香水を使ったわけでもないのにさりげなく、優しい香りに包まれる――そんなうれしい効果で、女性を中心に人気を集めている「香り系柔軟剤」。この香り系柔軟剤ブームは2010年ごろから火が付き、2016年現在では1100億円を超える大きな市場になっているという。
特に人気なのは、衣類にわざと香りを残して香り付けする「高残香」タイプ。カプセルに匂いを閉じ込めて香りを長時間楽しめるようにしたり、汗や体温で香りを発するなどの様々な工夫がなされている。
こうした香り系柔軟剤の人気はますます高まっていて、さまざまなメーカーの柔軟剤をそろえて自分好みに香りをブレンドするという人も現れるほど。柔軟剤の香りが好きだからと、適量を無視して大量に使う人もいるという。
けれど「香りブーム」が高まるにつれて、国民生活センターには多くの苦情が寄せられるようになった。そのほとんどが、「近所の洗濯物から香る柔軟剤の匂いがきつすぎてめまいや頭痛がする」「もらいものの柔軟剤を使ったらせきが止まらなくなった」などの健康被害に関するものだ。
自分にはいい香りでも…
香り系柔軟剤の香りは「香料」という化学物質によるもの。「匂い」とは香り成分が揮発(気体として空気中に遊離すること)して、鼻から体内に入り込んだときに感じ取るものだ。だから「匂いを感じている」ということは、体内に「香料」という化学物質を吸い込んでいるということになる。
柔軟剤などに使われている香料の多くは人間に対してほぼ安全なものだが、化学物質への適合性は人それぞれ。吸い込んですぐに気分が悪くなったり、めまいや頭痛、嘔吐などの症状を引き起こす場合もある。ちなみに「天然香料」でも同じことが起こるため、天然だからと安心はできない。
しかも匂いの恐ろしいところは、「否が応でも周囲の人にも影響を与えてしまう」ということ。たとえ自分にとってはよい匂いでも、隣に座っている人にとってはめまいや頭痛を引き起こす“有毒”なものということもありうるのだ。
アレルギーになることも
こうした健康問題は必ずしも他人事ではない。香料を長くたくさん吸い込み続けると、たとえその匂いが自分にとってとても心地よいものだったとしても、突然くしゃみや頭痛、めまい、鼻水、皮膚のかゆみなどの「アレルギー」の症状を引き起こすことがある。
生まれつき体質に合わないものをアレルギーと呼ぶことが多いけれど、後天的に発症することもある。本来、人間の化学物質への耐性は一定の限界値が備わっていて、その限界値を超えなければ吸い込んでも問題はない。
けれどこの値を超えて吸い込んでしまうと、その物質は突然アレルギー物質となり、ほんの少し吸っただけでアレルギー症状が出るようになる。これは日本人になじみ深い花粉症と同じメカニズムで、香料も限界値を超えると突然アレルギーになってしまう。
特に嗅覚には「順応」という性質があり、同じ匂いをかぎ続けると段々とその匂いに慣れて感じにくくなる。だから「好きな匂いをいつも感じていたい」と徐々に香料の量が増えてしまい、香りへの苦情やアレルギーとなるケースが増えているのだ。
香りのローテーションを
香料の被害を防ぎながら香りを楽しむにはどうしたらいいのか? そのためには、「同じ柔軟剤をあまり長く使い続けない」ことが重要だ。
柔軟剤の適量を守って、できるだけ使う量を少なめに抑えるというのは当たり前だけれど、それでも同じものをずっと使い続けると限界値を超えてしまう。だから1本使い切ったら、別の香りのタイプに変えて限界値を超えないようにすれば、アレルギーが防げる。
また一度使ったものは二度と使えないというわけではなく、しばらく経てば限界値はリセットされるので、再び安全に使えるようになる。こうすると匂いの順応も起こりにくく、毎回香りを新鮮に感じることができるし、さまざまな香りを楽しむこともできる。2~3種類好きなものを選んでおいて、それをローテーションして使用するのもお勧め。
こうした問題は柔軟剤だけではなく、香水やファブリックミスト、ルームフレグランスやアロマ、車の芳香剤など「香料」をメインに使っている製品でも同じこと。ただ楽しむだけでなく、今後は楽しみ方にも注意してほしい。