イチゴ品種 韓国に流出 損失5年で220億円 農水省試算
2017年06月20日
イチゴ品種が韓国に流出したことで、日本の輸出機会が奪われ、5年間で最大220億円の損失があったとの試算を農水省がまとめた。品種流出の影響が少なくないことが改めて浮き彫りになった格好で、同省は、海外での品種登録の必要性を訴えている。
農水省によると、韓国のイチゴ栽培面積の9割以上が日本の品種を基に開発した品種。栃木県の「とちおとめ」や農家が開発した「レッドパール」「章姫」などが無断持ち出しなどで韓国に流出し、韓国はそれらを交配させて「雪香(ソルヒャン)」「梅香(メヒャン)」「錦香(クムヒャン)」という品種を開発した。アジア各国への輸出も盛んで、日本を上回る。
農水省は、日本の品種が流出していなければ韓国の品種も開発されず輸出もできないと想定。日本が輸出できるはずのものが韓国産に置き換わったとして損失額を試算した。韓国の輸出額から推計して、日本の損失額は5年間で最大220億円だったとした。昨年1年間の日本産イチゴの輸出額は11億円のため、5年間に換算するとこの約4倍に当たる。
品種登録できていれば品種開発者が得られていたロイヤリティー(許諾料)は年間16億円だったと推計した。韓国には品種登録制度はあるが2012年までイチゴは保護対象になっておらず、流出前に日本側が品種登録できなかった。品種登録していれば、栽培の差し止めや農産物の廃棄を求めることができるが、登録していないため、こうした対抗策が取れない。
国際ルールでは、植物新品種は販売開始後4年までしか品種登録を申請できず、速やかな出願が重要になっている。だが、育成者が申請料や手続きに負担を感じていることが課題になっている。
進まぬ海外登録 課題
農水省によると、韓国のイチゴ栽培面積の9割以上が日本の品種を基に開発した品種。栃木県の「とちおとめ」や農家が開発した「レッドパール」「章姫」などが無断持ち出しなどで韓国に流出し、韓国はそれらを交配させて「雪香(ソルヒャン)」「梅香(メヒャン)」「錦香(クムヒャン)」という品種を開発した。アジア各国への輸出も盛んで、日本を上回る。
農水省は、日本の品種が流出していなければ韓国の品種も開発されず輸出もできないと想定。日本が輸出できるはずのものが韓国産に置き換わったとして損失額を試算した。韓国の輸出額から推計して、日本の損失額は5年間で最大220億円だったとした。昨年1年間の日本産イチゴの輸出額は11億円のため、5年間に換算するとこの約4倍に当たる。
品種登録できていれば品種開発者が得られていたロイヤリティー(許諾料)は年間16億円だったと推計した。韓国には品種登録制度はあるが2012年までイチゴは保護対象になっておらず、流出前に日本側が品種登録できなかった。品種登録していれば、栽培の差し止めや農産物の廃棄を求めることができるが、登録していないため、こうした対抗策が取れない。
国際ルールでは、植物新品種は販売開始後4年までしか品種登録を申請できず、速やかな出願が重要になっている。だが、育成者が申請料や手続きに負担を感じていることが課題になっている。
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滋賀県JAグリーン近江が3月から販売を始めたペットボトル茶。三重県境に近い鈴鹿山脈中腹の東近江市奥永源寺地区で生産する茶葉が原料だ。
1メートル近い積雪に耐えて越冬した茶葉を、木おけで蒸して乾燥した後、約6カ月熟成させて使う。程よい渋味とすっきりとした味わいが特徴だ。農薬は使わない。茶葉は自家消費が中心だった。農家の所得向上と知名度アップを目指し、地域おこし協力隊と市が開発に協力した。
1本(500ミリリットル)130円。今年度は7万2000本出荷する見込み。JA直売所「きてか~な」や道の駅「奥永源寺渓流の里」などで販売。問い合わせはJA特産課、(電)0748(33)8454。
2017年06月19日
