仏下院議会選 マクロン新党が単独過半数確保 投票率は過去最低

仏下院議会選 マクロン新党が単独過半数確保 投票率は過去最低
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フランスの議会下院の選挙で、マクロン大統領の新党「共和国前進」が単独で過半数の議席を確保し、フィリップ首相は「国民は怒りでなく希望を、内向きな志向ではなく信頼を選んだ」と述べ、国民の融和を進め政治の刷新に取り組む考えを示しました。
フランスの議会下院にあたる国民議会の選挙は、先週の1回目の投票に続いて、18日、上位の候補者による決選投票が行われました。開票の結果、定数577議席のうち、マクロン大統領の新党「共和国前進」が308議席を獲得して単独で過半数を確保し、選挙協力している中道政党と合わせ350議席を獲得しました。

一方、これまで政権を交互に担ってきた中道右派の共和党は113議席、中道左派の社会党は29議席と大幅に議席を減らし、先の大統領選挙で躍進した極右政党・国民戦線も8議席にとどまりました。

「共和国前進」はマクロン大統領が立ち上げた新党で、中道政党と合わせて500を超える選挙区に候補者を擁立し、その半数は政治経験のない一般の市民でした。議会に支持母体を持たなかったマクロン大統領は、新党が議会の過半数の議席を確保したことで、安定した政権基盤を持つことになります。

フィリップ首相は記者会見で、「国民は怒りでなく希望を、内向きな志向ではなく信頼を選んだ。1年前には誰1人として政治がこれほど変わるとは想像していなかった」と述べ、国民の融和を進め政治の刷新に取り組む考えを示しました。

一方で、決選投票の投票率は過去最低の42%余りにとどまり、野党からは「政権が国民の信任を得たとはいえない」といった批判も相次いでおり、マクロン政権は今後、具体的な成果を上げて国民の信頼を勝ち取ることが課題となりそうです。

「フランスに新たな可能性」

マクロン大統領の新党「共和国前進」のバルバルー暫定代表は声明を発表し、「われわれが議会の過半数を確保したことは、フランスに新たな可能性をもたらすものだ。第5共和制の下で国民議会は初めて徹底的に刷新され、より若く力強く多様化することになった。この勝利を責任感と謙虚さを持って受け入れたい。大統領選挙と議会選挙を経て、私たちの運動の歴史は新たな段階に入る」としています。

新党の候補者はほぼ半数が政治経験なし

マクロン大統領の新党「共和国前進」は、これまで大統領が率いてきた政治運動「前進」を政党として組織し直したものです。

マクロン大統領は去年4月、大統領選挙に向けて草の根の政治運動「前進」を立ち上げ、「左派でも右派でもない新しい政治を目指す」として、支持を広げました。

新党「共和国前進」も、大統領に賛同する候補者を幅広く公募し、選挙協力する中道政党と合わせて530余りの選挙区で候補者を擁立しました。

候補者は男女がほぼ同数で、大半が大統領の選挙運動を支えた運動員ですが、その半数は政治経験のない市民です。

このため「共和国前進」には、既成の政治を刷新することへの期待が高まる一方で、議員の政治経験の不足からどこまで具体的な成果を上げられるのか、疑問視する声も上がっています。

下院での多数派形成が政権安定への鍵

1958年に成立したフランス第5共和制の下で、大統領は首相の任命権や議会の解散権、国際協定の承認など、内政から外交に至るまで強い権限を持ち、軍の最高司令官や国防・国家安全保障会議の議長も務めます。

ただ、強大な権限を持つ大統領にとっても、議会下院にあたる国民議会で大統領を支持する勢力が多数派を形成できるかどうかが政権を安定させるうえで鍵を握っています。国民議会は大統領が発足させた内閣に対する不信任動議を決議することができるため、議会の構成が大統領の政権運営を大きく左右するのです。

第5共和制の下、大統領を支持する勢力が国民議会で最も多くの議席を獲得したのは2002年のシラク大統領のときで、大統領の中道右派政党が63%余りの議席を占めました。

