学部新設の選定プロセスが適切であったかどうかです。しかし、先日、閉会した国会では文書のあるなしに多くの時間が使われ、真相は明らかになりませんでした。
NHKの今月の世論調査でも、政府のこれまでの説明に「納得できない」と答えた人が65%に上っています。専門家からは真相を解明するため第三者による調査を求める意見も出ています。
もう一つ、注目すべき点としては、加計学園の獣医学部が実際に来年4月に開学できるかどうかです。特区では、新設が認められましたが、開学には文部科学省の諮問会議で認可される必要があります。教員の数や学生の定員、それに教育内容が新たな獣医学部としてふさわしいといえるのか現在も審査が続いていて、8月末に結論が出される予定です。
- 社会部
- 森並慶三郎 記者
- 社会部
- 荒川真帆 記者