黒髪で体格がよく健康だった李和平氏が、痩せた白髪交じりの目の悪い中年男に変わり果てるのに2年かからなかった。同氏は2015年7月、300人近い人権派弁護士や支援スタッフ、活動家らと共に警察に拘束された。多くはすぐ釈放されたが、約40人は拘束され続けた。その一人が李氏で、軍事基地の独房で「108番」として半年を過ごした。8週間毎日、負荷がかかる同じ姿勢で立つことを強いられ、頻繁に殴られた。高血圧でもないのにそれ向けとされる薬を飲まされたため、無気力と筋肉痛に悩まされ、視界がぼやけた。最後は運に恵まれ、「国家政権転覆罪」で執行猶予付きの有罪判決を受け、先月、釈放された。
12年に中国共産党総書記に就任した習近平氏は、法の支配の改善を誓ってきた。望ましい成果はあった。商法の分野では専門家の水準が上がり、下級裁判所では地方政府からの独立性が高まった。昨年5月には提訴するのも容易になり、国営メディアによると制度変更以降、それ以前の2年より訴訟件数が3割増えた。
だが、法の支配が共産党の権力と対立する分野では党が必ず勝つ。共産党は、自分の土地から追い出された農民など弱者だけでなく、自宅で祈りをささげるキリスト教徒など、党が脅威とみなす信念を持つ人を弁護してきた李氏のような人間を容赦しない。他の人権派弁護士は、当局に背いたとして法廷に立たされた。共産党は、法制度は支配強化のための道具であるべきだと考えており、今年1月には中国で最高位にある判事(最高人民法院長=最高裁長官)が司法の独立という概念は「誤った欧米の理想だ」と批判した。
■人権派弁護士の主張は「偽ニュース」
毛沢東時代には、李氏のような人は射殺されるか労働収容所送りだった。政府は近年軽犯罪者を裁判なしで労働収容所に送る慣行をやめるなど、共産党が敬意に値する存在に見えるよう心がけている。拷問の規則も厳格化したが、国連は昨年2月、中国の刑事司法制度では拷問が今も「深く根付いており」、証拠より自白に依存しすぎていると指摘した。だが政府は、李氏と仲間の弁護士数人が拷問されたと訴えている主張を「偽ニュース」だと否定している。
弁護士や活動家の一斉検挙から丸2年を迎える節目を前に、政府は一連の案件を終わらせたいと考えているようだ。今も拘束されているのは4人だけだが、彼らは転覆罪を含め重罪に問われている。その一人、王全璋氏は面会も許されていない。
一方、釈放されても厳しい監視下に置かれる。警察は李氏の自宅玄関先を1日中監視し、全通信を検閲している。家族と別の都市に引っ越すことを余儀なくされた弁護士もいる。大半は弁護士資格を奪われた。
人権派弁護士は警察の嫌がらせには慣れているが、最近は家族も似た状況に耐えなければならない。李氏の7歳の娘は受け入れてくれる学校がない。王氏の4歳の息子も幼稚園から入園を認められない。2人の妻はよく拘束される。王氏の妻によれば彼女はある時、警官に殴られた揚げ句、裸にさせられカメラに向かってあいさつするよう命じられたという。李氏の親族は身分証明書やパスポートを更新できない。15年に拘束されずに済んだ一部の人権派弁護士は、国から出ることを許されない。