一方で、大統領の出身母体とは異なる勢力が議会の多数派となり、大統領が対立する政党の首相を任命せざるをえなくなり、いわゆる「保革共存政権」となったこともあります。1986年に左派のミッテラン大統領の下で右派のシラク内閣が、1997年に右派のシラク大統領の下で左派のジョスパン内閣が発足するなど、大統領と首相が対立してたびたび政治が停滞しました。

このため、今回の選挙でマクロン大統領の新党「共和国前進」が国民議会の議席をどこまで獲得できるかに、大きな関心が集まっているのです。

社会党カンバデリス党首「歴史的に低い投票率は危険な兆候」

フランスの前の政権与党で中道左派の社会党のカンバデリス党首は、議会で社会党が200議席以上を減らす見通しとなったことについて、「完敗だ。左派はすべてを見直して改革していかねばならない」と述べ、党首を辞任すると表明しました。その一方で、「歴史的に低い投票率は危険な兆候だ。マクロン大統領は圧勝してすべての権力を手にしたが、社会の現状を反映しているとは言えない。国民は対話を必要としている」と述べ、国民の幅広い支持を得ていないマクロン政権に権力が集中することに懸念を示しました。

また、社会党と交互に政権を担ってきた中道右派の共和党の選挙責任者を務めるバロワン上院議員も「わずかな有権者しか投票しなかったのは危険な兆候だ。社会をよくするためにわれわれは今後も最大野党として活動していく」と述べ、野党としてマクロン政権を厳しく監視していく姿勢を強調しました。

ルペン党首「議会で過半数得ても考え方は少数派」

先月の大統領選挙でマクロン大統領に敗れたあと、議会選挙に立候補していた極右政党の国民戦線のルペン党首は、みずからの当選が確実になったと伝えられたことを受けて記者会見し、支持者に感謝を表明する一方、政党として獲得する議席が伸び悩んだことについて、「大統領選挙であれだけの支持を得た国民戦線が政党として活動するのに十分な議席を得られないのは民主主義に反する」と述べ、選挙制度を小選挙区制から比例代表制に改めるべきだと訴えました。

また、「これほど多くの有権者が投票に行かなかったのは、政治不信の表れだ。マクロン大統領は議会で過半数を獲得しても、その考え方は少数派だということだ」と述べ、マクロン政権が国民の信任を得たわけではないという考えを強調しました。

メランション氏「国民はゼネスト状態に」

フランスの議会下院の選挙の結果を受けて、急進左派の政党のメランション氏が記者会見し、投票率が過去最低となる見通しであることを踏まえ、「今回の選挙で国民はゼネスト状態に突入したようなものだ」と述べ、マクロン政権が国民の支持を得ていないと批判しました。

そして、「投票を棄権する行動はエネルギーに満ちている。われわれはこれを攻撃的な力に変えていく」と述べ、急進左派が議会で一定の議席を占め発言力を持つことになったとして、政府に批判的な立場で臨む姿勢を強調しました。

首相「謙虚な姿勢で臨む」

マクロン大統領の新党「共和国前進」が単独で議会の過半数の議席を獲得する見通しになったことを受けて、フィリップ首相は記者会見し、「国民は怒りでなく希望を、悲観主義でなく楽観主義を、内向きな志向ではなく信頼を選んだ。初めて議員に選ばれた人たちの多様性や経験はフランスにとって意義深い。1年前には誰1人としてこれほど政治が変わるとは想像しなかった」と述べて、フランスの政治が大きく変化しているという認識を示しました。

そのうえで、「投票を棄権するのは民主主義にとって決してよいことではない。われわれが模範的な行動を示し確実に成功を収めてこそ、有権者の信頼が得られる。他者の声にも耳を傾ける必要がある。政府は謙虚な姿勢で、かつ確固とした意志をもって臨んでいく」と述べ、国民の信頼を獲得するため努力していく姿勢を強調しました。