今の日本に足りないもの三つ
今の日本に足りないもの三つ。ミッション(使命感)、パッション(情熱)、ハイテンション(上機嫌)。「大きな声で繰り返して」と、テレビでもおなじみの教育学者、斉藤孝さんは語り掛ける。2度、3度と反復すると頭にすっと入り、気分が明るくなる▼「あったものをなかったことにはできない」。前文科省事務次官の前川喜平さんは会見で、加計学園問題で「総理のご意向」と記した内部資料が存在すると断言した。その姿勢には使命感と情熱があふれ、上機嫌と言えずも高揚感があった。「怪文書」と官邸から揶揄された資料は結局あり、焦点は内容の真偽に移っている。前川さんは正しかった▼正しくなくても正当と訴える言説が力を持つ「ポスト真実」の時代。トランプ米大統領が都合の悪い事象に「フェイクニュース(うそ情報)」と連発し、真実の価値はより薄れた感がある。今こそ「3ション」を声に出し、自ら省みて姿勢を正したい▼きょうはNPO法人日本朗読文化協会が定めた「朗読の日」。『声に出して読みたい日本語』で斉藤さんが勧める名文の音読は難しくても、「3ション」なら可能▼みんなで実行して姿勢を正せば、日本はもっと良くなるだろう。ただ情熱的で上機嫌でも、「自己実現欲」というニセ使命感には要注意だ。
2017年06月19日
和子牛太り気味? 適正出荷呼び掛け 肥育産地
市場に出荷される黒毛和種の子牛が、大型化している。血統の影響で骨格が大きくなっているとの指摘はあるが、肥育農家は「太り気味の牛が出荷されている」と不満を漏らす。太った牛を肥育する前には、ダイエットで無駄な脂肪を落とす必要があり、時間とコストがかかる。肥育経営を圧迫することになり、子牛産地は適正出荷を呼び掛けている。
2017年06月20日
品目や特色 打ち込むだけ ネット上で販路開拓 農家・JA 実需と双方向 農水省が検索サイト
農水省は、農家やJAなどがインターネット上で、自らの条件に合った農産物の販売先を見つけられるサイトを立ち上げた。売りたい品目や量、農薬使用を抑えているといった経営の特色などの条件を打ち込めば、外食や中食、食品メーカーなど実需者、卸売業者の中から合致する事業者を絞り込める。産地の販路開拓を後押しし、農家の所得安定につなげる。
立ち上げたサイトは「アグリーチ」で、農産物流通の合理化を掲げた政府の「農業競争力強化プログラム」の一環。5月中旬から本格運用を始めた。実需者、卸側からも農家やJAの情報を検索できる双方向の仕組みのため、取引先へのアピールにも使える。
農家はまず、所在地や生産品目、出荷できる数量、農薬使用量を削減している、農業生産工程管理(GAP)認証を得ているといった経営の特色など、自らの情報を登録。JAや生産部会単位でも登録できる。一方、実需者も求める品目や数量、「外観より味にこだわる」といった仕入れで重視する点などを、卸も委託手数料率や出荷奨励金の水準、取扱品目などを登録する。
その上で販売先を探す場合、業種や所在地、品目などを入力すれば条件に合う実需者を検索できる。「小ロット希望」「従来よりも農薬使用量削減」といったキーワードを選び、さらに絞り込むことも可能。取り引きを希望する場合は業者に連絡を取ることもできる。
卸売業者については例えば、委託手数料や産地側が出荷量に応じて受け取れる奨励金で一定水準を打ち込めば、その水準以上の卸の一覧を表示できる。現状では、手数料は中央市場で営業する各卸の手数料率は横並び、奨励金も各卸は自治体が定める水準に準拠するなど固定的な状態で、今回のシステムで設定水準を「見える化」することで、競争を促す狙いだ。
「アグリーチ」は2016年度補正予算で開発し、公益財団法人の流通経済研究所が運営する。使用料は無料で、パソコンやスマートフォンなど携帯端末でも利用が可能。同研究所は初年は年間で農家、実需者とも各500件の登録を目指すという。
2017年06月18日
片岡 鶴太郎さん(俳優・画家) 「菜食主義」で調子良い 農家の方々に感謝の心を
