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ルミナス冒険譚 作者:日光 たいら

第二章

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ⅡーⅦ   《たまには笑って昔の話を》

 
 街には何軒か武器屋があったが、その中でも最も人気のある店の扉を開いた。店に入ると、入り口近くに置いてある鎧が出迎えてくれた。店の壁には一面に槍や剣、弓などが並んでいる。どうやら先客も何人かいるようで、展示されている武器をしげしげと眺めたり、客同士で何やら会話している様子だ。恐らく先ほどのレナルドが口にした戦争という単語を聞いて、準備をしなければと思った者たちなのだろう。

 物々しい雰囲気に圧倒されることなく、ルミナスは好奇心旺盛に店内をきょろきょろと見回している。この店にある武器では彼女の筋力には重すぎるものばかりだろう。彼女にはその手に持った杖で十分だろう。ヘインズに自由に見ていていい、と許可を貰って彼女は店の中をうろうろと歩き出した。

 ヘインズはというと、特に店を観察することもなく奥へと進んで行く。カウンターに肘をついて腰かける店主の前に立ち止まって声をかけた。

「よう。この店で一番いい剣が欲しいんだが」

「いらっしゃい。いい剣ったってなあ……。どんなのが好みだい?」

 そうだな、と髭に手を当て考える仕草をして答える。

「出来れば腰に差せるくらいの、重めのがいい。刀身は幅広だと尚いいんだが……。ありそうか?」

「なるほどな。ちょっと待ってろ」

 そう言って店主は壁に飾られている一本を手に取り、ヘインズに手渡す。

「こいつなんてどうだい? あんたの要望に応えたこの店一番の剣だぜ」

「ふむ……。ちょっと振ってみてもいいか?」

 ご自由に、と顎で促されて剣を抜く。刃は銀。特に目立った装飾が施されている訳ではないが、丁寧に鍛えられた一振りだと見た目で分かる。二、三度その剣でヒュッという鋭い音を立てて空を切り、もう一度剣をまじまじと見る。悪くはないが、何か物足りなさを感じた。

「その顔を見ると、どうやらあんたのお眼鏡には適わなかったみたいだな。悪いがあんたの条件を満たすそれ以上の剣はこの店にはねえぞ」

「ああ、悪いな。冷やかすつもりは無かったんだが、他の店にも寄ってみることにするよ」

 そう告げ、ルミナスを連れて店を後にした。さらに数軒の武器屋を訪れて同じようなやり取りをしたが、どれもヘインズの満足のいくような一品は見つからない。時計を見るともう二十時を回っている。そろそろどこも店仕舞いを始める頃合いだ。

 満足いかなくともさっさと適当な剣を調達するべきだったな、と彼が後悔し始めたとき、ルミナスが明るい声を出す。

「ほら、ヘインズさん! 今朝の川ですよ! 何度見ても綺麗ですよね!」

 彼の気などそっちのけに、ルミナスはつい半日ほど前に見た宝石箱に夢中になっている。そういえば今朝は彼女を連れ戻すことだけを考えていたから、じっくりと川を見てなどいなかった。彼女の隣に立ってヘインズも街を両断する大河を望む。

 ――懐かしいな。

 ここからの景色をじっくりと眺めるのはもう何年ぶりだろう。この街に滞在していたとき、酷く落ち込んだことがあってここで川を眺めたことを思い出す。あの時とは違ってランプの灯りが少し増えたようだ。色々と変わっていくもんだな、と感傷に浸ってしばし、ルミナスに宿に戻ることを告げた。

「結局、剣は見つからなかったですね……。また明日、教会に行く前に他のお店にも寄ってみましょうよ!」

「そうだな。まあ、なんとかなるさ」

 そう言って(きびす)を返すと、橋の向こうに誰かが立ってこっちを見ている。不審に思いつつも、なんとなくその姿に見覚えがある気がする。ルミナスもその影に気が付いたのだろう。一瞬怪しむ表情をしたが、すぐにぱあっと顔が明るくなりそちらの方に駆け寄っていく。

