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ⅡーⅣ 《揺れる感情は流れる川のように》
「戦争……この国が……」
ルミナスはレナルドの言を受け入れられずにいた。隣に座るヘインズを見ても、彼女と同じく冷や汗を流して動揺を隠せずにいる。ノクトゥーアが戦争をしようとしている。いったい何処と? 決まっている。
「言わずともわかるだろうけど、もちろん昼の国との戦争だ。僕だって驚いたよ。当然理由も聞いた。どうやらノクトゥール様は神話を更新するつもりでおられるらしい。それが真意かどうかはわからないけどね」
そう言ってレナルドは一息つく。
「信じたくはなかったが、信じるしかない。何せ神様の言葉だからね。理由はどうであれ、神官として神の命に背くわけにはいかないだろう?」
「戦争が始まるってのは――」
口の中が乾いてしまっているのか、掠れた声でヘインズが言う。
「戦争が始まるってのはまだ受け入られねえ……。それで、それとこの街のやつらが怯えてるのに何の関係があるんだ?」
それは、と口を開いたレナルドを制し、ノエルが問いに答えた。
「……戦争の為の蓄えを街の人々から集めているのです。私も神官様も、本当ならこんなことをしたくはないんです。……私だって、神官様だってこの街を! 人々を愛しているのです! あなた方も見たでしょう、神官様の街の人々へ向ける笑顔を! 少しでも怯えさせまいと必死で仮面を――」
――ノエル。
話すうちに徐々に気持ちが昂った彼の名を、レナルドは優しく呼んだ。そういえば、彼と出会ってから今に至るまでずっと張り付いたような笑顔しか見ていない。ルミナスはこの店に来るまでに、彼が笑顔で街の特徴やいいところを説明してくれたことを思い出す。あのときばかりは、少し寂しそうな影があった気がした。あの笑顔は、本物のはずだ。この人は街の人を進んで傷つけるような人ではない、そう思った。
「いいんだ、ノエル。どれだけ取り繕ったとしても、僕が街の人たちを苦しめたり、怯えさせているのは変わらないんだ。それに徴収に行くのはいつも君だ。辛い役回りをさせて、本当にごめんね」
その言葉を聞き、ノエルは目頭を指で押さえる。小刻みに少し震えたと思うと、ふーふーと息を吐いてルミナスとヘインズに向き直る。少し目が赤い。彼女はこんなときにかける言葉が見つからない自分を、少し情けなく思った。
「申し訳ありません、取り乱してしまいました。話の続きですが、街の人々から資金や食糧を取り立てているのは私です。騎士の私がそのようなことをすれば、神官様に否定的な目が集まるのは当然でしょう。同じ装束のあなた方にもご迷惑をおかけしたことは、謝罪します」
「頭を上げてください。私たちは別に……」
とは言ったものの、ルミナスは次に何を言うべきか迷っていた。ぐちゃぐちゃになった頭を無理やり回転させて、ようやく絞るように言った。
「お二人の辛い気持ちや街の事情、これから起きるという戦争のことも、わかりました。きっと、仕方のないこと、なんだと……思います……。ただ……」
言葉に詰まってヘインズに目を向けた。自信なさげに目を伏せ、徐々に声が小さくなる彼女をヘインズは叱咤する。
「ちゃんと声を出せよ、ルミナス。お前は自分が間違ったことを言おうとしてるとは思っちゃいねえんだろ? だったらちゃんと相手の目を見て声を出せ。そこのノエルさんはそうしたぜ」
うん、と頷いてレナルドとノエルの赤い目を交互に見る。
「ただ、もっとやり方があったと思います。街の方々に事情をお話しましたか? もしも、無理やりに近い形で強行されたのなら、私は間違ってると思います」
はあ、と溜息をついて気持ちを落ち着かせると、自分がいつの間にか立ち上がっていたことに気が付く。ヘインズはそんな彼女の肩をぽん、と叩きよく言ったというような表情をしている。その顔に安心して、彼女は席について目の前の二人の言葉を待つ。