僕は菜食なんです。農家の方が丹精込めて作る野菜が、大好きなんです。
テレビなどの仕事は時間的に不規則ですし、どうしてもスタジオやロケ先でお弁当をいただくという食事になってしまいます。せめて家で食べる分だけでも、いい野菜をとるようにしたいと思いました。ヨガをやっているものですから、身体のことをいろいろ学び、それが良いだろうと考えたんです。
もともと野菜好きでしたが、ここ2、3年はビーガン(完全な菜食主義者)ですよ。1年くらい前からは、自分で料理も始めました。おかげで体調はいいですよ。お通じが違います。今年の1月に、京都の農家の方の畑を訪ねました。取れたてのニンジン、ダイコン、ホウレンソウ、カブ・・・。そのおいしかったこと。甘味がありましたねえ。
江戸時代からやっている農家さんだそうで、「まったく無農薬というわけにはいかない。少しは農薬を使いますが、その代わりにおいしい野菜をきちっと作ります」とおっしゃっていました。その方の野菜がとてもおいしかったので、月に2回送っていただいています。
タンパク質は、豆でとっています。それとナッツやクルミ。
その中では、クルミが一番好きです。2年くらい前に仕事で秋田県の角館に行ったときに、若クルミのみそ漬けというのがありました。クルミって硬い殻があるでしょう。若クルミというからそんなに硬くないのかもしれないけど、殻ごと漬けるんです。3年も漬けるから殻も柔らかくなって、そのまま食べられる。向こうの保存食だったんでしょうけど、その味はもう素晴らしく、敬服しました。
僕はね、一日一食なんです。間食もしません。朝に一食食べて、それから製作したり仕事に行ったりします。夜は食べませんので、すきっ腹で寝ています。その方が体調がいいですものね。
朝、起きるのは1時です。午前1時(笑)。前の晩に何時に寝ても、起きるのは1時です。夕方に寝ることもあれば、仕事の関係で11時に寝ることもありますが、起きるのは必ず1時です。その後、4時間ほどヨガをやりますので、朝食は5時過ぎからですね。
先に、旬の果物を食べます。今ならポンカン、甘夏、バナナ1本。あとはマクワウリなどを食べて。その後に納豆を。
ご飯は、玄米の中にアワとかヒエとかをちょっと入れて炊いたものです。みそ汁は、みそを溶いただけのみそスープ。野菜はおかずでいただきますから、特に具がなくてもいいんです。
野菜は、今はソラマメがおいしいから、それとスナップエンドウを蒸篭(せいろ)で蒸したもの。タマネギを塩で炒めたもの。必ず作るのが、きんぴらゴボウとカボチャ煮。あとムカゴをみそで煮たのとか。だいたい7、8種類の野菜料理を食べます。
その後にデザートとして、ドライフルーツにクルミ。ナッツ類、アーモンドやカシューナッツを食べます。
この朝食を、2時間くらいかけていただきます。
日本の野菜は素晴らしい。ですから、農業に携わる方々の、毎日毎日手塩にかけて作物を育てる情熱に、敬服しております。皆さんのおかげで、今、私は健康でいられる。この命があるんです。大変な思いをして作ってくださっている農家の方々に、感謝を伝えたい。それでこの取材を受けさせていただきました。本当にありがとうございます。
(聞き手・写真 菊地武顕)
<プロフィル> かたおか つるたろう
1954年東京都生まれ。声帯模写で独り立ち後、バラエティー番組で人気を博す。俳優業にも力を入れ、89年「異人たちとの夏」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞。95年に初個展「とんぼのように」を開き画家としても活躍。7月2日まで上野の森美術館で片岡鶴太郎展『還暦紅~鶴が上野に還ってきた~』開催中。
2017年06月18日
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2017年06月20日
日本の農村は学びや 教育旅行 地方誘致に有望 海外も注目