「お、おい――」

「大丈夫ですよ! ……こんばんは! いつもここにいるんですか?」

 憶することなく彼女が声を掛けた。どうやら知り合いらしい。この街に来てからヘインズのいない間にできた顔見知りと言えば、今朝の脱走の際に出会った者しかいないだろう。ヘインズも彼女の後を追ってその人物に近づいた。彼女が親しげにどこか見覚えのある老婆と話をしている。

「おやおや、アルカディアのお嬢さん。今回はゆっくり観光かい?」

「うーん、そうでもないんですけど……。そういえば今朝は聞きそびれちゃったんですけど、お婆さんはどうして私がアルカディアから来たって分かったんです?」

 老婆はその質問には答えず、ゆっくりと歩いてくる騎士を見ている。ルミナスがつられて彼を見ると、何やら安心したような、懐かしそうな表情をしている。彼に向けて老婆が再会の挨拶を投げかける。

「久しぶりだねえ。随分とまあ、大きくなりおったもんだね」

「ええ、お久しぶりです。あなたは随分と……小さくなられた」

 久々に聞くヘインズの敬語に目を丸くしながらルミナスが会話に割って入る。

「え? え? 二人は、知り合いなんですか?」

 ふふっと笑ってヘインズが答える。

「知り合いも何も、俺がガキの頃この街にいたときに面倒を見てくれた人だ」

「あのときは大変だったねえ。一銭も持たずにこの橋で項垂(うなだ)れてるこの子を見たときは、まるで捨てられた子犬でも見つけたような気持ちだったよ」

 彼のことをこの子と呼ぶのがなんだか面白くてつい噴き出してしまった。ヘインズはそんなルミナスを気恥ずかしそうに頭を掻いて見る。ここで彼女がこの老婆と知り合うのも何か運命的な物を感じる。

「自己紹介が遅れたね。私ぁリザ=シュミット。生まれも育ちもエクレティオさ。よろしくね、アルカディアのお嬢さん」

「あ、ルミナス=アルカディアです。よろしくお願いします、シュミットさん」

 互いに挨拶を交わすと、リザが彼女をしげしげと見つめて続ける。

「さっきの質問の答えだけどね、お嬢さんのことは一目見てこの街の子じゃないって分かったんだよ。あんなに長いこと川を眺めるもんなんざ、この街にはそうそういないからねえ。村の子って感じでもないからアルカディアから来たんだろうってね」

「そうなんですね。それで私のことを……」

「こんなかわいらしい子が一人でアルカディアから来れるはずもないし、土地勘のある護衛が付いてると思ってね。まさかとは思ったがこの子が選ばれるとはねえ。それが神官様に仕える騎士になっちまって。あんな未熟だったのが立派になったもんだよ」

 リザは皺くちゃの顔を作ってけらけらと笑う。ルミナスもそれに乗っかろうと、

「その節はヘインズさんが大変お世話に――」

「やめてくれ! 恥ずかしくって顔から火が出ちまいそうだ」

 慌てて言葉を遮るヘインズの反応を見て、リザとルミナスがいっそう楽しそうに笑い合う。彼はバツが悪くなって、川の方に目を向けてしまった。こんな風に恥ずかしがるのも何年ぶりのことだろう。遠い記憶に思いを馳せようとしたところで武器を探していたことを思い出し、リザに向けて彼が願い出る。

「そうだ、リザさん。俺が昔置いて行った剣のことなんですが……」

「そんなことだろうと思ったよ。ちゃんと取ってあるから安心おし」

 剣? とルミナスはヘインズとリザの顔を交互に見る。

「ああ。世話になったはいいが、そんときは一文無しだったからな。売って金にでも換えてくれって剣を置いてったんだ」

「私ぁいいって言ったんだけどねえ。この子も頑固だからね、つい受け取っちまった。私の家に置いてあるからね、ついておいで」

 そう言って彼女は帰路に就く。ヘインズは昔よりも歩幅の小さくなった彼女に合わせて隣を歩き、昔話に花を咲かせた。

 せめて料理の手伝いでも、と願い出たが経験のない当時の彼は一から教わる羽目になったこと。リザの息子とのケンカが絶えずに二人してよく叱られたこと。毎朝早く家を抜け出しては川を眺めていたこと。ルミナスはそんな彼らの後ろを歩きながら、二人の話を笑いながら聞いていた。