しん、と静かな時間が流れた。レナルドは頬杖をついて目を閉じて何かを考えている様子だ。ノエルも腕組みをして目を閉じ、眉間に皺をよせている。ヘインズもそんな彼らの考えが纏まるまでまっているようだ。ルミナスが静寂に耐えきれなくなってきたとき、
――ふふっ。
頬杖をついた彼の口から笑みが漏れた。ルミナスは、ヘインズが何がおかしいんだ、と怒って立ち上がりはしないかと心配そうに見たが、どうやらその様子はなさそうだ。愉快そうに笑みの主が口を開く。
「いや、全くもってその通りだよ。反論の余地もない。ノエル、僕たちは少し焦りすぎたのかもしれないね。街の人たちには、ちゃんと謝りに行こう。もちろん僕も行くよ。アルカディアの言ったように、ちゃんと事情を説明するんだ。いいね?」
「ええ、私も反省しなくてはなりませんね。私としたことが、戦争という単語を聞いただけで、ここまで焦って大事なことを見落とすなどとは……」
「ありがとう、アルカディア、ゴーガン。君たちとちゃんと話ができてよかったよ。それにしても君たちは……」
いい親子だよ、という言葉をすっかり冷めてしまったコーヒーと共に飲み込んだ。
レナルドとノエルは怯えた店員たちに謝罪と全ての事情を説明した。彼らは初めのうちはとても信じられない、といった様子で二人を警戒していたが、あまりにも真剣な表情で話す二人をやがて信じてくれるようになった。
そして二人は店員たちに、この話を広めて明日、教会に人を集めてほしい、と頼んだ。彼らはそれを了承し、すぐに店の片づけを始めた。
店を出た四人は、迷惑をかけたアルカディアの客人の誤解を解こうと言うレナルドとノエルの言葉に従い、二人の宿泊する宿を目指し歩く。
「ふう。謝るって結構勇気のいることだね」
「そうですよ。悪いことをしたと思ったら、ちゃんとごめんなさい、です!」
店を出て、苦笑するレナルドにルミナスはむふん、と家訓を誇らしげに語る。お前が偉そうにしてどうするんだよ、とヘインズは呆れた顔を見せた。そんなヘインズにノエルは先ほど降って湧いた疑問を投げかける。
「ヘインズさん。失礼ですが、先ほど神官様方にその、タメ口を……?」
「おっと、エクレティオの神官様にもタメ口利いまったか? つい癖でな。すまん、これから気をつける。それと、うちの神官はなんつうか、娘みたいなもんでな。赤ん坊の頃から面倒見てんだ。それでなんというか……」
しどろもどろになっているヘインズに助け船を出すようにルミナスが会話に割って入ってきた。
「私が神官になったときは敬語を使ってたんですけどね。私が嫌だー! ってわがまま言ってようやく普通に話してくれるようになったんです」
つられてレナルドも会話に参加する。
「僕は知ってたけどね。ノクトゥール様が教えてくださったから。君がゴーガンになぜか敬語で話していることも、もちろん把握済みさ」
「普通、逆では……」
ガクっと肩を落としてノエルは呟いた。
「そうだ、ゴーガン。僕にも普通に接してくれて構わないよ。なんだか、君に敬語を使われるのはムズムズする」
ムズムズとはなんだ、と大声で怒鳴り散らすヘインズを見て三人は笑った。宿への道中でまだ事情を知らない人々からは相変わらず避けられたが、それもきっと明日で終わりだ、とルミナスは少し気持ちが明るくなった。
会話を楽しみながら歩いていると、いつの間にかルミナスとヘインズの泊まる宿に着いていた。店主は厄介者が四人に増えたのを見るなり、更に怯えた顔を表に出したが、レナルドとノエルが先ほどと同じように彼に謝意を表すと、少しずつ緊張した表情に綻びが見えていくのが分かった。