海外の学生が日本を訪れ、国内の学生と交流したり、日本の文化を学んだりする教育旅行の受け入れ数が増えている。都市部の訪問と違い、日本らしい暮らしぶりを体験できる農村での滞在を望む声も多く、農村部では受け入れ体制の整備を進めている。2020年の東京五輪・パラリンピックも見越し、今後増加が見込まれる個人旅行客の誘致につなげる構想も描く。
体験 交流 主役は住民 京都府南丹市
かやぶき民家や棚田など、日本の原風景が色濃く残る京都府南丹市の美山町。京都市の中心部から車で約1時間半という立地だが、年間数百人の教育旅行生が訪れる。
都市農村交流に取り組む民間団体、京都丹波・食と森の交流協議会などが中心となり、海外の旅行会社へのPRや受け入れマニュアルの作成、地域住民への呼び掛けなどを行ってきた。食事のアレルギー対応の講習会や、受け入れ前の説明会など準備も整える。
学生らは、農作業や伝統文化などの体験と交流を通じて日本の暮らしを学ぶ。農家民宿を営む倉内裕さん(65)は「過疎化が進む地域に活気も生まれた」と実感する。
今後、海外からの個人旅行客の誘致にも取り組んでいく。16年には地域の事業者らが主体となり、観光戦略を練る観光庁の「日本版DMO候補法人」の登録を受けた南丹市美山観光まちづくり協会を設立。農村体験ツアーなどをパッケージで売り込む構想を練る。
同協会の高御堂厚事務局長は「地域住民の間で海外の人を受け入れる意識が生まれており、観光客の誘致にもプラスになる」と強調する。
名所がなくても・・・ 和歌山県印南町
和歌山県印南町では、農家を中心に約50戸で組織する農家民泊グループ「いなみかえるの宿」を核に、町教育旅行誘致協議会が事務局機能を担い、16年度までに900人以上を受け入れた。
観光地ではない同町だが、巨大なカエルの顔が特徴の橋や夕暮れ時の海辺の景色など、もともと地域にある資源を生かす。日本語を話せない学生との会話は、タブレット端末で翻訳機能のあるアプリを使うなどして対応する。教育旅行をきっかけに、家族を連れて再訪する学生もいるという。
ミカン1・5ヘクタール、梅50アールを栽培する農家で、いなみかえるの宿の庄田登紀美会長は「農業だけでは出会うことのできない人と出会える。受け入れを通じて、町全体のつながりも生まれた」と話す。
延べ6万7000人
文部科学省が6月に発表したデータによると、15年度は学校訪問を伴う教育旅行で延べ6万7604人の学生が訪日した。04年度に比べほぼ倍増しており、教育旅行先としての日本への関心の高まりがうかがえる。
訪日外国人(インバウンド)が急増する中、教育旅行では若いうちに訪日するため、リピーター獲得の戦略としても有望視される。農村部への注目度も高く、台湾で教育旅行を手掛ける三益旅行社の江美滿さんは「農家民泊を取り入れる学校は増えている」と話す。
農村部のインバウンド戦略に詳しい奈良教育大学の河本大地准教授は「いきなり大勢の旅行客を受け入れるのは難しいが、教育旅行はその素地になり得る」と指摘する。(斯波希)
<ことば> 教育旅行
国や地域によって異なるが、教師などの引率者と児童、生徒で構成される団体旅行として実施されることが多い。全員参加が前提ではなく希望者だけで実施されることが多く、修学旅行と区別される。農村部では体験や交流に主眼を置き、県などの条例により旅館業法の対象外となる農家民泊で受け入れる場合が多い。
2017年06月20日
直接支払い廃止 大規模経営 不安募る 18年度米政策見直しの焦点に
米の生産調整の見直しが2018年度に迫る中で、積み残し課題が焦点になってきた。最大の課題は、10アール当たり7500円の米の直接支払交付金が廃止されるのに伴う対策。大規模経営ほど影響は大きく、所得確保に向け不安の払拭(ふっしょく)が欠かせない。今夏に予定される2018年度予算の概算要求がヤマ場になると見られ、政府・与党での水田農業の議論が活発化しそうだ。
2017年06月19日
ジビエ 欧州は輸入国日本産に余地?
