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【社説】

週のはじめに考える 立法府の危機を憂う

 通常国会が、きょう閉会します。国民の暮らしのために建設的で活発な議論を行うべし、との期待はむなしく、浮き彫りになったのは立法府の危機です。

 国会終盤、与党側は驚くような挙に出ました。改正組織犯罪処罰法を会期内に成立させるため、参院法務委員会での採決を省いて、本会議で直接、可決、成立させる「中間報告」という手法です。

 国会法にある手続きで、過去にも例はありますが、今回のように与党(公明党)議員が委員長を務める場合では極めて異例です。

◆政府の下請け機関か

 この改正法は、犯罪を計画段階から処罰する「共謀罪」の趣旨を含み、罪を犯した「既遂」後に処罰する日本の刑事法の原則を根底から覆す内容の重要な法律です。

 官憲が善良な人々の内心に踏み込んで処罰し、人権を著しく侵害した戦前、戦中の治安維持法の復活との懸念も指摘されました。

 審議には慎重を期して、懸念が解消されない限り、廃案にすることも国会には必要でした。

 しかし、印象に残ったのは安倍晋三首相の「一強」の下、政府の言い分に唯々諾々と従う、下請け機関のような国会の姿です。

 国会議員から首相を選ぶ議院内閣制ですから、首相の意向を与党議員がある程度、尊重するのはあり得るとしても、度が過ぎれば三権分立は骨抜きになります。

 国会は国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関です。国会の決定に首相が従うことこそ、あるべき姿であり、憲法で権力を律する立憲主義なのです。

 首相はかつて行政府の長でありながら「私は立法府の長」と言い放ったことがありましたが、この国会でも、まるで首相や政府が国会を支配するかのような、不可解な国会運営が散見されました。

 その典型例が、先に述べた「共謀罪」法案の中間報告なのです。

◆国政調査の責任放棄

 この手法は野党の委員長が法案の採決を強硬に拒んだ場合や、本会議で直接、採決した方が適切な場合に、やむを得ず採られるのが通例です。国会法も「特に必要があるとき」と定めています。

 委員会での審議を打ち切り、議会としての責任を放棄するようなこうしたやり方に、与党側はなぜ踏み切ったのでしょう。立法府の自殺行為になるとの危機感が欠如していたのではないか。

 そもそも、金田勝年法相の不誠実な答弁を国会が延々と許してきたことも、理解に苦しみます。

 法務行政のトップがまともに答弁できないような法案が、なぜ国会を通ってしまうのか。ましてや人々の内心にまで踏み込んで処罰する恐れのある法案です。

 政府がいくら必要だと主張しても、国民の懸念が解消されなければ、突っぱねるのが立法府の責任のはずです。それとも与党には国民の懸念が届いていないのか、届いていても無視しているのか。

 二つの学校法人をめぐる問題も同様です。「森友学園」に対する格安での国有地売却問題と、「加計学園」による愛媛県今治市での獣医学部新設問題です。

 いずれの学園も、首相や昭恵夫人との親密な関係が明らかになっています。国有地売却や学部新設という、公平・公正であるべき行政判断に「首相の意向」が反映されたのか否かが問われています。

 国政調査権を有する国会には真相を徹底的に究明する責任があります。それが国民の期待です。

 野党の政府追及は当然ですが、与党側から真相を究明しようという意欲が伝わってこないのは、どうしてでしょう。

 そこに安倍官邸への配慮があるとしたら、国政調査権の行使という国会としての責任を放棄し、国民に背を向けているとしか思えません。

 こうした状況は、安倍首相自身にも責任があります。

 国会の委員会で、二〇二〇年までに憲法九条を改正する考えを表明した真意を問われた首相は「読売新聞に書いてあるから、熟読していただきたい」と答弁を拒んだり、質問する野党議員に自席から「いいかげんなことを言うんじゃないよ」とやじを飛ばしたり。

◆首相の言動にも原因

 自民党総裁でもある首相が、野党を軽んじる言動を繰り返すからこそ、与党内で国会軽視の風潮がはびこるのでしょう。

 三権分立に反して、国会が政府の下請け機関となり、内閣提出法案をただ成立させるだけの採決マシンに堕してしまったら、立法府の危機です。国会は言論の府であることを忘れてはならない。

 そして、その国会に議員を送り出したのは有権者自身であることも、私たちは深く心に留めなければなりません。立法府が危機にひんしているとしたら、私たち有権者も、その責任から逃れることはできないのです。

 

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