宿代を払う、と申し出たノエルをヘインズが止め、自分の懐から代金を支払った。これから訪れる大事な時のためにそれは貯えておけ、という彼の言に申し訳なさそうな表情を浮かべるノエルに、ルミナスは笑顔で大丈夫ですよ、と声をかけた。そんなやり取りを見ていて店主は安堵した様子だった。
「では、私たちはそろそろ失礼します」
ノエルがルミナスとヘインズに別れの言葉をかける。
「今日は本当にありがとう、アルカディア。まさか年下の女の子に大切なことを思い出させられるなんてね。おっと今のは失言だ。それと、もしよかったら、君たちも明日、教会に来てほしい」
「失言なんて、本当のことですから。もちろん行きます! 明日、頑張ってくださいね!」
ああ、と笑って彼らは宿を後にした。
部屋に戻るなり、ルミナスはベッドに倒れこむ。ヘインズが鎧を脱ぐ衣擦れの音が聞こえてくる。今日は疲れた。難しい話をした。初めて会った人に説教した。頭がごちゃごちゃした。かと思えばすっきりした。感情の変化が多い一日だった。ベッドに突っ伏したまま、彼女はヘインズに話しかけるでもなく言う。
「エクレティオの神官さんたち、いい人でよかったです」
「そうだな」
ヘインズが相槌を返す。
「街の人たちも、よかったです」
「ああ」
そう言ったきり、彼女は何も言わなくなった。そのうちスース―と寝息が聞こえてきた。ヘインズは眠った彼女を抱き起こし、毛布をかけて仰向けに寝かせる。頭を撫でて、囁くように呟く。
「本当によかったな」
眠ったまま、彼女が笑顔を浮かべたような気がした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
四時。ルミナスは目を覚ますと、毛布がかけられていることに気が付く。いつの間にか眠ってしまった彼女へのヘインズの気遣いだ。そんな彼は並んだベッドでいびき混じりの寝息を立てている。
まだ起きるには早すぎたようだが、二度寝をするには少し目が冴えすぎてしまったようだ。彼を起こさないようにそっとベッドから立ち、大きく伸びをする。
「ローブのまま寝ちゃったんだ。皺にならなきゃいいけど」
小さく呟いて、月の見えない窓を見やる。ここから見える光は道路を照らすランプの灯りのみ。街も静かに眠ったままのようだ。何をしようかな。とりあえずお風呂にでも入りながら考えようかな。そう思い立って、部屋を出て浴場へ歩いた。
ぽちゃん、と滴の跳ねる音しか聞こえない湯舟に浸かりながら、今までの旅のことや昨日の話、これからのことを考えてみる。
「そういえばマッサージするんだ、って決めてたのにいつの間にか痛み取れちゃってたなあ」
細い足を撫でながら独り言を口に出すと、声が反響する。そんなに大きな声を出したつもりはなくとも、静けさも相まってより大きく聞こえるような気がする。
「戦争、かあ……」
――未だに実感が湧かない。ノクトゥール様はいったい何を考えているのだろう。他の教会の神官たちは、もう皆知っているのだろうか。このエクレティオのように街の人たちを傷つけたりしていないだろうか。私も戦争に行かなきゃいけないんだろうなあ。準備って言ってたけど、開戦はいつになるんだろう。そんな不確かな情報しかないのに今日、この街の皆は信じてくれるのかな。
一人で考えても答えの出ない疑問がぐるぐると回る。なんとなくこの街に着いてからすごく頭を使っているような気がした。大きく息を吸い込み、勢いよく湯の中に潜る。ドクン、ドクン、と鼓動の音がする。手で水を掻けば泡と水流の音が聞こえる。息が続かなくなって顔を水面に出すと、なぜだか粗い息と共に笑みがこぼれた。
「のぼせちゃったかな」
呼吸を整えて、彼女は浴室を出た。
白い麻のワンピースに身を包んだルミナスが、まだ水気のある銀色の髪をタオルで拭きながら、静かに部屋の扉を開くとヘインズはまだ眠っていた。時計を見るとまだ五時少し手前。街もまだ目を覚ましてはいない様子だ。