農水省は欧州の野生鳥獣の肉(ジビエ)輸入量の調査結果を初めてまとめた。ジビエの本場でも国内産だけでは需要を賄えず、フランスは流通量の7割、ドイツで4割を輸入が占めている実態が明らかになった。日本政府はジビエの利用を倍増させる目標を掲げ、販路開拓に力を入れており、将来的な欧州への輸出も視野に入れたいとする。
同省の調査によると、フランスは2015年の流通量が1万1400トンで、うち輸入は8000トン。原産国はニュージーランドやオーストラリア、東欧などさまざま。
ドイツはデータが1998年と古いが、年間の流通量は4万5000トンと大きい。輸入物は2万トンと4割を占めた。
日本政府は5月にまとめたジビエ普及の対応方針で、19年度までに利用量の倍増を目指す。国内の需要はまだ小さく、外食などでいかに掘り起こすかが課題。欧州に販路を築けば、国産ジビエの安定した売り先確保につながる期待もある。同省は「欧州はジビエの需要が大きく、国産を輸出できる可能性がある」と有望視する。
2017年06月19日
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農水省は、農家やJAなどがインターネット上で、自らの条件に合った農産物の販売先を見つけられるサイトを立ち上げた。売りたい品目や量、農薬使用を抑えているといった経営の特色などの条件を打ち込めば、外食や中食、食品メーカーなど実需者、卸売業者の中から合致する事業者を絞り込める。産地の販路開拓を後押しし、農家の所得安定につなげる。
立ち上げたサイトは「アグリーチ」で、農産物流通の合理化を掲げた政府の「農業競争力強化プログラム」の一環。5月中旬から本格運用を始めた。実需者、卸側からも農家やJAの情報を検索できる双方向の仕組みのため、取引先へのアピールにも使える。
農家はまず、所在地や生産品目、出荷できる数量、農薬使用量を削減している、農業生産工程管理(GAP)認証を得ているといった経営の特色など、自らの情報を登録。JAや生産部会単位でも登録できる。一方、実需者も求める品目や数量、「外観より味にこだわる」といった仕入れで重視する点などを、卸も委託手数料率や出荷奨励金の水準、取扱品目などを登録する。
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卸売業者については例えば、委託手数料や産地側が出荷量に応じて受け取れる奨励金で一定水準を打ち込めば、その水準以上の卸の一覧を表示できる。現状では、手数料は中央市場で営業する各卸の手数料率は横並び、奨励金も各卸は自治体が定める水準に準拠するなど固定的な状態で、今回のシステムで設定水準を「見える化」することで、競争を促す狙いだ。
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2017年06月18日
日欧EPA TPP水準でも打撃 政府、影響試算示さず
日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉で、政府・与党内から、農業分野で環太平洋連携協定(TPP)水準を容認する声が相次いでいる。だが、豚肉やチーズなどの重要品目は、TPPと同水準でも国内農業への打撃が懸念される。政府は、日EUのEPAで影響試算を示しておらず、TPP合意に日EUが上乗せされることによる“二重の影響”にも検討が不可欠だ。拙速議論を避け、慎重な対応が必要になっている。
農業分野の最大の焦点はチーズ関税の扱いだ。政府は特に、日本人が好むカマンベールなどソフト系を保護したい考えだが、EUは市場開放へ攻勢を強めている。