 懐かしそうに話す二人の背を見ながら、今となっては彼女を叱る立場の彼にもそんな頃があったのか、とルミナスは不思議な気分になった。大人になって昔の話をするというのはどういう気持ちなんだろう。私にもいつかそんな日が来るんだろうか。遠い未来のことのように感じるが、それはきっととても素敵なことなんだろう、と子どものように笑いながらリザとの会話を楽しむヘインズを見てそう思えた。

 そんな話をしながらゆっくりと歩いていると目的地に着いた。赤いレンガ作りの、人の歴史と温かみを感じる家だ。リザは二人を招き入れると椅子に座らせて待たせた。ヘインズは家の中を見渡して、心底懐かしいといった顔をしている。ルミナスは何も言わずにその表情をにこにこと眺める。

「待たせたね。ちゃあんと手入れもしてあるよ」

 リザが部屋の奥から、鞘に収まった剣を手に戻ってきた。ヘインズは立ち上がり、それを受け取って鞘から剣を引き抜く。彼が好んで使いそうな幅広の剣だ。柄の部分にやや擦り傷が目立つが、しっかりと手入れされてきたのだろう、刀身には刃こぼれや錆びもなく、ランプの灯りに照らされて輝いている。特に業物とは言えないその剣を彼は愛でるように見つめ、また鞘へと戻した。

 振らずとも分かるのだ。何せ、彼の思い出の詰まった一振りだ。ふう、と溜息をついてヘインズが剣に向けて呟く。

「――随分と待たせちまったな。ただいま、相棒」

 数十年ぶりの邂逅だった。他の誰にも聞こえてなどいないが心なしか彼には、おかえり、という声が聞こえた気がした。

 しばらくリザと三人で話をした。彼女もどうやら教会でレナルドの話を聞いたらしく、戦争についてはまだ信じたくないようだ。もし戦争が始まってしまったらこの街も戦火に飲まれるのだろうか。誰しも想像することしかできずに不安を抱えていた。それでも出来ることをするだけだ、というルミナスの言葉にリザとヘインズは笑顔を返したのだった。

 先ほど確認したときから時計の針が二周しようとしていた。そろそろ宿に戻ろう、と二人は優しく迎え入れてくれた老婆に別れの挨拶を交わす。

「お邪魔しました!」

「もう少しゆっくりしてったらいいのに。本当にご飯食べてかなくていいのかい?」

「ええ、俺たちもそこまで迷惑をかけられませんから。また顔を出しますよ」

 リザの引き止める言葉を丁重に断り、二人は彼女の家を後にした。会えてよかった。久しぶりに会ったのに、騎士になったのにも関わらず、昔と変わらない態度で接してくれたことが彼にはとても嬉しく感じられた。

 空を見上げれば星が点々と輝いている。ランプの灯りのせいで街の外から見える空より黒の割合が多い。きっとただ見えないだけで、今は見えない星も変わらずに光を放っているのだろう。哀愁とも感動ともよくわからない感情で胸がいっぱいになる。そんな彼の気も知れず、さっきからルミナスはにこにことした笑顔で隣を歩いている。

 再会の余韻に浸る彼にルミナスが声をかけてきた。

「シュミットさん、とってもいい人でしたね」

「ああ、そうだよな」

「ヘインズさんの小さい頃の話って聞いたことがなかったからなんだか新鮮です」

「その話はもういいだろ……」

 照れくさそうにするヘインズにふふっと笑いかけて続ける。

「ヘインズさん、すごく懐かしそうな表情してました。……今は少し寂しそうな顔してます」

 かもな、と呟いてそれきり何も言わない。二人の靴音だけが小さく響く。ルミナスは彼の顔を見て、それから腰に下げた彼の思い出の剣に目を落とした。胸の奥がちくりと痛む。その胸の痛みの理由は彼女にも分からない。ぽつりと呟くように口から言葉がこぼれた。