「今ならこのまま外に出てもきっと平気だよね。昨日は少し心配だったけど、そもそも、ここはアルカディアじゃないんだからローブじゃなくてもいいはず。うん」
そう根拠のない自信を小さく口にして、こっそりと部屋を出る。なんだかアルカディアの教会を抜け出していた頃を思い出して、ワクワクする。昨日は落ち着いて街を楽しむことができなかった。今は何もかも忘れて、一人で歩きたい気分だ。
宿を出ると、まだ潤いの残った肌に少し冷たい夜風が当たる。気持ちがいい。
「でも、このままだと風邪ひいちゃうかも」
彼女は魔法で取り出した肩掛けを羽織ると、どこへ行くでもなく歩き出す。空を見上げても月は見つけられない。頼る灯りは、こっちだよ、と案内するように点在するランプのみ。人のいない街は不思議な気分だ。少し悪いことをしている気持ちになって、ルミナスはくすくすと子どものように小さく笑う。
赤や白のレンガの街。少なからず木造りの建物もあるようだ。そういえば昨日、このお店の葡萄酒がどうのとレナルドが言っていた気がする。あの時はいっぱいいっぱいで耳に入らなかった。
街並みを楽しみながら少し歩くと、石造りの橋に差し掛かった。いっそう冷やっとした風が吹いて、思わず肩を抱いて身を竦める。風の吹いた方を見ると、そこには幻想的な風景が広がっていた。
「なんて、綺麗……」
それはエクレティオの街を二つに割るような、大きな川だった。川に沿うようにランプが一定の間隔で並んでいる。水面はその光を受けてキラキラと宝石のように輝いている。川の向こうにようやく三日月を見つけた。流れる鏡は、その細い光さえもゆらゆらと映し、まるでもう一つの夜空を地上に作り出したかのようだ。
その光景に目を釘付けにされたルミナスは、寒さも時間も忘れて身動きが取れずにいた。どれくらいの時間が経ったことだろう。湿っていたルミナスの長い髪が乾ききった頃、橋に人の姿がぽつぽつと現れても一心にその光景を見つめる彼女に、一人の老婆が声をかけてきた。
「綺麗だろう、お嬢さん?」
声をかけられて、ようやく川から目を離したルミナスは、ええ、とだけ相槌を打つ。そんな彼女に微笑んで老婆は続ける。
「この川はねえ、私の、この街のみんなが大事にしている宝箱なんだよ」
「宝箱……。本当に、きらきらで、綺麗で……宝箱みたいな景色です」
ふふっ、と笑って老婆は、
「目に見えるものだけじゃないんだよ。この川は私が生まれる前、私の母が生まれるそのずうっと前から街を見守ってくれてるんだ。ここから見える景色を守るためなら、私たちはなんだってできる。それは街のみんなそうだって私ぁ思っとるよ」
「あなたは……?」
「ほら、お迎えかね。血相変えて走っとるわい。それじゃあ元気でね。――アルカディアのお嬢さん」
立ち去ろうとした老婆を呼び止めようとしたルミナスの耳に怒号が飛び込んでくる。
「こんの、バカ娘がぁ!! こんな時間からふらふらするやつがあるか! それにお前――」
ルミナスはその先の言葉を制するように人差し指を唇に当てて、いたずらっぽい笑顔を作る。
「ローブじゃなくても平気みたいです。それにしても、また見つかっちゃいましたね!」
「当たり前だ! どこ行ったってすぐ見つけてやるからな!」
「すぐじゃなかったじゃないですかぁ。ほら、もう六時。結構経っちゃってますよ?」
くすくす笑いながらそう言うルミナスを見ると、ヘインズは手のひらで目を覆って大きな溜息をついた。笑いながら辺りを見回しても、その老婆の姿はもう橋の上には見つけられなかった。
宿までの帰りの道。相変わらずのぐちぐちとしたヘインズの説教を、ルミナスはいつもの調子でひらりと躱す。空腹に気が付いたルミナスは、まだ喋っている彼の言葉に被せて言う。
「そんなことより、お腹が空きました! この時間じゃまだお店開いてないかなあ」