欧州産チーズは、TPP参加国のオーストラリアやニュージーランド産と生産量や消費のされ方が異なる。TPPと同水準で譲歩すれば、影響が大きくなる場合がある。
例えば、TPPで関税を下げるブルーチーズは、日本で流通するほとんどが欧州産。ハード系も、欧州産には人気の高いイタリア産「パルミジャーノ・レッジャーノ」など種類が多い。こうした、さまざまな欧州産チーズが安く流入する可能性がある。
豚肉でも不安を指摘する声がある。TPPでは差額関税制度を維持した上で、低価格帯の関税を引き下げた。政府は、高価格帯の肉と安い肉を組み合わせ関税を最小化する「コンビネーション」輸入が続き、安い豚肉の流入は防げると見る。
だが、日本が輸入する欧州産豚肉の特徴は価格の低さだ。ハムやベーコンなど加工に使われている。TPPと同水準まで関税を引き下げれば、安い部位が50円の関税を払い大量に流入し、国産に影響を与える可能性がある。
2017年06月17日
産業動物→ペット、地方→都会 「加計問題」で“本質”見えず― 獣医師「偏在」 是正こそ
学校法人「加計学園」による獣医学部の新設を巡る問題。“総理のご意向”など手続き論への批判や報道が集中し、政府は幕引きを図ろうとしているが、産業動物獣医師の偏在という課題をどう解決するのか、本質の議論がなされずじまいだ。高病原性鳥インフルエンザの発生など家畜防疫の重要度が増す中、大学開設だけで解決できるのかは不透明で、処遇の改善、産業動物獣医師の果たす役割への社会的な認知度向上など、幅広い対策が求められる。
食の安全に貢献 大学開設より社会的認知を
同学園と愛媛県今治市は2007年以降、15回にわたり同市での獣医学部新設を求めてきたが、文部科学省に却下されてきた。だが同市が国家戦略特区の指定を受けると、16年に安倍晋三首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議が52年ぶりの獣医学部新設を認可。17年1月、同市で獣医学部を設置する事業者として同学園が選定された。
同学園の学部開設は「獣医学部がない四国地方に新設する」ことを掲げ、特区として認可を得た格好だ。同学園は、家畜の感染症への初動対応や学術的な拠点としての役割を強調する。
同学園が開設を目指す岡山理科大獣医学部は定員160人。全国16の獣医系学部と学科を合わせた定員数930人の2割に当たり、開設されれば全国最大となる。獣医師不足に悩む高知県の獣医師は「家畜疾病への対応力強化につながるならば、四国に獣医学部がないので開設はありがたい」と歓迎する。
四国だけでなく、東海や九州地方では獣医師不足はさらに深刻という指摘もある。
防疫に支障も
農水省によると、全国の獣医師数は14年に3万9000人。同省は「全体として不足しているのではなく、地域や職域に偏在がある」と分析する。犬や猫など小動物診療に当たる獣医師が4割と最も多く、牛や豚など産業動物の診療に従事する公務員や団体などの獣医師は約2割にとどまる。特に地方の自治体で確保が進まず、鳥インフルエンザや口蹄(こうてい)疫といった重大な疾病が発生すれば、防疫対策に支障が生じかねない状況にある自治体もある。
ただ、地方に獣医学系大学を開設すればこうした課題を解決できるかというと、単純ではない。14年8月に開かれた国家戦略特区ワーキンググループの議事録にも「地方に獣医学部があっても、必ずしも地方に獣医師が増えるわけでない」との意見が残る。
議事録によると、文科省は獣医学部のある全国の16大学を都市型(札幌、東京、名古屋、大阪近郊)と地方型に分け、入学率と就職率を分析。地方では、所在地以外の地域から入学し、他地域に就職する傾向が見られたとして「地方の場合は卒業生がその地域に定着するかというと、必ずしも高くない」と指摘している。
特区でなく・・・