「お母さん、かあ……」

 ヘインズはやるせなさそうな顔をしてルミナスを見た。

「……ごめんな。やっぱり寂しいか?」

「ううん、平気です。昔は寂しいこともいっぱいありましたけど、今はヘインズさんがいてくれるから。それに! お父さんだけでも口やかましく怒られるのに、お母さんまでいたらもっと怒られちゃいますし!」

 無理をして笑っているのが分かってしまった。彼女の頭をがしがしと乱暴に撫でると、ルミナスは髪型を気にして必死に抵抗している。その手を離すことなくヘインズが意地悪そうに笑って言う。

「怒られるようなことする方が悪いんだっての!」

 ルミナスは彼の手を振りほどくことを諦めて頬を膨らませ、ヘインズさんは短気なんですよ、と呟く。彼女は一歩一歩と踏み出す自分の足に目線を落としてさらに続ける。

「……さっきね、ヘインズさんの顔を見たときにちょっと思っちゃったんです。ああ、これからは私一人で旅をした方がいいんだろうな。ヘインズさんはこの街に残った方がいいんだろうな、って。でも――痛ぁっ!?」

 頭に乗ったままのヘインズの手が、説教だと言わんばかりに彼女の頭を締め付けている。ルミナスは痛い痛い、と喚いているがヘインズは何も言わない。顔を上に向けることもできず、その表情が分からない。恐らく怒りの形相か悪魔のような笑顔をしているに違いない。

 ようやく彼の手から逃れたルミナスは頭を両手で押さえてうずくまる。

「いったぁ……。何するんですか、この髭! でもって言いました! 話は最後まで聞いてください!」

「うるせえよ。少しでもそんなこと考えたお仕置きだ」

 見上げたヘインズの顔は怒っても笑ってもいなかった。寂しそうな、悲しそうな表情をして月を見つめている。本当にここでお別れするかのような切なそうな表情。ヘインズのその表情に嫌な気持ちにさせられてつい怒鳴ってしまった。

「私だって寂しいから!!」

 大声に驚いてルミナスの方を見た。睨むようにヘインズを一心に見上げている。涙こそ流してはいないが、今でもその丸い瞳に湛えた滴が零れ落ちそうだ。

「……私だって寂しいから、ヘインズさんに傍にいて欲しいんです。だからヘインズさんが寂しいなら私が傍にいます。だから、だから……」

「おい、泣くんじゃねえよ。あー……その、だな。悪かったよ。ごめんな? 不安にさせちまったよな」

「泣いてない! 不安だったよ! 一人になっちゃうんだって思ったら寂しくて悲しくて怖かった!」

 いつもの敬語を忘れてルミナスは感情を爆発させる。ヘインズはしどろもどろになりながら、なんとか彼女を泣き止ませようとするが溢れた涙は止まりそうにもない。彼女の声を聞いて、近くの家の窓が開いたのが見えた。

「わかった! 頼むから泣き止んでくれ! 不安にさせたのは悪かったが、お前も勘違いしてるぞ! 俺はお前を置いてここに残るつもりなんて端からねえんだよ!」

 ヘインズの嘆願の言葉を聞いて、へ? と呆けた顔をしてようやく喚くのをやめた彼女に、安堵の息を漏らして言う。

「そりゃあ、久々に会えたのにまたしばらく会えねえってのを寂しくは思ったよ。だが俺が考えてたのは戦争のことだ。もし戦争が始まったら、リザさんやこの街のやつらも少なからず苦しむことになっちまうんだろうなって考えてたらだな……」

 話すうちに逸らした目でちらっとルミナスを見ると、口をぱくぱくさせて顔を赤くしている。これはやばい、と思って歩みを止めた足を再び動かし始めた。気持ち速足になっている。