「そんなことって、おま――。まあいい……。そうだな、パン屋ならもうやってるんじゃねえか?」
「では、パン屋さんに向けて、よーい、ドン! です!」
そう言って急に走り出したルミナスの背に呆れつつも、遅れまいと彼も続いて追いかける。少し走れば息が荒れる前に、つい昨日コーヒーを飲んだ店を見つけた。店の窓から光が漏れている。やってるみたいです、とヘインズを振り返ると、そこには鬼のような形相をした彼。
「おっとぉ……」
「おっとじゃねえっつうの、このバカ野郎が!」
「だって! お腹空いてたんですもん! 一刻を争う事態です! そんなのも分からないんですか!?」
――逆ギレかよ。
またしても大きな溜息を一つ。
「ほんとに俺の幸せを吐き出しきっちまいそうだ」
「その分私が吸い込んであげますよ。さ、入りましょ?」
調子よく答えてルミナスは店のからんからん、と軽快な音を鳴らす鈴のついた扉を開く。
「あら、いらっしゃいませ。アルカディアの神官様方」
「こんばんは!」
店の主は先日とは打って変わって温かく迎え入れてくれた。昨日は不満そうな顔をしていた店員たちも今は笑顔を見せている。その中の一人が、カウンター席についた二人のもとに注文を取りにきた。
「今日は何をお召しに?」
「そうですね……。とにかくお腹が空いちゃってて。この街のこともあまり詳しくないし、お任せっていうのは……」
「おいおい、さすがにそいつは困らせちまうだろ」
正論を言ったヘインズに店員は、
「いいんですよ。では、こちらでご用意いたしますね。お飲み物は?」
悪いな、と冒頭に置いてコーヒーを二人分注文した。昨日は味わって飲めなかったコーヒーだ。ルミナスは一口啜る。美味しい。確かに美味しいのだが、やはり苦い。そういえばレナルドは角砂糖を入れていたっけ。そんなことを思い出して、試しに一つ落としてまた口を付ける。
「美味しい!」
つい大きな声が出てしまい、隣に座るヘインズはビクっとした様子だった。美味いのはわかるが大きい声を出すな、とヘインズに注意されてルミナスはぺろっと舌を出して笑う。店員はそんな二人の様子を微笑ましそうに見ながら料理を運んできた。
「こいつも美味そうだな」
皿に乗っていたのは、ハムと溶けたチーズを挟み、シチューのような香りのするソースが上からかけられているパン。そして、ほかほかとした湯気を放つ三日月のようなオムレツだ。
――食べるまでもなくわかる。これは美味しい。
「「いただきます」」
声を合わせて、まずはナイフでパンを切り、一口。ふわふわのパンにカリカリのハム。濃厚なソースの味を全く邪魔しないチーズのアクセントが口いっぱいに広がる。飲み込んでコーヒーを口に含み喉に流すと、なんともいえない深い後味。まるで料理とコーヒーが互いを引き立てているようだ。
オムレツにも手をつける。ソースはパンに使われているものと同じものだ。先ほどのパンの歯ごたえとは違う、ふわふわした食感に玉子とソースの相性が抜群だった。
「旅の道中じゃこんなに美味いもんは食べられないな」
ルミナスに話しかけたつもりだったが、彼女はひたすらに目の前の料理に集中しているようだ。仕方なく、ヘインズは店員と他愛もない会話を挟みつつ料理を楽しんだ。食事を終え、代金を支払う際に彼は店員に向けて、
「あの神官様がこの店のコーヒーを褒めてた理由が心からわかった気がするよ」
挨拶を交わして店を後にした。ルミナスは出された料理を平らげて、ご馳走様でした、と言ってからというもの、ずっとにへら顔を浮かべて無言だった。彼女なりに料理の余韻を楽しんでいるのだろう。
二人は言葉を交わすでもなく宿へと歩く。もう数時間後には、教会へ向かわなくてはならない。遠くの空には三日月が赤と白の壁に見え隠れしていた。
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