日本獣医師会は一貫して、特区による獣医学部新設は「なじまない」との考えを示してきた。大学の立地や学生の増加が必ずしも獣医師の偏在解消につながらず、需給対策は国全体の施策として対応すべきとの考えだ。
獣医師会は「現場で家畜の臨床を教える専任教員の確保が最大の課題」と現状を指摘。学部新設に“総理の意向”が働いたとの疑惑について、同会の北村直人顧問は「政治判断で決めたこと。論じる立場になく、行く末を注視したい」と静観する。(福井達之)
待遇改善が不可欠
獣医師教育の改善などに取り組んできた食の安全・安心財団の唐木英明理事長の話
獣医師といえば多くの人がペット診療を思い浮かべる。畜産業すなわち食を守るという、重要な職業であることを認識しない獣医学生もいる。大学教育を通じ、社会的な意義や職業としての面白さを学生に伝えることが重要だ。志を持った学生を地方でつなぎとめるには、給与や勤務形態などの待遇改善も不可欠だ。
2017年06月16日
農業再生産確保を 情報不足に苦言 日欧EPA 自民
自民党は15日、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉を巡り、農業団体の意見を聴取した。JA全中の奥野長衛会長は、農業の国際競争力の強化に取り組むために、関税など国境措置を守ることが必要だと訴えた。出席議員からは、再生産確保へ焦点の乳製品を含め環太平洋連携協定(TPP)を超える譲歩をしないようくぎを刺す意見が相次いだ。
同日の党日EU等経済協定対策本部の下に設置した農業分野の作業部会で農業関連の9団体に聴取。党側の要請で「攻め」と「守り」の両面で意見を募った。奥野会長は「新しい強い農業につくり変える端緒についたところだ」とし、慎重な対応を求めた。
出席議員からは「TPP合意の内容は、一線として絶対守らなければならない」(進藤金日子氏)、「TPP合意は岩盤だ。そこまで譲る必要はないとの気持ちで臨んでほしい」(藤木眞也氏)と、TPP合意を超えないよう求める声が相次いだ。
国産と競合するソフト系チーズについては、TPPで関税を守ったが、EUは自由化を強く求めており、「将来不安を与えない配慮を」(簗和生氏)、「重要品目が守られたかと野党に追及されないように交渉に臨んでほしい」(中川郁子氏)など政府に注文が相次いだ。
小泉進次郎農林部会長は政府に対し、「TPPに比べ関係者への情報提供の体制が薄い」と苦言を呈し、情報提供を促した。団体の意見を踏まえて、6月末に党としての対応方針をまとめる。
国境措置確保を 自民に全中など要請
JA全中など農業関係9団体は15日、自民党の日EU等経済協定対策本部の作業部会で、大詰めを迎える欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉について要請した。農業に打撃を与えないよう関税など必要な国境措置の確保を求めた。環太平洋連携協定(TPP)を上回る水準で譲歩しないよう訴える声も出た。
全中の奥野長衛会長は、畜産経営基盤の立て直しの途上であり「国境措置をしっかり守っていただかないと(農家の)態勢が取れない」と指摘。乳製品や豚肉など重要品目の再生産が可能になるよう国境措置の確保を求めた。
特に焦点の乳製品については、強い懸念が相次いだ。全中の飛田稔章酪農対策委員長は、乳製品が影響を受ければ北海道産生乳が飲用に回らざるを得ず、都府県酪農への影響が避けられないと懸念を訴えた。
森永利幸畜産対策委員長は「農家が懸念することがない断固たる交渉をお願いしたい」と述べた。日本酪農政治連盟も、貿易自由化交渉への将来不安が経営意欲を削いでいるとして、TPPの合意内容を最低限堅持するように求めた。