「わ、わわわ、私が、どれだけ……!」

 恥ずかしさや怒りで思うように言葉が出せない彼女を振り向き、にこっと歯を見せて親指を突き出す。

「娘からの愛の告白、嬉しかったぜ!」

 彼女はぷるぷると震えて、俯いたままヘインズの方に歩いてくる。段々とその歩幅が大きくなっていく。右手に持った杖を両手に持ち替えたところでヘインズは、はっはっは、と笑いながら宿へと走り出し、ルミナスはその背中に罵声を浴びせながら追いかけた。

 数年ぶりの親子の全力の鬼ごっこの末に、ようやく宿へと辿り着いた。二人を息を切らして宿の前で笑い合った。ヘインズは先ほど受けた辱しめはもう忘れたかのようなルミナスの笑顔を見て、

「俺がお前を一人にするはずないだろ?」

「……頼りにしてます!」

 部屋に戻り、ルミナスが浴室へ向かったことを確認すると、ヘインズも身に着けた鎧を脱いだ。麻の衣に着替えてリザから受け取った剣を手に取る。この剣でルミナスを、ノクトゥーアの人々を守ってやる。騎士とは名ばかりでただの護衛の旅だと思っていたが、今は紛れもなく騎士としての旅になってしまったのを自覚できた。

 剣を抜き、試しに振ってみると手に馴染む感覚が確かにある。先ほどのノエルとの戦闘はぎりぎりの勝負だった。むしろ、あの黒い剣か暴走したルミナスの力かは分からないが、そのおかげで勝てたようなものだ。

 魔物や野獣ばかり相手をして、久々の対人戦だったというのもあるが、まだ力が足りない。本格的に戦争が始まるまでに力を付けなくてはならない。やはり、今後の旅でもルミナスと訓練するしかないだろう。引き抜いた剣を鞘へと戻し、ベッドで横になる。

 ――考えることが山ほどある。ルミナスと黒い剣のこと、戦争のこと、これからの旅のこと……。そうだ、今後の旅の為の食糧調達をしなくてはならない。ああ、でもレナルドさんたちとの戦闘訓練が終わってからでいいか。そういや、馬車がどうとか神様が言ってたな。

 考えているうちに次第に瞼が重くなり、いつの間にか眠ってしまった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「やあ、こんばんは。どうやら武器は手に入ったようだね。そうか、また剣にしたんだ」

 翌日、お腹を空かせたルミナスに叩き起こされて軽く風呂に入り、食事を取った。ヘインズは、レナルドとノエルとの決闘に向けて彼女にいくつか話をした。

 ルミナスは攻撃に使えるような魔法を知らない。今までそのような局面に出くわしたことがないというのもあって、ヘインズが特に教える必要もなかったのだ。使えるのは日常生活に不自由しない程度の魔法と、万が一のことを思って彼に教わった防御の魔法のみだ。今から攻撃の魔法を急ぎ覚え込ませても、大した効果は期待できない。

 そこで攻撃役をヘインズが担い、ルミナスは防御に専念する。作戦とも呼べない作戦を彼女に伝えて、二人は教会に待つ神官と騎士の元へと足を運んだのだった。

「ああ、運よく丁度いいのが手に入ってな。さて、早速始めるか?」

「そうですね。では、配置に付きましょう」

「よ、よろしくお願いします!」

 ルミナスの挨拶を皮切りに、二組は離れて向かい合う。昨日の殴られたノエルの頭の痛みはすっかり癒えた様子だ。恐らくレナルドが治癒の魔法で手当てをしてやったのだろう。ルミナスは杖を両手に構え、覚悟を決めたように強い眼差しを戦いの相手に向けている。それでもやはり少し不安の色を隠せてはいなかった。

「大丈夫だ」

 前に立ったヘインズが背中越しに語り掛ける。

「……はい!」

 レナルドが空に光の弾を放つことが開戦の合図となる。今、彼が空に右手をかざす。左手は胸に当て、祈りの言葉を唱えている様子がうかがえる。左手を下ろしたと思った瞬間、夜空にもう一つ月が現れたかのような光の弾が発射された。

 ルミナスにとっての初めての戦闘が始まった。

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