欧州産豚肉には低価格品もあり脅威になる。日本養豚協会は、関税引き下げがTPP水準であっても「EU産の豚肉が大量に入り国内価格が大きく押し下げられることを危惧している」とし、現在の差額関税制度が機能するよう求めた。全国肉牛事業協同組合も「TPPの合意内容がこれ以上譲れない一線」と強調した。
EU向けには牛肉以外の日本産畜産物の輸出が認められていないことから各団体は、輸出解禁に向けた協議を加速するよう政府に要請した。
この日の会合では全国農業会議所、日本食鳥協会、日本養鶏協会、日本乳業協会、日本園芸農協連合会も要請した。
【関連記事】 見出しをクリックすると記事が表示されます。
「日欧EPA大詰め 『合意ありき』許されぬ」 16日付「論説」
2017年06月16日
農地集積5割止まり 軒並み伸び悩み 数値目標進捗
農業の競争力強化に向けた数値目標(KPI)の実績が、軒並み伸び悩んでいる。農地の担い手への集積面積は5割にとどまるなど、このままでは8割としている目標の達成は難しい状況だ。成長戦略で掲げた目標達成のための具体策が十分成果を上げておらず、与党内からは見直しを求める声も出始めている。
2017年06月15日
自動車交渉が難航 与党内「国益見えぬ」批判 日欧EPA
日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉で、日本の“攻めの分野”である自動車などの工業製品の関税引き下げが難航している。EUは乗用車に10%の関税をかけており、撤廃が焦点。だが、日本は環太平洋連携協定(TPP)で米国に長期の関税維持を容認したため、EU側が早期の関税撤廃に難色を示している。一方で、日本の自動車関税は既に撤廃済みで、工業製品分野では交渉のカードがない状況。代わりに農産品の関税引き下げを迫られる構図に持ち込まれている。守り一辺倒の交渉には、与党からも「国益がない」との批判が上がっており、自動車分野が大きな鍵を握っている。
14日開かれた自民党の日EU等経済協定対策本部の作業部会で、経済産業省の担当者は「欧州は関税を持っているのに、我々は鉱工業品分野では関税がほとんどない。これを攻めなければならないので大変なことになっている」と交渉の難航を認めた。
EUは韓国との自由貿易協定(FTA)で、小型乗用車が5年、中大型乗用車が3年での関税撤廃に合意。2011年7月に適用が始まり、現在はともに関税が撤廃されている。
一方、日本はTPPで、米国が自動車にかけている2・5%の関税について、25年という長い撤廃期間を認めさせられた。
日EU交渉は、13日にペトリチオーネ首席交渉官が来日し、事務レベル協議が始まっているが、日本は自動車で、韓国とEUのFTA並みの5年程度の関税撤廃を要求。一方で、EU側はTPPの合意内容を盾に早期撤廃に抵抗しているという。
作業部会では出席議員から「そもそも不公平な状態からスタートしているのに(農業など)日本の守りの分野だけ関税撤廃のターゲットにされるのでは割に合わない」といった意見が相次いだ。これに対し、経産省の担当者は「『不平等条約』を一掃する意気込みで臨みたい」と応える一方、「(EUを)交渉の土台に乗せることがわれわれの『攻め』だ」とも述べた。
経産省によると、日本からEUへの輸出額の7割を占める品目が有税なのに対し、EUからの輸入は7割超が無税。EUの関税徴収額は日本の2倍と大きな開きがある。日本はこうした不平等の解消を主張するが、TPPでの大幅な譲歩が裏目に出て、交渉が行き詰まっている。
自民党農林幹部の1人は「自動車関税は即時撤廃ですら割に合わないのに、交渉するだけで満足しているようでは話にならない。経済外交の失敗の歴史のつけを農業が払わされてはたまらない」と苦言を呈する。
2017年06月15日